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黒き花々恋揺りし高嶺に咲くは百合の花

「げっ、沙桐……」

「滅茶苦茶歓迎してない事だけは分かるよ。ごめんな」

「いや、貴方はいいんだけど……隣の」

「えーひどーい。お客さんを区別するの? 電撃流したりなんかしないから安心していいのに」

 そう言えば梧はそんな風に首輪―――厳密には手首と太腿と足首だけど―――をつけられているのだったか。出し物がお化け屋敷になったのは出来るだけ露出を隠したい彼女なりの頑張り―――いや、アイデアを出して採用されたかは分からないけど。

 ペットにされた事情を公にすれば死ぬのは目に見えているし、俺はそれを守れない。言い訳の余地が彼女には必要だ。着替えをのぞき見でもしたら真相はともかくそいつが覗き魔だと言い張れるし、露出は少ない方がいい。

「でも私が嫌なら景君に向かってそんな声出さないと思うけどなー」

「だって……いつも誰かしら傍に居るから」

「まあまあ……そっちも中々人入ってるじゃないか。まだ一般人は来てないのに凄い人気だ」

「そう思うっ? 私もそう思った所。幾ら予算があってもこういうのってセンスとか技術者とか必要で、正直子供だましだと思うんだけど、なんか人気なの。私には分からないけど、でも良かったわ」

 だからか、梧が白いローブのような服を羽織っているのは。恐らく中で動く事になったらフードを被ってうらめしやーとやりたいのだと思う。その金髪は……まあ目立つが。

「教室を改築するってのは流石に出来ないから、出来るだけ迷宮ちっくにしたんだけど、キャストと慣れ合ってるのかしら。流石に出てくるの時間かかりすぎで後がつかえてるんだよね。だから人気に見えて実際は、そんな儲かっていなかったり」

 そう。詠奈もそれを危惧して出来るだけ回転率を上げるような工夫をしていたのだが、構造だけでは限界があった。女性はまだしも男性は詠奈を目当てにやってくる奴が確実に多くて、本人が自分の魅力を見誤っていたのだ。

 まるで都合よくメイド喫茶とお化け屋敷が繁盛しているように見えるが、実際は一般公開がまだだからと歩き回る生徒が多いだけだ。模擬店が多くなれば少しは散っていくだろう。

「友里ヱさん。どのくらい人呼んだんですか?」

「えー。結構来ると思うけどな。三〇〇人くらい」


「「え?」」


 梧と顔を見合わせて、声が重なる。

「ど、どうやってそんな……」

「梧ちゃんには言ってないんだっけ。私ってこれでも昔は知名度があったからさ。本当は使いたくないけど、あんまり人がこなくて詠奈様に機嫌損ねられても困るし」

「沢山人が来ても詠奈が困ると思うぞ。忙殺なんてしたらそれこそ……」

 と、そこまで言って口を噤まないといけなくなった。詠奈の友達の話は侍女達には周知されていないだろう。だってそれは王奉院の過去―――詠奈が詠奈になるまでの話だから、知っているなら俺はもっと早くに彼女の過去を掴めた筈だ。

「いや、何でもない」

「……ていうか他にはどんなお店があるの~?」

「俺が知る限りだと風船掬いとか的当てみたいな明らかに楽をしたいような模擬店もあったな。商品は予算があるせいで大分豪華だった気もするけど」

「お祭りみたいで楽しそうよね」

「後は普通にアイスクリーム屋とか、後なんか遊ぶの……体力自慢の生徒と競争みたいな? 俺が覚えてるのはそのくらいだな。料理教室みたいなのもあったっけ。生徒の創作料理を教えるんだと思うけど」

「うわ~流石に自由。詠奈様様って感じ」

「グラウンドの半分くらい使って鬼ごっこを催しにしてるクラスもあるよね! 楽しそう!」

 その殆どは現状機能していない。本番は一般公開からだ。ここまでの自由が許されるなら生徒の不満はどうしたって少ない。自分がやりたかったのに、は犯罪に抵触しなければ大体通ってしまう。諸々の懸念点は無視されるとして、想像の及ばない範囲に配慮しろというのは一介の高校生には酷だろう。

「知り合い特権でお化け屋敷に入れてもらおーと思ったけど、とっくに中が詰まってるなら無理だよね~。景君他の所へ行こうよ。もしかしたら何回か遊べるかもよ」

「……そうですね。じゃあな梧。お前のクラスもついでに忙殺されると思うけど頑張ってくれ」

「忙しいのは歓迎っ。だってその為に今日まで頑張って来たんだから!」

 ああ俺も、そんな風に無邪気に楽しめたら良かったのに。詠奈の事が気になって楽しめない。















 友里ヱさんの寒すぎる軽装はその端麗な容姿も相まって普通に人目を引いたが、それを気にしているのはどちらかというと俺だけであり、当人は素直にデートを楽しんでいた。

「カルタなんていい趣味してるねー。でもこれでお金取るのは流石にじゃない? 賞品とかあったらいい感じだと思う」

「さ、沙桐さん、この人何者ですか……?」

「んーと、友達。かな」

 カルタ部に楽々と勝利されるとは思っていなかった。見た目にそぐわず遊びが得意なようで、続くボードゲーム部でも用意した遊びは全て勝利。チェスでも将棋でもトランプでも、それに類似したカードゲームでも。

「つよ…………」

「まあまあって感じ。景君もルール教えたげるからやる? 私がサポートしてあげてもいいよん」

「こういうのって偶然性が存在しないって聞くからいいですよ。一体何手先まで見えてるんですか?」

「あ、それ俺も知りたい!」

 ボドゲ部の部員も興味を露わにしているが、友里ヱさんはあくまでへらへらした様子を貫いたまま頷いている。

「何手先なんて知らないよ~。ただ全体を俯瞰してるだけ。この手のゲームは好きだったから強いよ私~♪」

 最早デートというより遊び歩いているだけだが、当人が楽しいならそれでもいいか。部活としての意地か、暫く友里ヱさんは解放されなさそうなので俺は黙ってその場を後にした。そろそろ一般公開される時間帯だ。詠奈も少しは休んでいるだろうか。

 気になったので自分の教室に戻ろうと、その時だった。大きな布を抱えた詠奈が凄まじい勢いで階段を駆け上がっていき、屋上へと向かう瞬間を目撃したのだ。


 ―――は、は?


 しかも制服に着替えている。頭では状況の理解が追い付かずに、取り敢えず後を追おうと屋上まで上った。扉の開閉にはやたらと厳しい彼女も今は開け放したままだ。

 扉を抜けると、詠奈が二人居て。一人はメイド服を剥がされて下着姿になっている所だった。

「え、え、詠奈さん!? 何してるんですか!?」

「……あら、奇遇ね。景夜君。丁度良かった。この子、お願い出来るかしら」

「え、え、え? えっと……」

「疲労でダウンしたのよ。誰も居ない教室でダウンしてるから本当に焦っちゃった。業務は暫く引き継ぐわ。服はほら、私が着てる制服があるから着せてあげてね。それじゃあ」

「ちょっと待ってくださいって! ねえ!」

 詠奈さんは振り返る事もなく走り去ってしまった。布は詠奈を隠す為か、拉致監禁の前触れみたいな攫い方には俺も苦笑するしかない。

「……ああもう、しょうがないな」

 詠奈の下着姿なんて誰にも見られたくないし、本日二度目の着替えを行う。何故気絶しているのかは不明だが、お陰で非常に難しい事をさせられた。詠奈が動かないから袖を通しづらいのなんの。

「詠奈? 意識あるか?」

「…………ん」

「詠奈? 起きられるか? おーい。おーい」



「やめて…………取らないで……私の…………景夜……やだ、やだああああ……景夜を返してよぉぉ…………」



 魘されている。起こした方が良いだろう。寝言にも拘らず涙を流し、虚空に手を振り回しているのだ。

「詠奈。俺はここに居るから。大丈夫だって。起きろ。な? 一回、一回だけ」

 手を握って、顔を近づける。

「詠奈!」

「言う事聞くから……やめて……お願い………………彼に手を出しちゃ、駄目…………!」

 どれだけ声を掛けても反応しない。どうする? 何をすれば目覚めてくれる。悲しむ詠奈は見たくない。苦しむ詠奈なんて嬉しくない。

 

 どうすれば―――

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