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第2話 祓魔の一族2

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「昭和46年9月13日(月) 小学校で小5女児行方不明」(『毎朝新聞』地方面)

 ――〇〇県兜山市の市立第二小学校で、今月6日から、田上久美子さん(10歳)が行方不明になっている。田上さんは同日放課後、友人たちと校舎内で遊んでいたことが確認されているが、その後、行方が分からなくなった。警察では一緒に遊んでいた友人たちが何らかの事情を知っているものと見て話を聞くとともに、捜索活動を続けている。


「これって、私たちの学校……」

 新聞は50年前のものだから、すっかり黄ばんでボロボロになっている。それでも、記事はきちんと読むことができた。

「ああ、古い紙だから気を付けてね。乱暴に触ったら、そのままバラバラにちぎれちゃうから」

「あ、は、はい……」

 乙女は手に取った新聞をそっとちゃぶ台に下ろした。乙女の隣から、佳乃が新聞をのぞき込む。

 2枚目の新聞を広げる。こちらも、小学校で児童が行方不明になった事件の記事だった。しかし、1枚目の新聞が、紙面の片隅にある小さな記事だったのに対し、2枚目の新聞では学校の写真と、行方不明になった子供の顔写真が掲載され、扱いがずっと大きくなっていた。


「昭和46年9月29日(水) 小学校でまたも行方不明」(『毎朝新聞』社会面)

 ――〇〇県兜山市の市立第二小学校で、27日から奈良明恵さん(11歳)が行方不明になっている。奈良さんは同日放課後、体育館で複数の友人と一緒にいるのが目撃されているが、その後、行方が分からなくなった。同校では今月6日から別の5年生の児童が行方不明になっており、警察で関連を調べている。同校の校長は「児童と保護者の皆様に多大なる不安とご迷惑をお掛けし、心より申し訳なく思う。警察と協力し、一日も早く二人が見つかるよう取り組んでいきたい」と話した。


 その次に出てきたのは、新聞ではなく、週刊誌の記事だった。

 兜山第二小学校の写真のほか、ランドセルを背負った子供(目の部分に黒線が入って、いちおう、顔は分からないようになっている)が学校を行き来する写真などが何枚も使われている。


「昭和46年11月8日(月) 小学校連続行方不明事件 背景にいじめ問題か」(週刊誌)

 ――兜山市内の小学校で相次いで児童が行方不明になっている事件の背景に、児童間のいじめが関連するのではないか。インタビューに答えた同校の関係者は、匿名とくめいを条件に、そう語った。

 行方不明になった女子児童がいじめを行っていたという証言は、これまでにも複数の児童から寄せられていた。しかし、学校と市教育委員会は事実関係を確認できていないとして、明確な回答を拒んでいる。


 最後に出てきたのは、巨大な見出しを派手な色使いで強調したスポーツ新聞だった。


「昭和46年11月15日(月) 兜山小行方不明事件 子供たちは鏡の中に吸い込まれた!」(スポーツ新聞)

 ――現在、兜山市内を騒がせている第二小の〝神隠し〟事件。教員や児童が行き来する放課後の校舎内で、児童が突然行方不明になるという、なんとも不可解な事件である。警察は事件、事故の両面から捜査を続けているが、いまだ詳細は不明のままだ。

 しかし本紙はこの事件に関し、大手マスコミが決して報道することのできないであろう、一大スクープを入手した。

 なんと、行方不明になった児童は、複数の児童の目の前で、鏡の中に吸い込まれたのだという。

 その瞬間を目撃した児童たちが、これまで証言を拒んできたのは、いくつかの理由がある。

 まず一つは、あまりにも不可解かつ常識外れで、科学的、合理的な説明がつかないこと。本紙記者も、最初はなかなかこの話を信じることができなかった。

 また、行方不明になった二人の児童が、いずれもいじめグループのリーダーであり、目撃したのが、いじめグループのメンバーであったことも、関連するだろう。いじめグループのメンバーだった児童の一人は、これまで証言を拒んできた理由について、「自分たちのやっていたことが先生にばれると、成績や進学に影響があると思った」と話している。

 本紙では第二小に当該の鏡について取材を申し込んだが、「児童の学校生活に影響を及ぼす」との理由から、残念ながら断られている。


「さて……。読んだね? どう思った?」

 乙女たちが全ての記事に目を通すまで、秋子はじっくりと時間をかけて待っていた。

「私たちの学校に、こんな話があったなんて……。知らなかったです」

 佳乃の言葉に、秋子は軽く首を振る。

「知らなくて当然よ。何しろ、もう50年も前の話だからね。あなたたちのお父さんやお母さんでさえ、まだ生まれてなかったころじゃない?」

「だけど、その……。この話と、学校の七不思議になんの関係があるんですか?」

 乙女が尋ねる。

「あら、分からない? 学校の七不思議の一つ。『鏡の前に立ってはいけない』は、これが原因なのよ。鏡の前に立つと、中に引きずり込まれる。だから、『鏡の前に立ってはいけない』となったわけ」

「そうなんだ……。じゃあ、鏡の中に引きずり込まれた人は、どうなったんですか?」

 乙女の質問に、秋子は険しい表情で首を振った。

「……センセには言いづらいことやから、ワシが言うたる。鏡の中に引きずり込まれた子は、いまだに鏡の中や。たすける方法は、50年たった今も見つかってへん」

 シュテンが、秋子の代わりに答えた。

「そ、そんな……」

「それで、この事件は結局、どうなったんですか?」

 佳乃の質問に、秋子は最後の新聞を広げた。


「昭和47年3月15日(水) 小学校児童連続消失事件 捜査打ち切りへ」

 ――兜山市警察署はこのほど、同市立第二小学校で児童二人の行方が分からなくなっている事件について、捜査を打ち切ると発表した。

 同署はこれまで、学校周辺に外部の人間が出入りしていた痕跡がないことから、校内の関係者が事情を知っているものと見て聞き取りを続けてきた。加えて、児童が何らかの事件に巻き込まれた可能性も考慮し、市内全域に範囲を広げて捜査を続けてきた。

 民間の専門家と協力して捜査の結果、発生から半年を経て、事件性は見いだせないとの結論に至り、捜査を打ち切る判断を下した。

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