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愛と正義の魔王様  作者: たじま
9/17

9、魔王様と新しいお仲間 ~第一の従者がリンで、第一の召使(サーヴァント)いがフィールだろ?なら、私は第一の下僕ダな!! それでいいんだ……? (苦笑い)~


「カンパイ!」

「「カンパーイ!!」」



カルの音頭に合わせ、全員が笑顔でグラスを掲げる。

決闘も勝利に終わり、晴れて騎士の称号も手に入れた。

その祝いの席をミランダ邸にて設けたのだ。


カルがグラスのドリンクを一気に飲み干す。

するとフィールがチェイサーを傾け、再びジュースを満たしてくれた。

それに軽く礼を言い、カルが改めてミランダへと向き直る。




「それより、母上……申し訳ありませんでした。母上に心配をかけたくなく、母上には内密で事を運びました。お許しください」

「薄々気づいてましたけど、カルがいるなら大丈夫だと思って放っておきました。それに、私もこの屋敷を出なくて済んで、実はホッとしています。ありがとう、カル」

「いえ、そう言っていただけると恐縮です。本当は陛下の温情に擦れば決闘も不要だったのですが、我々の力を見せる絶好の機会でしたので」

「リンベルに聞きましたよ。皆さん、騎士の称号、本当におめでとうございます」


「「ありがとうございます、ミランダ様」」


「とは言え……全然戦わなかった私達は少し心苦しいがな」

「ですね」

「今回はカル様の期待に応えられませんでしたが、なに、また機会は訪れます! その時までに、せめてバルビエッタの腕前には追い付いて見せましょう! と、心に誓う私です!」


「その意気だ、エレノア。と言う訳で、俺とのパスの件だが、このまま繋げたままとする。指輪もそのまま嵌めていろ」


「え?」

「良いんですか!?」


「俺のパス供給込みでの騎士だ。とうぜんだろう」


「「ありがとうございます、カル様!」」




カルの温情に皆が益々笑顔になる。

またそれと同時に、薔薇の騎士団に恥じぬよう、魔力には極力頼らず、技の研鑽に努めよう。

そう心に誓うバルビエッタ達だった。





「それで、だ……クレア?」

「はい?」



話の一段落ついたところで、カルがポケットから何かを取り出した。

そして隣に座るクレアにスッと差し出す。



「お前には、改めてこれをやろう……」

「え……?」



それは、クレアの為に作った新しい指輪だった。

前と違うのは、小さいながらも輝く宝石が五粒、嵌められている事だった。



「これをいただけるんですか!?」

クレアが満面の笑顔で指輪を握りしめる。



「指輪がインフレを起こしてるからな。それに薬指に嵌めるにはこれくらい飾りがあってもいいだろう」

「はい! ありがとうございます、カル様!!」


「あらあら、結婚指輪ですか、カル?」

「まぁ、似たようなものです。式はまだですが……」

「えへへ……」



クレアの手を取ったカルがその薬指に指輪を嵌めてやると、その指輪を眺めながらクレアがにへらと笑った。

もう幸せ過ぎて、笑顔を抑えられないらしい。

そんな二人を羨ましく思う一同だった。




「ところで、カル様?」

「なんだ?」

「そっちのポケットに入ってるのはなんですか?」

「なに!? 」




にこにこ笑顔のクレアに問いかけられ、カルの肩がビクリと震えた。

指輪を取り出す時、確かめるような素振りをしていたのをしっかり見られていたのだろう。




「いや、これはだな……」


珍しくカルが慌てる。

それはまるで、浮気のバレた夫の顔だった。



「ふふ……そっちは、リンの指輪ですね?」



「「え?」」



今度はカルだけでなく、リンベルまで驚いてクレアを見た。

まったく予想だにしていなかったのだ。




「なんで分かった?」

「お優しいカル様の事ですので、私に新しいのを下さる以上、本契約のリンにもあるんだろうな~と思いました」

「そうか……」

「カル様……私はそうやって気配りのできるカル様が大好きです。だから私に遠慮はいりません。皆の前で、ちゃんとリンに渡してあげてください」

「あ、あぁ……」



笑顔のクレアに背中を押され、カルが立ち上がる。

そしてテーブルを迂回し、向かい側に座るリンベルの元へと行くと、ポケットから件の指輪を取り出して見せた。

それは一見すると今までと同じだが、良く見れば指輪に沿って紅いラインが螺旋状に入った、手の込んだ作りだった。




「その、リンにはこれだ。さすがにクレアと同等はやれんが、他とはちょっと差別化してみた」


「ありがとう、カル! 一生大事にする!!」




感極まったリンベルが、指輪を握り締めた。

それをクレアやミランダ、バルビエッタ達も嬉しそうに眺める。

今回の一連の騒動も、これでやっと終わりを告げた。

そんな満足感が皆にあった。




「うんウん、万事めでたしめでたしダな!あははハは!」

「「…………」」


「カル様? そろそろお聞きしてもよろしいですか?」

「……こいつの事か?」

「はい」

「何と言うか……拾ってきたと言うか、勝手に付いて来たんだが……」







「……と、言う訳だ」



「なんだ、お間抜けさんか」


「お間抜け言うナ!! 緻密な計算のモとに行動した結果、運命に翻弄されテこうなったのダ!!」

「呪いの類いは聞かないって、わざわざカルが教えてくれたのにケンカを売った。もう、お間抜けさん以外に呼びようがない」

「う~ん、言われテみればそうだな。あはハ!」

「と言うか、あなた……私達と普通に話してるけど、あなたは客人でも何でもないと分かった。ならばあなたの居場所はあそこ」


「あそこ……?」


「うん、あそこ」

「あそこっテ、壁だゾ?」

「そう。あなたには私達の会話に混ざる権利はない。あなたはあそこで、なんだって!とか、バカな!ってリアクションだけしてればいい」


「マジか!?」


「そうそう、その調子」

「リンベル、ちょっと可哀想じゃないか?」

「そんな事はない」


「なんだっテ!?」


「…………」

「…………」


「そもそも、部外者なのに部屋の中に入れてあげてるだけでも、破格の待遇」


「そんな、バかな!?」


「…………」

「…………」


「あなた、ちょっとうるさい」

「ダろうな!」


「…………」

「…………」



にこ。

にこ。



「業火炎帝剣、抜と……」


「分かっタ分かっタ! それがヤバいのは分かっタから落ち着け!!」



「リン、からかうのはそれくらいにしてあげたら?」

「……はぁ……分かった。そうする」


「なんト!? 私はカらかわれてたのか!?」


「からかったというより、あまりに馴れ馴れしかったから……まぁ、距離感が掴めなかったのは確か。ごめんなさい」

「そうか。まぁ、気にするな。あはハ!」

「えーと、ところでピルピーチさん?」


「確か……あだ名はピッピだったな」

「ふっ……その名は、故郷に捨ててキたのダ!」


「じゃあ、ピルピーかな?」

「レンレンとか?」

「レンレン! うん、それがいイ!」

「じゃあ、レンレンで。それで……レンレンはこれからどうするの?」


「それなんだが……母上、ここで飼っていただけませんか?」


「飼うってナンだ!? てか、ますターと一緒じゃないのか!?」


「家にはペットを飼う余裕がない。家に来るなら、お前の寝床は玄関の外だ」

「それはヤだ!」


「ふふ、別に構いませんよ」

「「ミランダ様!?」」


「いくらなんでも不用心すぎませんか?」

「カルの紹介ですもの、その辺は大丈夫でしょう。ねぇ、カル?」


「はい」


「安心シろ。私はお前達より強いかラ、飼い犬にはもってこいダぞ!」


「飼い犬は受け入れてるんだ……?」

クレアとマルグレーテが苦笑いを浮かべる。

だが、今の一言を笑って済ませられないのは他の面々だ。



「それは聞き捨てならんな」

「バルビエッタに同じ。下手に出るんじゃなかった。そこまで言うなら、腕を見せてあげる」



「ふふん、どうヤら私の見せ場のようダな!」



そう言ってナプキンで上品に口を拭い、レンレンカブレがゆっくりと立ち上がった。

そして、バッ!!とマントを翻し、



「きゃあ!?」

「ななな、なにやってるの!?」



一緒に服も脱ぎ捨てた。



「ノぉ!? これハちがうんだ!? 」

「なにが違うんだ痴女!!」

「変態!!」



「聞け! これには海よりも深い訳ガ!!」

「パンツを握り締めて力説するな!!」

「早くそれを履け!!」



「ち、違うのダ!! これは……これは……わーーん! ますターのせいダぞーーーーーーーーーッ!!」



ついにテンパったレンレンカブレはその場にペタンとしゃがむと、ついにはわんわんと泣きだすのだった。









「呪い?」

「さっきの行動がカル様の意に沿わなかったって事ですね」



クレアやリンベル達が苦笑いを浮かべる。

本人の意識しないうちに一瞬で全裸になるのだ、ちょっと可哀想だった。



「まぁ、仲良くしてれば良いのでしょう?なら問題ありませんね」

「おばあちゃン!? そこは可哀想だカら解いてあげなさい!っテ言うところじゃないのか!?」

「ふふ、母親は息子に甘いものです。と言う訳ですので、注意しましょうね」


「そんナ!?」


「そして皆さんに言っておきます。そこにつけこんでレンレンにおいたをするのは私が禁じます。よろしいですね?」


「はい」

「それは、もう……」

「同じ女として、少し同情してましたので……」


「よろしい。では、今日からよろしくね、レンレン」

「おばあちゃン!!  やっパり好い人なのダ!!」

「よしよし。これもお食べなさい」

「うん!そっちもちょうダい!」

「ふふ、良いですよ。遠慮しないでたくさんお食べなさい」

「ありがトうなのダ! うん!ここのご飯は毒が入ってなくて、とっても美味しいのダ!」



「「毒……?」」



「うん。あっちじゃ、毒入りのお茶やご飯なんて当たり前だったかラな。あはは」


「それで、あんな手の込んだことをしてたのか?」



カルがヨ・ハ・ルルでのレンレンカブレを脳裏に浮かべる。

自分は異空間に潜み、人形を使って本人と認識させていたのは、若さを保つ為ではなく、身に迫る危険を回避するのが本当の目的だったのだ。



「騎士の人達は好い人ばっかりダったけド、魔法使いはネ。ああしてないト、命がいくつあっても足りなかっタのダ。まぁ、全部返り討ちにしてやっタけどな!」


「レンレン、ここにはあなたに危害を加える人はいません。安心してお食べなさい」

「ありがトう、おばあちゃン!!」



ミランダに差し出された唐揚げを頬張るレンレンカブレ。

その時、ふと頬を涙が伝った。



「どうしました、レンレン?」


「あはは……ご飯って、こんナに美味しかったんダな!」



顔をクシャっと歪ませながら、それでも笑顔を浮かべるレンレンカブレ。

地位と名誉の裏では計り知れない苦労があったのだろう。

そんな思いは、ここでは決してさせてはならない。

そう心に誓う一同だった。








「それでは行って参ります、ミランダ様」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


「「はい!」」



ミランダとフィール、そしてレンレンカブレに見送られ、リンベル達が屋敷を後にする。

休み明けの月曜日。

今日も空は晴れ渡り、風もなく、冬だと言うのを忘れてしまうほど暖かい日差しが空から降り注いでいた。




「みんな学校かぁ……まぁ、私は天才ダから、そんなの必要ないけどな! あハは……」

「レンレン……」


「ところデ、おばあちゃン!」


「なんですか?」

「あそこらへンの結界、綻んでるぞ?」

「え? あらあら、本当ですか?」



レンレンカブレの指差す先を見つめてミランダが首を傾げる。

そこはカルが一度、結界を破った所だった。

だが指摘されるような綻びなど見えない。



「こコから見れば上手く繕ってるように見えルけど、ちょっと角度を変えると僅かに隙間があるのダ。それよりおばあちゃン、この広さの結界を維持すルのは疲れるダろう。ここは魔力が満ち溢れテるのだ、効率は無視して、自律型の結界に作り直ソう!」


「え……?」



言うなりレンレンカブレが杖を空に掲げる。

すると新たな結界がレンレンカブレを中心に広がり、見る間にミランダの張った結界と干渉、ついにはミランダの結界を中から圧迫して粉々に砕いてしまった。

後にはミランダも惚れ惚れするほど完璧な結界が張られていた。



「どうだ、おばあちゃン。こレで身体の負担はなくなったダろ?」



得意気な顔でレンレンカブレが振り向く。

確かにレンレンカブレの言うとおり、結界の維持に魔力を使わなくなったお陰で、ミランダの身体の負担は無くなっていた。



「ふふ……本当に楽になりました。ありがとう、レンレン」

「あハは、気にするなおばあちゃン。こんなのお安い御用なのダ!」



レンレンカブレがふんす!と鼻息荒く胸を張る。

本人は事も無げに言うが、新たに張った結界はどう見てもミランダ以上の強度を持っていた。

老いたとはいえ、こと結界に関しては現役の魔術師長メイジマスターであるニキロールにも引けはとらないミランダだ。

そのミランダを凌ぐ結界を意図も簡単に張って見せたレンレンカブレ。

もともと空間干渉系の魔術が得意なのだろうが、ヨ・ハ・ルル最高の魔術師……その肩書きは伊達ではないと思うミランダとフィールだった。









「フィール、すみませんが、お役所までお使いを頼まれてくれませんか?」



昼食後。

片付けを始めたフィールに、ミランダがスッと手紙を差し出した。

それは午前中に認めておいた、国王宛ての手紙だった。



「承知いたしました、ミランダ様。それでは、帰りに食材の買い出しも済ませて来てよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます。では、レンレン様……申し訳ありませんが、ミランダ様の事をお願いいたします」


「任せろ、フィール! 私はハエ一匹仕留めルにも手加減しない女ダ!」


「それは大惨事になりますので、お控えください」



と、真顔でツッコむフィールだった。









その頃、学園騎士団アカデミー・ナイツの本営では、



「我こそはカル・マ・シリング第一の従者! 炎を司る魔剣士、リンベル・ラーゼン!!

今、貴様に裁きを下す者であるッ!!!」


「きゃあーーーーーーッ!? せせ、セクハラですよ、ダグラス先輩!!」



リンベルがダグラスにからかわれていた。

他にいるのはカルとクレアのみ。アラン達の姿はない。

実はカルとクレア、授業が長引いて食堂の席が確保できず、しかたなくサンドを買って団室に来たのだが、扉を開けるとリンベルが一人で黙々とお弁当を食べていた。

どうやら決闘の噂が教室で広まり、居たたまれなくなったらしい。

そこにたまたまダグラスが現れ、先の決闘の場面を一言一句、身振り手振りまで添えて完璧に再現して見せたのだった。



「いやぁ……マジ決まってたぜ、リンベルちゃん!」


「セクハラ!セクハラ!セクハラぁーーーーーーッ!!」


「まぁまぁ、強けりゃ何でも許されんだ。そんな照れんなよ」


「じゃあ半笑いするなぁーーーーーーッ!!」



リンベルが顔を真っ赤にさせて頭を抱える。

ダグラスの言うようにあの強さだ、堂々としてればいいのにとカルも思うが、リンベルにそれは無理なようだった。




「ダグラス先輩、その辺にしてやってください。リンにやったあの剣は炎帝の剣、竜を封印した魔剣です。あれは膨大な力と引き換えに、魔力の影響から気分が高揚するんです」

「高揚? じゃあ、リンベルちゃんがハイテンションになったのは……」

「あれの影響です」

「へぇ……それでか。道理で普段のリンベルちゃんと雰囲気違った訳だぜ」


「因みに炎帝には意識があり、外界の様子はリンを通して把握します。剣の使い手であるリンへの侮辱は、そのまま炎帝への侮辱となりますので注意してください。怒らせると、あれがこの部屋で炸裂するかもしれませんよ?」


「お、おぅ……わ、悪かったな、リンベルちゃん」



にこやかな顔でとんでもない事を告げるカルに脅され、ダグラスが愛想笑いを浮かべながら謝罪した。

この噂が広まれば、リンもからかわれないで済むだろう。

そう判断してのカルの優しさだった。



「さて……クレア、そろそろ教室に戻るか」

「はい、カル様」


「げっ! もうこんな時間かよ!? んじゃまたな、お前ら!!」



ダグラスは片手を上げて挨拶すると、そのまま振り返りもせずに部屋を飛び出して行ってしまった。

きっとこの後、教室の移動か屋外での授業があるのだろう。

カルがクレアとリンベルを促して団室を施錠する。

すると、リンベルがカルの制服の裾をスッと引っ張った。



「カル……その、ありがと……」



ふっと笑ったカルは、返事の代わりにリンベルの頭をポンと叩くのだった。









「アラン、ちょっと頼みがあるんだが……」



放課後。

アランが団室にやって来るなり、カルが申し訳なさそうな顔で頬を掻いた。

見れば片時も側を離れないクレアの姿がない。



「どうしたんだい、カル? ひょっとして、クレアとケンカでもしたのかい?」

「ケンカ? あぁ……違う。クレアとリンにはちょっと頼み事をしてるだけだ。そういう訳で、今日は二人は休みだ」

「それは別に構わないけど、じゃあカルの頼みってのはなんだい?」


「実は……レンレンの件なんだが……」









「ミランダ様、ただいま戻りました」



リビングの扉を開けるなりフィールがペコリと頭を下げる。

時刻は夕方の四時を少し回ったところだった。

買い物をしてくると言っていたが、行きと同じで手ぶらなのは異空間に荷物を収納できるアイテムをカルから貰っているからだった。




「お帰りなのダ、フィール!」

「お帰りなさい。寒い中ご苦労様でした」



レンレンカブレがクッキーを咥えながら手を上げ、ミランダが紅茶をソーサーに戻しながら微笑んだ。

どうやら午睡をしないでずっと起きていたらしい。

レンレンカブレが結界を張り替えてくれたお陰だった。




「それで……お役所には渡していただけましたか?」

「差し出がましいとは思いましたが、急いだ方が良いと判断し、お城に出向いて陛下の秘書に直接手渡しました」

「陛下の秘書に? 良くお城に入れましたね?」

「カル様の関係者というのもありますが、決闘の際、グリューネ家の代表として参加していたからでしょう、顔パスでした。門番が怖がっていたのが心外ですが」

「それでは……」

「いえ、それが……ちょうど入れ違いで、陛下は地方の視察にお出かけになり、戻られるのは一ヶ月後との事でした」

「まぁ……それはまた急に……」

「先のバルバロッサ家の一件で、地方の数家が処罰を受けると心配しているそうです。それを安心させる為、陛下が直々にお出でになったようです」

「まぁ、そうでしたか。陛下もお忙しいことですね」

「なので、お手紙は陛下が戻られてからお渡しするとの事でした。お役に立てず申し訳ございません、ミランダ様」

「あなたが謝る事はないわ、フィール」

「そうダぞ。留守なら仕方ないのだ!」



そういって笑いながらフィールを慰めるレンレンカブレ。

それを見て、ミランダとフィールが複雑な表情を浮かべた。

実はミランダの用事というのは、レンレンカブレを学園に通わせてやって欲しいという懇願書だったのだ。

その時、



「ただいま帰りました、ミランダ様」

「ただいま」



バルビエッタやリンベル達が揃って帰ってきた。



「お帰りなさいませ、皆さん」

「お帰りなさい」

「お帰りなのダ!」


「あら……、その荷物は何ですか?」



ミランダが首を傾げながら尋ねる。

見れば皆が皆、大きな手提げ袋をぶら下げていたのだ。

その言葉を待ってましたとばかり、バルビエッタがニヤリと笑って袋に手を差し入れる。そして、



「レンレン! これを見ろ!!」



袋から取り出した物をバッ!と広げて見せた。

なんとそれは、バルビエッタ達の着ているのと同じ、聖導学園の制服だった。



「制服だ!? ひょっとシて、私のか!?」


「そうだ! そして、これが入学許可証! ちゃんと陛下の直筆サインも入っているぞ!!」

 


「うオーーーーーーッ! やったのダ!!」



バルビエッタから受け取った制服を掲げながら、レンレンカブレが満面の笑顔で踊り回る。

口では行かなくてもいいとか言っていたが、やはり一人だけ仲間外れは寂しかったのだろう。



「でも、陛下は地方の視察にお出掛けになったと聞きましたが……よくサインまでいただけましたね? ひょっとして、昨日のうちに?」


「いいえ、違います」

「放課後、カルが団長……アルベルト殿下と、転移魔法で貰いに行ってくれた」

「まぁ……カルったら。 それで……カルとクレアさんは?」

「二人は帰りました」

「あら……一緒にレンレンのお祝いをしてくれてもいいのに」


「あれは、きっとあれですね」

「うん。あれ」

「ふふ……あんなカル様、初めて見ました」

「あれは貴重だったな」

「同感です」


「あれとは?」


「照れてた (ました!)」




リンベル達が笑いながら断言する。

これはお前達から渡しておけ。

そう言って、ぶっきらぼうに去って行ったカル。

クレアも笑っていたので間違いないだろう。

そんなカルを想像して、ミランダとフィールもつい笑顔を浮かべるのだった。









翌日の朝。

場所は聖導学園、魔術科コースの練兵場。

カルとクレアがランク付けのテストを行ったあの場所で、カマンドールが手を後ろ手に組み、じっと前を見つめていた。


視線の先には真新しい制服の上にマントを羽織り、とんがり帽子を被って杖まで持った少女がニヤリと笑っている。

完全に魔法使いスタイルだ。

おまけに、どういう理屈なのか、風も無いのにマントがバタバタと靡いている。




「……シリング君?」

「なんでしょう、カマンドール先生」

「私の記憶が正しければ、ピルピーチ・レンレンカブレと言う名は確か不死身アンデッド・魔法使ウィザードいの異名を持つ、ヨ・ハ・ルル最強の魔術師の名ではなかったかな?」

「そのとおりです」



カマンドールが再びじっとレンレンカブレを見る。

ベル・アザルまで鳴り響いたその名の魔術師は、確か絶世の美女と吟われていた筈だが……まぁ、それはこの際どうでもいい。

問題なのは、なぜ、ヨ・ハ・ルル最強とまで吟われた魔術師が、こんな所で入学テストを受けているのか、だった。



「……カマンドール先生、お気持ちは察しますが……」

「はぁ……もう理由は聞くまい。分かった。Sランクで申請しておこう」


「えぇ!?テストは無イのか!?楽しみにしテなのに!」


「不要だ」

「そ、そんな……今日一番の見せ場だと思って、気合い入れてキたのに……」



そう言ってガクリと崩れ落ちるレンレンカブレ。

放心した目は地面を見つめ、涙まで浮かべていた。

よほど楽しみにしていたのだろう。

それを見て、クレアがチョイチョイとカルの袖を引っ張った。

苦笑いを浮かべながら。



「しかない……俺が遊んでやる。Sランクなら、学園騎士団アカデミー・ナイツ入団は確定だ。ならこれくらい破壊して見せろ」



そう言ってカルが無造作に右手を翳す。

すると地面から土が盛り上がり、クレアの特訓で使用した直径五十センチ程の黒光りする球体が現れた。

それを見て、レンレンカブレが満面の笑みを浮かべて立ち上がる。



「望むところだ、ますター! ピルピーチ、アーーーイッ!!」



顔の横でピースをしながらレンレンカブレが球体を睨み付ける。

カルの作った球体が、ただの土の塊である筈がない。

それを見極めているのだ。



「見た目はただの土ダが、鉱石を魔力で固めて強度を上げて鋼のようになってルな……。なら熱して真っ二つだ!

って、そこで早とちりするのは三流の魔術師なのダ。

ふふん、私にはお見通しだ、ますター。問題はその廻りにこっそり張ってる防御結界なのダな。

まずはあれを剥がさナいと、満足にダメージも入らないって事ダろう?

ふんふん、となると……六つ……そんで、七つ目で行けル!!


行くゾ~! 雷、雷、雷、雷、雷、雷、ラ~イ……ドンッ!!」




レンレンカブレが頭の上で杖を回すと、上空に七つの魔方陣が円を描くように現れた。

そして、ドンッ!!の掛け声と共に勢いよく振り下ろす。

魔方陣から発生した落雷が次々と球体を襲う。


一つ目の落雷で一つ目の防御結界を飽和させ、直後の落雷で破壊。

それを続けざまに三回、瞬く間に防御結界が破壊された。

そして七つ目の落雷が球体に直撃する。



「そこダ!!」



レンレンカブレが左から右に杖を一閃させた。

雷の直撃を受け、一気に高温になって結合の緩んだ鋼に、魔力を練り込んだ水の鞭を叩きつけたのだ。

結果、カルの作った球体は見事に真っ二つになり、ゴトンと割れて地面に転がった。



「上出来だ」

「イえーい!!」


「ランクSのインフレが起こるな」



やれやれといった顔でカマンドールはその場を立ち去るのだった。





















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