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第3話 調査開始!4


 4


「……もう出てきたのかよ!?」

 驚きの声を上げる爽一。乙女と佳乃は、驚きすぎて声も出せずにいた。

 三人の目の前で、ヨレヨレの白いタンクトップに白いステテコ、茶色い腹巻をつけた小さいオジサンが、ごみ箱の陰から廊下にヒョコヒョコと出てきた。

「マッタク、最近ノ子供ハ食ベ物ヲ粗末ニシテ……」

 ぶつくさと文句を言いながら、小さいオジサンは廊下にかがみ込み、まき散らされたピーナツの欠片を拾っては食べ、食べては拾っている。

「おい、オッサン」

 シュテンが声を掛けた。小さいオジサンはシュテンのほうを見ると、

「ウヒャア!!!」

 驚いて飛び上がり、口いっぱい頬張っていたピーナツを全部吹き出した。

「……うわ、汚いっ」

 思わずつぶやく乙女。一方はヨレヨレの下着姿のオジサンで、一方はボサボサ頭に半裸の鬼である。それだけでも「清潔感のある姿」から、かけ離れた見た目なのに、食べかけのピーナツを吐き出したのだから、見苦しいことこの上ない。

 そんな乙女たちの嫌悪感をよそに、小さいオジサンはシュテンに向かって一瞬で地面に正座し、両手をついて、地面につくまで深々と頭を下げていた。絵に描いたような正統派「ザ・土下座」スタイルである。

「スミマセン! 許シテクダサイ! 食ベナイデ! 食ベナイデ!」

 土下座をして、ものすごい勢いで頭を上げ下げする小さいオジサンを、シュテンはあきれ顔で見下ろしている

「食べへんって。オッサンなんか食うたら腹壊すやん。どう見てもマズそうやし」

 それを聞いた乙女が、爽一に尋ねた。

「……ねえ、御堂君。あんなこと言ってるけど、シュテンって、おいしそうな人だったら食べるの?」

「食べないよ。あいつの主食、キノコと野菜。一番の好物はひまわりの種だし」

「そうなんだ……。い、意外と草食系なんだね……」

 昔、放送されていたテレビアニメのハムスターみたいだな、とチラリと思う。

「食ベナイデ! 許シテクダサイ! 食ベナイデ!」

「食べへんって。なあ、オッサン、ちょっと話を??」

「食ベナイデ! モウイタズラシマセン! ダカラ食ベナ??」

「話を聞けっちゅーてんねんッッ!」

 シュテンが怒鳴って小さいオジサンの頭を平手で叩く。バシッと乾いた音がするかと思いきや、ポムン、と気の抜けた音が響いた。

 まったく痛そうには見えなかったが、それでも小さいオジサンには効果があったようだ。

「ウヒィ!」

 小さいオジサンは悲鳴を上げて立ち上がり、今度は直立不動の姿勢になった。

「なんやねんな、オッサン……。まあエエわ、お前、この学校のこと詳しいやろ? ちょっと教えてほしいことがあんねん」

「ハイッ、何デモ聞イテクダサイッ!」

「ワシら、鏡を探してんねん。どこにあるか知らん?」

「ハイッ、鏡ナラ体育館ニアリマスッ!」

「……それは体育館の壁に張ってある、大きいヤツやろ? そんなんやのうて、ワシらが探してんのは、ヒト一人が映るくらいの姿見やねん」

「コノ学校ニアル鏡ハ、体育館ノモノダケデアリマスッ」

「ホンマに?」

「本当ニ、本当デアリマスッ!」

「オッサンが知らんだけで、実はほかにもあるんとちゃうん?」

「コノ校舎内ニハ、鏡ハナイデアリマスッ!」

「ふーん……」

 シュテンは口を閉じると、小さいオジサンの顔をじいっと覗き込んだ。

「……………………」

 しばらく黙ったまま見つめ合っていたが、やがて爽一のほうに向き直り、ため息をついた。

「爽一。コイツ、ウソは言ってないわ。多分、ホンマに校舎の中に鏡はないで」

「そっか。シュテンが言うんだったら、間違いないんだろうな。じゃあやっぱり、体育館を調べてみないといけないな」

 爽一がそう言ったとき、校内放送でクラシック音楽が流れ始めた。下校の合図だ。

「もう、こんな時間か……。じゃあ、調査の続きは明日だな。帰ろうか」

「あっ、私たち、ランドセル取ってくるね。御堂君、私のオヤツのこと、忘れてないよね? 一人で先に帰っちゃダメだよー!」

「分かってるって」

 急ぎ足で教室へ向かう乙女と佳乃。その後ろ姿を、爽一は苦笑交じりに眺めていた。

「ちょっと賑やかやけど、エエ子たちやん。仲良くなれて良かったな、爽一」

 ニコニコとほほ笑みながら、シュテンが言った。

「は? べ、別に仲良くないしっ。調査に協力してもらってるだけだっ。変なこと言うなよっ」

 爽一はムキになって言い返す。

「ええやんええやん。学舎まなびやで共に過ごす同胞はらからとのひと時。センセも言うてたけど、そういうの大事やで」

「だから、保護者面すんなって……」

 うんざりしたように言うと、爽一は窓の外に目をやる。校庭の隅の桜の木から、花びらがヒラヒラと舞い落ちているのがよく見えた。

「どうせ、仲良くなったところで??」

 ポツンとつぶやく。その横顔はどこか寂しげだった。シュテンはそれ以上何も言わず、ランドセルによじ登ろうとしたところで、爽一に襟首をつかまれた。

「なっ、何すんねん、爽一!」

「……シュテン。ランドセルに入るんだったら、体を洗ってからにしろ。汚いから」

 シュテンの体には、ついさっき、小さいオジサンが吹き出したピーナツの欠片が無数に張りついていたのだった。


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