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第3話 調査開始!5


 5


「……と、今日分かったことは、こんな感じです」

 爽一は話を締めくくった。

「みどや」の奥の小部屋である。今日は怪しげなお香などは焚かれていないようだ。

 爽一、乙女、佳乃の向かいに、ちゃぶ台を挟んで秋子が座っている。秋子の前には熱いお茶の入った湯呑が、乙女と佳乃の前にはビン入りのジュースと、お菓子を山盛りに積み上げた盛鉢が置いてあった。すでに乙女は爽一が話している間に二、三個のお菓子を頬張っており、ご満悦である。

「じゃあ、明日は体育館の調査ね。分かっていると思うけど、危ないと思ったら無理に調査を続けようとしないでね」

「分かってます。あと、ばあちゃん……」

「付喪神のことなら、ソーちゃん、頑張って自分で調べるように。それも含めて『調査』なんだからね」

「うぐ。……はーい」

「ある程度、理由の見当はついているわ。だけど、それが事実かどうか、私にも確証はないの。かといって、私が一つひとつの事案について調査するわけにはいかないから、頑張って調べておいで。分からないことがあれば、シュテンに聞くのがいいわね」

「えーっ、センセ、そんな無茶ブリされても、ワシ難しいコト分からへんでー?」

 フニャフニャと不思議な踊りを踊りながらトボケるシュテン。秋子はそれを完全に無視して、

「念のために、あなたたちにこれを渡しておきます」

と言って、一枚の札を取り出した。

「封印の札よ。誰かがはがしたりしていなければ、姿見には、これと同じようなものが貼ってあるはず。これを目印にして、探すといいわ」

 乙女は札を受け取ると、しげしげと眺めた。大人用のスマホよりちょっと大きいぐらいの札は、和紙を裁断して作ってあり、普段、学校などで配られるプリント用紙に比べると、ずっと分厚い。表面にはぐにゃぐにゃした文字と絵柄の組み合わさった不思議な模様が、赤と黒の墨で描かれていた。

「実際に祓魔師が物怪の封印に使っているもので、おもちゃじゃないからね。簡単に破れるようなものではないけれど、だからといって、乱暴に扱わないように」

「はい、気をつけます」

 乙女は神妙にうなずいた。


 その日の夜。「みどや」の二階のこぢんまりとした自分の部屋で、布団を敷きながら爽一はシュテンに尋ねた。

「なあ、シュテン。さっきはトボケてたけど、付喪神のこと、お前なら分かってるんじゃないのか?」

 シュテンはすでに自分用の小さな布団を敷き終え、掛け布団の上に寝転がっている。

「……分かると言えば分かるけど、分からんと言えば分からん」

「どういうことだよ」

「あの学校自体が、得体の知れんエネルギーであふれとるのは事実や。あそこにずっと住んどったら、ワシもめっちゃパワーアップできそうな気がする。あんなエネルギーを四六時中浴び続けとったら、20年かそこらで付喪神になっても不思議やない。

 せやけど、そのエネルギーがどこから来てるのかが分からへんねん。

 なんであんな普通の、どこにでもあるような小学校に、そんな規格外のエネルギーがあふれてんのか、その見当がつかへん。鏡の鬼と関係があるのか、ないのか、それも分からへん」

「そっか……。たとえばの話だけど、あの学校で昔、たくさんの人が死んでるとか、そんな可能性はないかな?」

「分からんけど、ない、とは言い切れんなあ。そんな特別級の怨念がおったら、付喪神も出てくるかもしれん。まあ、それも含めて明日、お嬢ちゃんたちと調べてみたらエエんちゃうか」

 そこまで言ったところで、シュテンはむくりと布団の上に体を起こした。

「ところで、爽一。ちょっと聞いてもエエか?」

「なんだよ、急に」

「乙女ちゃんと佳乃ちゃん、爽一はどっちが好みやねん?」

「んなっ!?」

「活発で元気いっぱい、ちょっとおとぼけ、でもときどき鋭い乙女ちゃんと、ほんわかおっとりタイプの佳乃ちゃん。見た目はどっちも甲乙つけられへんぐらいかわいらしいし、爽一はどっちのほうが好きなんかなって」

「どっちが好きとか、そんなこと考えてないっ」

「えー、テレんでもエエやん。今日一日だけでも、ずっと一緒に動いて、ずいぶん話もしとったやん。ちょっとぐらい、この子エエな、とか思わんかった?

「そっ、そんなこと考えてる場合じゃないだろ、任務中なんだからっ」

「任務、任務って言うけどやな、センセも言うてたやろ。爽一には、学校で一緒に過ごす友達も必要なんやって。爽一はちょっとマジメ過ぎんねん」

「友達は友達だろっ。どっちが好きとか、かわいいとか、そんなの関係ないだろっ!」

「そうなん? でも好みのタイプとかあるやん? ちょっとぐらい恋バナに付き合ってくれてもバチ当たらへんで」

「うるさいっ。もう寝るぞっ」

 爽一は部屋の電気を消し、首元までスッポリと布団をかぶる。

「えー、ごまかさんでもエエのに。爽一、耳赤いで?」

「うるさいっ!」

 爽一は布団から飛び起きると、学習机の引き出しを開けてタコ糸を取り出した。

「あっ、いや、やめ、ソーちゃん、やめっ、ごめんって!」

 嫌がるシュテンにタコ糸を無造作に巻きつけ、グルグルと縛り上げる。巻きつけられたタコ糸のせいで、ギリシャ文字の「ξ(クサイ)」のような形になったシュテンをタンスの引き出しに放り込んで閉じ込める。

「おーい、ソーちゃーん。出してぇなー」

「うるさいっ、この、呪いのぬいぐるみっ! エロオヤジ! ヨモギ頭!」

 しばらくの間、タンスの奥からたすけを求めるシュテンの声が聞こえていたが、爽一は無視して眠りについた。

 どうせ翌朝には、シュテンは何ごともなかったかのようにタコ糸を外し、引き出しから抜け出して、自分の布団で寝ているのだ。爽一がまったく容赦も手加減もなく、シュテンにこうした仕打ちをしているのは、これまでにも同様のことが何度も繰り返されているためなのだった。

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