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愛と正義の魔王様  作者: たじま
17/18

17、学園対抗戦の魔王様 〜リンはもっと騒ぐのかと思った。私で本気にならないのに?あんな奴は、きっと指先一つで瞬殺されるのがオチ〜



「かつて、我が国は一人の剣士によって興されました。

言わずもがな、その剣士とは英雄リベルダット・オールドフィールドその人です。

そしてそれは我が国だけではありません。

一人の強者が人を引き付け、たくさんの人が集まり、やがて力を得て国が興こる。

そう、始まりはたった一人の人間の力なのです。


若さとは無限の可能性を秘めています。

もちろん君達もそうです。

ひょっとしたら、この中から未来の英雄が生まれるかもしれない。

その第一歩を今日、私達は目撃するかもしれない。

私の心は、そんな期待で一杯です。

各国から集まったご来賓の方々も同じ気持ちでしょう。


大人達はたかが学生の大会と言うかもしれません。

学生の大会、大いに結構。

枠に収まってしまった大人の戯言など吹き飛ばしてしまいなさい。

それが若さというものです。


話しが少し長くなってしまいましたね。

それではここに、第11回四校剣術対抗戦の開会を宣言します」



「「うおぉーーーーーーーーーッ!!」」



聖導学園学園長の挨拶に、アリーナに集まった全生徒達から大きな歓声が上がった。

ベル・アザル、レイゼバッハ、フォルトン、そしてメラクレールの四校代表による剣術大会の幕が、今、ここに切って落とされたのだった。








「人を煽るのが上手い人だな」

窓の外を眺めながら、身長2メートルにも及ぶ巨体の男がニヤリと笑った。



「まったくだ」

それに同意するように中肉中背の男が答える。



巨体の男はメラクレール公国、プレパドール学園の大将で、名をゼノン・ドエル。

中肉中背の方はフォルトン王国学院の大将でベルリン・コーラル。

どちらも剣の腕では既に名の通った男達だった。



ここはアリーナのラウンジ。

大会の注意事項の説明を受ける為に参加者全員がここに集まり、たった今、学園長の挨拶も終わったところだった。

後はそれぞれの控室に下がり、戦いに備えるのみ。

そんな矢先、カールソンが睨みつけるようにしてカルの前に立った。




「カル・マ・シリングと言ったか? アラン・オリバーは怪我でもしたのかね?」

「いや、ちょっと野暮用ができただけだ」

「対抗戦を放って野暮用?……ふん、どうやら尻尾を巻いて逃げたようだな」


カルの言を聞いたカールソンが嘲るように笑った。すると、



「ふっ……」


今度はカルが、カールソンを嘲るように鼻で笑った。



「何がおかしい?」

「あぁ、すまん。魔剣に頼るような奴が、良くもまぁ、ほざいたもんだとつい笑ってしまった。許せ」


「……貴様」


「そう言えば、魔剣使用の申請がされてなかったな。実は内緒だったのか? バラして悪かったな。重ねて許せ」


「俺を愚弄するかッ!!」


「そういきり立つな。決勝まで勝ち上がったら嫌でも相手をするんだ。それまで待て。 ……まぁ、もっとも……勝ち上がれたらの話しだがな」


「それはこちらの台詞だ! 殺しはせんが、五体満足でいられると思うなよ!!」



カールソンが憤慨しながら各校に割り当てられた控室へと去って行く。

おそらく、これ以上魔剣の話をされるのを嫌ったのだろう。

それに続いてザールとヘクトールも睨みつけながら退室していった。

この場でいざこざが起きないのが不思議なくらい殺意の籠もった目だった。




「カル、ずいぶん煽ったね……」

「まだ言い足りないくらいだ。小物の分際でアランをバカにしやがって」

「でも尻尾を巻いて逃げる時の顔はサイコーだった。カル、ナイス」



リンベルがニヤリと笑ってサムズアップする。

デルニックも特にカルを咎めた訳ではなかったのだろう。一緒になって笑っていた。

カルといい、リンベルといい、デルニックといい、イスメラルダとスイレンの件もあって、完全に喧嘩腰だった。




「失礼。シリング殿、今の話しは本当なのか?」



そこに初戦でカールソンと対戦するコーラルが話に割って入った。

その後ろにはドエルもいる。

さすがに魔剣と聞くと聞き捨てならなかったようだ。



「貴殿への警告も兼ねて、あのような形をとった。あれは魔剣、ディルバレットだ。魂喰ソウル・イーターいと言われてるが、実際は魔力を喰らう剣だな」

「魔力を喰らう?」

「ああ。そうなれば、当然動きが鈍る。場合によっては身動き取れん程にな。それが傍目には魂を喰われて呆けたように見えるんだろう」

「しかし、それなら完全な規約違反だ。魔剣の使用は禁止されている。ラーゼン殿のように強度の関係で普通の剣として使用するにしても、事前の申請と審査を受ける義務がある」

「内密に持ち込んだ以上、そこはパスしてると見るべきだな。

例えば寸分違わぬレプリカを用意し、大会委員会から疑念を持たれたらそっちを提出する。

相手が身動き取れなくなった件を咎められれば、竦んだとか言って誤魔化すつもりだろう。

実際の制御に関しては、剣士には不釣り合いなあの指輪が怪しいな」

「そこまで分かっていて放置するのか?」

「あくまで俺の見解だ。証拠はない」


「なるほど。確かにそうだ。証拠はない」

「身をもって確かめるしかないか……」



二人が苦笑いを浮かべる。

名も通っているだけに、このへんは割り切ったものだった。

そのカラッとした気概がカルには気に入った。

だから一つだけアドバイスしてやることにした。



「持久戦はジリ貧になる。速攻を心がける事だ。それじゃあな」







「カールソン様……あのシリングとかいう男、気づいてましたが……どうしますか?」

「この指輪がある限り、魔剣の制御は完璧だ。委員会の人間も気づかなかったのだ、放っておけ」

「そうだぜ、ヘクトール。そんな心配してっとハゲんぞ。ひゃはは!」

「バレれば大変な事になる。心配もするさ……」

「はぁ……マジメ君だねぇ。それよりよぉ、見たろ、あいつ等の目? クソ、ガンくれやがって。 ぜってー殺してやる!」

「おい、ザール!!」

「はいはい、分かってんよ、言葉の綾だ。 だけどよぉ……不可抗力ならしかたねぇだろ? へへへ……」

「そのとおりだな、不可抗力ならしかたない」

「カールソン様まで……」

「だから、おめぇは心配し過ぎなんだよ! ひゃはははははは……!!」








「これよりレイゼバッハ王国、魔剣士学院対、フォルトン王国、王立学院による第一試合を始める。

先鋒、ヴェルドー・ヘクトール! パドリス・ポピュラン! 前へ!」



裁定者の指示に従い、レイゼバッハからはヘクトールが、そしてメラクレールからはポピュランが闘技場へと足を踏み入れる。

途端にアリーナ中に歓声が響き渡った。

聖導学園全生徒の他に、他校からの応援団、それに来年度入学予定の生徒達まで招待されていただけに、その人数は多く、歓声も大きい。


睨み合いながら闘技場中央に達した二人がスッと剣を抜く。



「始め!!」



最初に動いたのはポピュランだった。

剣の鍔元から剣先に向かって左手を一閃させる。

するとポピュランの握った剣が炎を纏った。

剣術大会だけに魔術による直接攻撃は禁止されているが、魔術で武器を強化するのは認められていたのだ。



ガキンッ!!



真っ向からの斬り下ろしを受け止めたヘクトールが眉をしかめる。

顔や手が焼けるように熱かった。

このままでは押し切られる。

そう判断したヘクトールがスッと左足を引いて剣を流した。

つんのめるように体制を崩したポピュランが背中を見せる。

直後……、



ーーーッ!?


ヘクトールの顔面を剣先が掠めた。

体制を崩したと見せかけながら腕を回し、振り向きざまに斬り上げてきたのだ。

それをかわし、サッと跳び退いて距離を取る。



「……邪道に走るのかと思ったが、中々どうして、大したものだ」



ポピュランが感心したように右手を見つめる。

するとスーッと赤い筋ができ、見る見る血が滲んできた。

ヘクトールが跳び退きざまに斬りつけていったのだ。



「さて、様子見は終わりだ」


ポピュランがスッと腰を落とし、剣を構えた。



「では、こちらも本気でいかせてもらおう」


言うやいなや、ヘクトールが一瞬で距離を詰めてきた。

驚いたポピュランが慌てて防御にまわる。

打ち込みの速さ、腕の返し、そして足捌き。

全てがポピュランを上回っていた。魔力を瞬発力に回しているのだ。しかし、



「アジリティー重視か。だが軽いな」



防御に徹しながらポピュランが呟く。

速さに翻弄されてはいるが、ダメージは通っていない。

完全に見切っていた。

このままでは押しきれないと見たヘクトールが上段高くから斬り下ろす。

それをポピュランが受け、そして押し返した。

力負けしたヘクトールが、体制を崩しながらもクルッと回って剣を斬り上げる。

先程のポピュランと同じ返し技だ。

だがそれをポピュランは読んでいた。



「終わりだ!!」



ヘクトールの剣に合わせるように真っ向から斬り下ろす。

ヘクトールの剣を力で叩き落とし、そのまま逆袈裟に斬り上げる。

そこまで筋立てし、勝利を確信したポピュランの顔が……、



ギンッ!!!

「なっ!?」



驚愕に変わった。

相手の剣を叩き落とすどころか、斬り上げた剣に力負けし、あろうことかその手から剣を手放してしまったのだ。

がら空きになったポピュランの胴に、ヘクトールの剣が吸い込まれる。



「そ、それまで!!」

「ぐぁっ!?」



裁定者の声に悲鳴が重なる。

脇腹を深々と斬り裂かれたポピュランがガクリと崩れ落ちる。

制止の合図が一瞬遅れ、間に合わなかったのだ。



「すまん。まだ未熟ゆえ、剣を止められなんだ」

「しょ、勝者! ヴェルドー・ヘクトール!」



慌てて勝利宣言をした裁定者の横を救護班が駆けていく。

応急処置をされたポピュランが担架で運ばれていく。

治療には王国魔術師キングダム・メイジが当っているので命に別状はないだろうし、傷一つ残らないだろう。それにしても、



「いきなり刃傷沙汰とはな」



カルが呆れたように呟いた。

口では剣を止められなかったと言っていたが、カルの目から見れば見え見えのウソだった。

いくら死なないとはいえ、あれは少々やり過ぎだ。

おかげでさっきまでお祭り騒ぎだった生徒達が、揃って口を噤んでしまったではないか。



「ねぇ、カル……今の……」

「ああ、お前達は見えたか?」

「剣先が一瞬光ったね」

「うん。たぶん加速術式」

「半分正解だな。加速術式と一緒に質量変換して重さを増してる。ハンマーや斧に良く使う手だ。術式自体は小さいからそこまで威力は上がらんだろうが、意表を突くには充分だな」





そうこうしてると、戦いは第2戦へと移行していた。

二番手はブロッケン・ザール。スイレンを殺害しようとした奴だ。

何がおかしいのか、ニヤニヤと笑いながら闘技場に入ってきた。

それに対するのはヴィクター・サイモン。

こちらはザールを睨みつけながら入場してきた。

同僚の惨状もさることながら、こちらを嘲笑うかのようなザールの態度を見て敵意を燃やしていたのだ。




「始め!!」


「ひゃっはーーーーーーッ!!」

「はぁッ!!」



開始の合図とともに両者一斉に斬りかかる。

だが主導権を握ったのはザールだった。

力任せに剣を振り下ろし、防御されるやそのまま左右からの斬撃を繰り返す。

剣の型も何もあったものではない。

防御されようが、お構いなしに斬りつける。

剣の上から叩きつけるようにして斬りつける。

まるで足に根が生えたように、その場で何度も何度も執拗に斬りつける。

サイモンは手も足も出なかった。ザールの剣が異様に速いのだ。

驚くことに、先のヘクトールの術式以上の速さだった。




「くそ! こんな奴にッ!!」

「おいおい、手も足も出ねぇじゃねぇか! 拍子抜けだなぁ……おいッ!!!」


バキンッ!!

「なっ!?」



一際大きな気合いとともにザールが剣を振り下ろす。

それを受けたサイモンの剣が中程から真っ二つに断たれた。



「死ねぇ!!!」

「ひいっ!?」


「ザールッ!!」

ーーーッ!?



振り下ろされたザールの剣がサイモンの脳天手前でピタリと止まった。

今のは完全に殺す気だった。

それが一番分かっているのはサイモン自身だろう。

だからザールが剣を収めてもガタガタと怯えた目で見上げていた。



「ちっ! カールソンさんに感謝しろよ!」


「しょ、勝者! ブロッケン・ザール!!」



「「うわぁ!!!」」



サイモンにくるっと背を向けるザールに、アリーナ中から大きな歓声が上がった。

ザールの態度はともかく、傷一つ負わさず勝ち、そのまま闘技場を去る姿は、端から見れば騎士道精神に沿った立ち居振る舞いに見えたのだろう。




「二人共、良くやった。後は私が〆るとしよう」

「カールソン様、相手は二年前の最優秀選手です。お気をつけください」


「ふっ……私を誰だと思っている。心配は無用だ、ヘクトール」





「これより大将戦を始める!

ジェスタ・カールソン! ベルリン・コーラル! 前へ!!」




魔剣の柄を握りながらニヤリと笑い、カールソンは闘技場へと足を踏み入れるのだった。









「なるほど……この威圧感、魔剣というのも頷ける」


コーラルがカールソンを睨みつけながら呟く。

まるで筋肉が萎縮するような感覚だった。

まだ鞘に収まっているにもかかわらず、だ。




「シリングもそんな事を言っていたが、魔剣とは使用者本人にも災いをもたらすものだ。私は平然としている。故にお前のそれは言い掛かりであると知れ」

「ならば俺が勝ち、その剣をじっくり調べさせてもらうとしよう」

「勝てるものならな」




両者がスーーーッと剣を抜く。直後、


「始め!!」


開始の合図が高らかに響いた。

先手必勝。

カルの忠告どおり、開始の合図とともに飛びかかるつもりだったコーラルの動きが、



「はぁッ!!!!」

「なッ!?」



ピタリと止まった。

カールソンの掛け声とともに、身体中の魔力が一気に持っていかれたのだ。



「こ、ここまでとは……」



コーラルがガクリと膝を突く。

立っている事など不可能。

それどころか、意識を保つのすらやっとだった。




「まるで蛇に睨まれたカエルだな。我が覇気に竦んだか」

「ぬけぬけと……」



ツカツカと歩み寄ったカールソンが、嘲るようにコーラルを見下ろす。

それを裁定者は静かに見守った。

既に勝敗は決したも同然なのだが、コーラルの手に武器があり、降参の意志も見せぬ以上、止めるに止められなかったのだ。

魔剣と言っていた件も同様だ。

事前審査を通っているし、何より今現在、裁定者の身体には何の影響も見られない。

かと言って本当に覇気に怯んだのかと言われても眉唾ものだった。

判断に悩むところだ。

そうこうしてると、カールソンがスッと剣を振り上げた。



「負けを認めるか?」

「誰が……」

「残念だ」



「ぐあッ!?」



肩を斬り裂かれたコーラルが、ドサッと崩れ落ちた。



「勝者! ジェスタ・カールソン!!」




「手加減はした。早く手当をしてやってくれ」



言うやカールソンが踵を返す。

アリーナが再び静寂に包まれる中、またしても医療班が駆け出す。

カールソンの言うようにそこまで深手ではないようだが、コーラルは意識を失ったままだった。

魔剣に直接触れ、魔力が枯渇してしまったのだろう。





「カルは……大丈夫なんだよね?」

「問題ない。海の水は決して涸れない。それと同じだ。それより注意しておけ。お前達の戦いにも介入してくるかも知れん。なるべく、向こうの壁際には近づくな」

「……分かった」

「さて……それじゃあ、俺達も移動するか」



そう言ってカルが立ち上がる。

次はいよいよベル・アザル王国対メラクレール公国の試合だった。









「クレアさん」

「あれ? スイちゃん、こっち来ちゃっていいの?」



間もなく第二試合が始まるという時、アリーナで観戦していたクレアの元にスイレンがやってきた。

その身には編入していた時と同じ剣術科の制服を纏っている。



「あっちの試合も終わりましたし、もう大丈夫かな?って……」

「それもそうだね。ささ、座って座って!」

「はい」



笑顔のクレアに迎えられスイレンが腰掛ける。

周囲には学園騎士団アカデミー・ナイツの見知った顔達が応援していた。

それにペコリと挨拶すると、皆が笑顔を返してくれた。




「どうしたの?」


クレアが尋ねる。

スイレンが突然クスクスと笑いだしたのだ。



「その、ついイース様の事を想像して……」

「想像?」


「きっと、イース様が今の私を見たら、

『スイレン! あなた、私を差し置いてなにちゃっかりそんな所に収まってるんですの!』

って羨むだろうなって」

「あはは……言いそう!」

「でしょ?」



イスメラルダの顔を思い浮かべ、クレアもスイレンと一緒にクスクスと笑いだす。

そうこうしてると、アリーナに第二試合開始のアナウンスが流れた。




「さ、始まるよ、応援応援!」

「はい!」




笑顔を収めた二人は闘技場へと視線を戻すのだった。








「これより第二試合、メラクレール公国、プレパドール学園対、ベル・アザル王国、聖導学園の試合を始める。

先鋒、イコタ・シタバラス! デルニック・ミストバーン!前へ!!」




「「わぁーーーーーーッ!!」」



自校生徒のコールを受け、アリーナに大きな歓声が上がった。

その歓声に背中を押され、デルニックが闘技場へと足を踏み入れる。




「デル、がんばって」

「とっとと終わらせてこい」

「分かった」



腰の後ろに二刀を挿したデルニックが常の足取りで闘技場中央へと歩み寄る。

対するシタバラスは長身の男だった。

腰には長剣を挿している。

ドエルほどではないが、パワーファイターなのだろう。




「てっきり、マンフレットかヴェスカライズが出るものと思っていた」

「お二人は今日から王国騎士団キングダム・ナイツの強化合宿に強制参加です。僕ではご不満ですか?」

「二人の名声に比べたらな」

「まぁ、それもそうですね。でも、僕も強いですよ?」




にこりと笑ったデルニックが腰の後ろから二刀を引き抜く。

それを見てシタバラスもスーーーッと剣を抜いた。




「始め!!」



地を蹴り一足跳びに距離を詰めたシタバラスが、デルニックの脳天目掛けて真っ向から斬り下ろす。

速く、鋭い一撃。

だがデルニックは臆さない。

スッと左足を引いて身を捻り、同時に右手の剣を打ちつけて軌道を逸らす。

そして返す刀でシタバラスの顔面を横薙ぎに狙った。

即座に反応したシタバラスが上体を反らせて回避。直後、



「ぬんッ!!」



空を斬った剣を、膂力に物を言わせて振り上げてきた。

もっとも、デルニックは既に地を蹴ってそこにはいなかったが。




「ふむ……先程は失礼な事を言ったようだな。謝罪しよう」

「どうも」

「もっとも、それでも勝つのは私だ!!」



再びシタバラスが距離を詰め……ようとした瞬間、デルニックが左手に持った剣を投げ撃った。

まさか得物を投げるとは思わなかったシタバラスが慌てて剣を弾く。

その瞬間、



「なにッ!?」



デルニックの姿がスッと掻き消えた。




「こっちです」

ーーーッ!?



シタバラスの動きがピタリと止まった。

剣を手放し、両手を上げる。

いつの間に移動したものか?

後ろから抱きつくように拘束され、首元に刃を当てられたのだ。




「勝者! デルニック・ミストバーン!!」



「「うわぁーーーーーーーーーッ!!!」」



同じ学園の生徒、それも学園騎士団アカデミー・ナイツの実力を目の当たりにして、アリーナからは大きな拍手と歓声が上がった。


はぁ……と溜め息をついたシタバラスが剣を拾って鞘に収め、次いでデルニックの手元を見る。

剣の柄には一枚の札が巻き付けられていた。



「剣を弾いた時は確かに目の前にいた。となると転移魔法。それがからくりかな?」

「秘密です」



デルニックがにっこり笑って答えた。






その頃、観客席では……。


「やった! デルニックさんが勝ちましたよ! 完勝です!!」



スイレンが頬を紅潮させ、まるで我が事のように喜んでいた。

それを見て、クレアがクスリと笑う。



「誰かさんの前だから、イイとこ見せたかったんだろうなぁ」

「え……?」

「誰かさんも、まんざらでもないみたいだしね〜?」



にっこり笑うクレアの視線から逃れるようにスイレンが俯く。

今度は頬だけでなく、耳まで紅く染まっていた。









「まさかイコタはんが負けるなんて思わんかったわ」

「油断するな。今年のベル・アザルは飛び抜けてる」

「そりゃ、次は魔剣の嬢ちゃんやもんなぁ……やんなるわ」




「これより第二試合を始める! マルコス・ララポーザ! リンベル・ラーゼン! 前へ!!」


「「わぁーーーーーーーーーッ!!」」



その途端、アリーナが先程よりも大きな歓声に包まれた。

聖導学園一の女剣士、リンベルの登場に沸いたのだ。



「「リ、ン、ベル! リ、ン、ベル! リ、ン、ベル!!」」



「やっりずら!」


突然起こったリンベルコールに、ララポーザが思わずツッコむ。

当たり前だが、完全にアウェイだった。




「「リ、ン、ベル! リ、ン、ベル!わぁーーーーーーーーーッ!!!」」



一際大きな歓声とともにリンベルコールが鳴り止む。

闘技場中央に達したリンベルが、スッと右手を上げたのだ。



「えらい人気やなぁ」

「まぁ……私の戦い、派手だから」

「てか、さっきと全然雰囲気違うんやなぁ。もっとこう……大人し目の、クール系女子かと思っとったわ」

「実はこの剣を持つと、気分が高揚してハイテンションになる」

「そうなんや?」

「という設定」


「設定ってなんや!?」


「くぅ!?」

「うおッ!? な、なんや!?」



ツッコミから一転、ララポーザが慌てて飛び退いた。

リンベルが突然苦しみだし、柄を握る左手を右手で抑えつけた。

そう思ったら、剣の鞘から真赤に荒れ狂う膨大な魔力が溢れ出したのだ。



「ま、待って炎帝様!……まだダメ、鎮まって!……この人は生贄じゃない!!」

「生贄ってなんや!?」



思わず真顔でツッコむ。

そうこうしてると荒れ狂っていた魔力がスーーーッと収まった。



「ふぅ……もう大丈夫。安心して」←にっこり

「ちっとも安心出来へんわ!!」


「まぁ、今のはちょっとしたパフォーマンス。要はファンサービスみたいなもの。ホントはちゃんと制御できてる」

「ホンマやろうなぁ……?」


「ホンマ。だって剣を開放しなくても、私強いから」

「へぇ……」



スーーーッと剣を抜いたリンベルをララポーザが一瞥する。

魔剣は炎を吐き出していない。

膨大な魔力が溢れ出してもいない。

一見するとただの剣だった。




<魔剣を完璧に制御しとる証拠や。強い言うんもハッタリやないんやろなぁ……てか、なんか聞き捨てならんこと言うとったぞ。 炎帝? 炎帝って、あの炎帝竜のことかい? ホンマ、勘弁して欲しいわ……>




ニヤリと笑ったララポーザがスッと剣を抜く。←誤解されがちだけど本人的には笑ってないつもり



「始め!!」

ーーーッ!?



開始早々、ララポーザがサッと剣を構えた。

リンベルが剣先を上げてララポーザを指し示したのだ。

直後、左手の剣を一閃させる。



ギンッ!!!

「「おぉッ!?」」



会場にどよめきが起こった。

リンベルの得意技。

手首の捻りだけで飛ばした真空刃ソニック・ブレードを、初見のララポーザが剣で弾いて見せたのだ。



「やっぱアジリティ重視のテクニック系かい。それにしても器用やわ」



冷や汗を流しながらも、挑発するようにララポーザがニヤリと笑う。←誤解されがちだけど本人的には笑ってないつもり



「そんな大層な技じゃない。カルや団長なら、指一本で同じ事ができる」

「それ、聞きたくない情報やったわ」←誤解されがちだけど……以下省略。



「そろそろ、その他人を見下した笑い顔を消してあげる」

「糸目がみんな笑ってる思たら大間違いや!?」



慌てて否定しながら地を蹴り横に跳ぶ。

リンベルが左右に剣を打ち振り、先程とは比べ物にならない大きさの斬撃を飛ばしてきたのだ。

それを避け、円を描くように走り続ける。

その後を追うように、リンベルの斬撃が次々と襲いかかる。



「ほな、そろそろこっちも行くで!!」



突然軌道を変えたララポーザがリンベルに肉薄する。

それを迎え撃つように、リンベルが炎帝剣を横薙ぎに祓った。

胴体が切断されてもおかしくない斬撃がララポーザを襲う。

それを、



「もらったで!!」



宙返りしながら避け、真っ向から剣を振り下ろす。

勢いの乗った剣先がリンベルを襲う。

その時、リンベルがニヤリと笑った。



「はぁッ!!!!」

「なっ!?」



空中から襲いかかったララポーザが、まるで見えない手に叩かれたように弾き飛ばされた。

本気になったリンベルが魔力放出を行い、吹き飛ばしたのだ。

今までの斬撃は謂わばお遊び。

その魔力の漲った状態で再び剣を打ち振る。




「ちょ!?」



逃げ場を奪うようにララポーザの左右を二本の斬撃が通過する。

同時に、リンベルが一気に距離を詰めて来た。



ギンッ!!!

「でぇ!?」



あまりの威力に、剣を受けたララポーザが吹き飛んだ。

一回転……ニ回転……三回転目になんとか剣を地面に突き刺して止まる。

だがその時には、既にリンベルは目の前に迫っていた。

慌てたララポーザが、サッ!と右手を突き出す。



<ソニック・ブレード!? ままよッ!!>


手抜紅蓮ドラゴニック烈龍・スラッ……」

「参ったぁあああーーーーーーッ!!!」




剣を振りかぶったリンベルが、ララポーザの鼻先でつんのめるようにして制止した。

会場中もシーーーンと鎮まり返っている。



降参……?



腕を下ろしたララポーザが、両手を後ろに付いてリンベルを見上げた。

どうやら本当にギブアップしたようだった。

そう判断したリンベルがスーーーッと剣を鞘に収める。




「まさか、すんなり負けを認めるとは思わなかった」

「だって、勝てへんもん」



「しょ、勝者! リンベル・ラーゼン!!」


「「わぁーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」



裁定者の勝利宣言により我に返った観客達から大きな拍手と歓声が贈られた。

皆、リンベルのド派手な戦闘に魅了された証拠だった。




「はぁ……それにしても、もうちょい見せ場作れると思ったんやけどなぁ……」



笑いながらララポーザがスッと右手を上げる。

リンベルが手を差し出してきたのだ。

その手を掴むと、リンベルが握手をしながら起こしてくれた。




「いやぁ、それにしてもあんさん強いなぁ。自分、惚れてま……」


「ごめんなさい」


「即答!? 最後まで言わせてもくれんのかい!? いや、そこはちょっとくらい考えてやな……」

「考えるまでもない」

「なんでや!?」

「喋り方がムカつくから」

「うっわ!? 方言ディスられたわ!」

「あ、ごめん。今のはちょっとデリカシーなかった。訂正する。ムカつくのは喋り方じゃなくて、顔の方って事で……」

「もっとデリカシーないわ! なんちゅー事言うねん!」

「まだ言い足りないくらい。例えばその……」

「もう充分や! これ以上心抉らんといて!」

「分かった」

「はぁ……ほんま、めんこい女子にこーまではっきり言われんと、さすがにショックやわぁ」

「介錯、する?」

「そこまでショック受けとらんわ!」


「私の事、遊びだったってこと!?」


「ナンでそっちがショック受けとんねん!? てか、もう漫才はええわ。 ……マジメな話し、嬢ちゃんに一つ聞きたい事あんやけど……」

「そんなニヤケ顔で、マジメとか……」

「顔はもうええねん! とにかく一つ答えてや」

「なに?」

「あんさん、えらい強いけど、学校では何番なんや?」

「強さ? 剣術なら三番目、かな?」


「三番ッ!? マジかい……」


「因みに、魔術も含めた強さで言ったら三番も怪しい。ひょっとしたら四番か、五番」


「へ、へぇ……? 因みに、大将のシリングはんは?」

「カル? カルは、私の一万倍強い」




クスリと笑ったリンベルが踵を返して立ち去る。

ララポーザはそれを呆然と見送るのだった。








「すんまへん、負けました」



ララポーザが頭を掻きながら笑う。

もう完敗過ぎて、笑うことしかできなかった。



「学生のレベルを超えてるな。仕方ないだろう」

「ほんま、メラクレ・ナイツ以上の暴れっぷりでしたわ。ドエルはん、気ぃつけてや。大将のシリングはんは、嬢ちゃんの一万倍強い言うとりましたで」


「分かった」





「これより大将戦を行う! ゼノン・ドエル! カル・マ・シリング! 前へ!」




その瞬間、アリーナにはリンベルの時とは違うどよめきが起こった。

皆、大将は学園騎士団長アカデミー・ナイツリーダーのアラン・オリバーだと思っていたのだ。




「え? なんで?」

「オリバー様は?」

「て言うか、シリングって……魔術科だよな?」

「でも学園騎士団アカデミー・ナイツの一員だぜ?」

「それにしたって、魔術師が剣の勝負なんて出来ないだろ。攻撃魔法は禁止なんだぜ?」

「もう決勝進出は決まってるから、戦力温存とか?」

「決勝前に治癒魔法で全快にしてくれんだ。温存する意味ないだろ」





「あの……クレアさん?」

「なに?」

「他の学生さんって、実はカル様が凄い剣士だって事実、知らないんですか?」

「うん、知らないんじゃないかな。えへへ、だから楽しみなんだよね」

「ぜったいド肝抜かれますね」




クレアとスイレンがクスクスと笑う。

その視線の先では、ドエルとカルが闘技場へと足を踏み入れていた。









その頃。

レイゼバッハ王国大使館の一室では、イスメラルダが王立魔剣士学院の制服に着替え、ピンと背筋を伸ばして椅子に腰掛けていた。

目の前のテーブルには一通の手紙がある。

差出人はアラン。

そこにはスイレンが襲われて大怪我したものの、今は無事にこちらの保護下にある事。

そして対抗戦の当日、戦いの準備をしていて待っていて欲しい。

そう書いてあった。




イスメラルダが窓の外をチラリと見る。

試合はもう始まっているはずだった。

その時、部屋の中央に黒い渦が巻き、中からアランとレンレンカブレがスーーーッと現れた。



「お待たせ、イース」

「アラン様!」



立ち上がったイスメラルダが今にも泣き出しそうな顔でアランを見つめる。

本当はアランに抱きつきたいのだが、それを必死に堪えている顔だった。

なぜならこの後、二人は互いに手加減なしで戦う事になっている、謂わば敵同士なのだから。


歩み寄った二人が互いに見つめ合う。

実はアランもイスメラルダと同じ気持ちだった。

今すぐイスメラルダを抱きしめたい。

だがそれはまだだ。



「これを」



そう言って、アランが手に持っていた剣を差し出した。

それはカールソンに取り上げられていたイスメラルダの剣、シルヴェスタルだった。



「ありがとうございます、アラン様。……それにしても、よく隠し場所が分かりましたわね?」

「予めカルが探っておいてくれたんだ。だからここに来る前、レンレンに頼んで取ってきた」

「そうでしたか。レンレンさん、ありがとうございます」

「気にすルな。お安いご用だったのダ」




レンレンカブレが照れながらもにっこり笑う。


<あぁ……やはり、この方達と一緒にいると心が安らぎますわ……>



この二、三日、ずっと眉間に皺を寄せていたイスメラルダが穏やかに笑った。

それを見てアランも笑う。

やはりイスメラルダには笑顔が似合った。

後はこの笑顔を手に入れるのみだ。




「さぁ、行こうか」

「はい、アラン様!」



アランの差し出す手を取り、イスメラルダが元気よく答える。

そして三人はゲートの中へと消えていくのだった。










所は戻って闘技場。

今まさに、メラクレール公国とベル・アザル王国の大将戦が始まろうとしていた。




「何やら、貴公は魔術師だと言う会話が聞こえてきたのだが?」

ドエルがカルを睨みつけながら、スーーーッと剣を抜いた。




「そうだな。だが安心しろ。俺は剣でも強い」

そう言って、カルが異空間から黒塗りの剣を引き抜く。

そして構えるでもなくダラリと構えた。




「始め!!」

ーーーッ!?



開始と同時にドエルが慌てて剣を構える。

目の前でもう、カルが剣を振りかぶっていたのだ。



ギンッ!!!!

「ぐぅ!?」



横薙ぎの剣を、左手を添えてまで受け止めたのだが、受け止めきれずに吹き飛んだ。

腰の入っていない、ただ腕を振り回したようにしか見えない斬撃。

なのにとてつもなく速く、そしてやたらと重い一撃。

だが無様に転びはしない。

数十メートル飛ばされはしたが、何とか立っている。

そこにもう一発。



ギンッ!!!!

「くっ!?」



再びドエルが吹き飛んだ。

それも壁際まで。

たった二回剣を交えただけで、もう追い込まれてしまった。

そこに三度カルの剣が迫る。



ガギンッ!!!!

「ぐぬッ……!?」



カルの上段からの斬り下ろしを何とか受ける。

フェイントも何もない。

今から打ち込むぞと言わんばかりの構えからの単純な斬り下ろし。

それを全魔力を腕に回して何とか受け止める。

撥ね返すなどもってのほかだった。

体格はドエルの方が圧倒的に優位なのに、支える腕はガクガクと震え、足の裏が地面にめり込む。

理不尽な強さだった。




「ここまで手も足も出んとは……ラーゼン嬢より、一万倍強いと言うのも頷ける……」

「リンがそんな事を? だが、それはちょっと大袈裟だな。せいぜい千倍ぐらいだ」


「大して、変わらん……」



ドエルが脂汗を滲ませながら何とか苦笑いを浮かべる。

その時、ドエルの持つ剣がバキンッ!!と真っ二つに斬れた。

押し斬ったカルの剣が、ドエルの眼前でピタリと止まる。




「貴公の勝ちだ」



「勝者! カル・マ・シリング!!」

「「うわぁーーーーーーーーーッ!!!」」




初めてカルの剣技を目の当たりにした生徒達から大きな歓声が上がった。

学園騎士団アカデミー・ナイツに在籍している以上、強いのは知っていた。

だが剣術大会で勝つほどの腕を持っているとは想像すらしていなかったのだ。

まさにド肝を抜かれたのだ。

その時、クスッと笑ったカルが右腕を高々と突き上げた。




「「わぁーーーーーーーーーッ!!!」」



途端に大歓声と大拍手が沸き起こる。

カルのファンサービスにアリーナ中が熱気に包まれた。


だが、カルは観客達に応えた訳ではなかった。

多数の歓声に混じって、



「やったぁ! カル様ぁーーーーーーッ!! 素敵ですーーーーーーーーーッ!!」



と大声ではしゃぐクレアの声が聞こえたからだった。









聖導学園控室。

決勝戦開始の三十分前。

ベル・アザルとレイゼバッハの各選手には体力と魔力回復の時間が与えられていた。

その決勝戦までの合間に、



「スイレンッ!!」

「イース様ッ!!」



イスメラルダとスイレンの二人は、ここで無事、再会を果たしていた。



「ごめんなさい、スイレン……まさか、命まで狙われるなんて……私の判断ミスです……」

「いえ……油断していた私が悪いんです。私こそ、心配をおかけしてすみませんでした」

「なにを言うのです……私が、軽率に伝言をお願いしたから……」

「違います……私が街中に入れば安心だと……勝手に思って……」

「いいえ、私が……」

「違います。私が……」


「もう、そんなのどっちだっていいじゃない! わーーーん、よかったよーーーーーーッ!!」



もう居ても立ってもいられなくなったのだろう。

クレアが泣きながら二人を抱きしめた。



「く、クレアさん……」

「なんでクレアさんが、泣いてるんですか……」


「だってぇ〜〜〜!!」


「クレア、少し落ち着け。二人が困ってるぞ」

「カル様ぁ!」



泣きじゃくるクレアを見てフッと笑ったカルが、二人からクレアを引き剥がす。

するとクレアが空かさずカルの胸に抱きついた。



「分かった分かった。俺の胸で泣いてろ」

「う〜〜〜!……ぐじぐじ!」



「邪魔したな」


「い、いえ……クレアさんのおかげで落ち着きましたわ……」

「お見苦しいところをお見せしました」



苦笑いを浮かべたカルに、イスメラルダとスイレンが涙を浮かべながらも何とか微笑んだ。



「それにしてもスイレン……ズルいですわよ……私を差し置いて、ちゃっかりそんなポジションに……」

「ふふ……すみません。でも、せっかく機会を与えてもらえたので……」

「ちょっと羨ましいですけど、別に責めてる訳ではありませんわ。私が許します。全力でおやりなさい」

「はい!」

「それと……カル様、デルニックさん。お礼が遅くなってしまいました。

スイレンを救っていただき、本当にありがとうございます」

「当たり前の事をしただけだ。気にするな」

「うん」

「ふふ……これで私も、心置きなく戦えますわ」

「あぁ、そうしろ。思い残す事のないようにな」

「はい」


「……さて、……アラン、俺達はそろそろ移動する。クレア、もういいか?」



そう言ってカルがクレアの頭を優しく撫でると、クレアが「はい……」とはにかみながら離れた。



「僕達はここにいるよ。例の梟も用意してくれてるみたいだしね」

「それがいいな」

「じゃあ……私達も行きます。カル様、また……」

「ああ」

「ますター! 今度は私も目一杯応援するかラな! がんばるのダ!」

「任せとけ。と、その前に……アラン、景気づけに一言頼む」

「え? カルが大将なんだから、カルでいいんじゃないかな?」

「いや、こういうのは団長の仕事だ」

「そうかい? じゃあ……」



そう言ってアランが言葉を切り、一同を見回した。

皆、笑顔でアランの言葉を待っている。



「主役は僕たちだ。それを奴らに分からせてやろう」


「おぅ!!」

「「はいッ!!」」











「もういいのか?」



近づいてきた男にドエルが無愛想に尋ねる。

顔は厳ついが、これがこの男のデフォルトであって、決して不機嫌な訳ではなかった。



「おかげさまでな」



そう答えるのはコーラル。

カールソンに敗れはしたものの、重症ではなかったという事もあり、治癒魔法と魔力補給のポーションでほぼ完治していた。



二人がいるのは客席の最前列。

予選で敗退した選手達に与えられたエリアだった。




「で? どっちが勝つと思う?」


ドエルの横に腰掛けながらコーラルが尋ねた。すると、


「カル・マ・シリングだ」


と、即座に答えが返ってきた。



「ずいぶんと自信あり気だな?」

「格の違いだ。お前は違うのか?」

「あれを喰らった身としてはな。だが心情的にはシリング殿だ。できればボコボコにして欲しい」


「ふっ……」



ドエルが思わず吹き出した。

真面目で恨み言など言わない男だと思っていたのだ。

それを見てコーラルもふふ……と笑う。




「これよりレイゼバッハ王国、魔剣士学院対、ベル・アザル王国、聖導学園の決勝戦を始める!

先鋒、ヴェルドー・ヘクトール! デルニック・ミストバーン! 前へ!!」



「「わぁーーーーーーーーーッ!!」」




「始まるな」

「俺達は観客の立場だ。楽しませてもらうとしよう」

「そうだな」










大歓声の中、両者がゆっくりと闘技場へと足を踏み入れる。

すると更に大きな歓声が上がった。




「さっきの試合を見させてもらった。呪符であんな事が出来たのには驚きだが、種が分かった以上、俺には通じん」

「お互い様さ。加速の刻印術式、剣だけじゃなく、どうせ四肢にも刻んでるんだろ?」


「……どうやら、初手から全力で行くしかないようだな」

「元から僕はそのつもりさ」



睨み合いながら両者が剣を抜く。



「始め!!」

ギンッ!!  



開始の合図とともに両者の剣が火花を散らした。

が、その場での斬り合いを避け、直ぐさまヘクトールが地を蹴り移動する。

二刀を繰り出すデルニックの手数を警戒したのだ。

しかし、デルニックは逃さない。



ギンッ!! ギンッ!! ギンッ!! ギンッ!!



逃げるヘクトールをデルニックが追いかける。

剣の腕はデルニックの方が上だった。

ヘクトールの顔に焦りが滲んで見える。



<このまま押し切る!>



そう決意して壁際まで追い込んだ時だった。



ぞわ。

ーーーッ!?



身体中の魔力を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

慌てて地を蹴り後退する。





「どうした? 来ないのか?」

「これ以上行くと魔力を吸われるからね。つくづく卑怯な連中だ」

「ふん、何の事か分からんな?」

「ならなんで、そこから離れないんだい?それが証拠だよ」


「…………」


「埒があかないね」



相手の戦術に怒りを覚えたデルニックが目を細め、手に持った二刀を鞘に収めた。

それを見てヘクトールが眉をひそめる。

剣を仕舞う。その意図が掴めなかったのだ。

だがヘクトールは知らない。それはデルニックの本気。

デルニックは剣士ではない。

あくまで二刀も使える体術家であるということを。

そのデルニックがスッと両手を広げた。

指の間には八本のスローイングナイフが挟まれている。

それを同時に投げ撃つ。

八本のナイフが同時にヘクトールに襲いかかる。



ギンッ!!!



だが、それらを弾くくらいの腕をヘクトールは持っていた。

問題はその後だった。

デルニックが両手を振り回す。

すると弾かれたナイフ達が、今度は別々の動きでもってヘクトールを襲ってきたのだ。

まるで意思を持った生き物のように。



「糸かッ!!」



次々と襲いかかるナイフを剣で弾きながらヘクトールが叫ぶ。

スローイングナイフには細いワイヤーが結ばれていた。

指の動きと魔力でもってそれらを操っていたのだ。

だからこの攻撃は無限地獄。

いつまでも剣一本で凌げるものではない。

現に、致命傷ではないが身体のあちこちを刻まれ始めていた。



「くそっ!!」



ついに耐えきれなくなったヘクトールが飛び出し、デルニックに斬りかかる。

懐に入り込めばナイフは使えない。

そして相手はまだ剣を抜いていない。



った!!>



ヘクトールが勝利を確信した。

その瞬間……、ヘクトールの剣が空を斬った。

糸を切ってスッと右足を引いたデルニックが、半身になりながら左手で剣を叩いたのだ。

そしてそのままヘクトールの手首を掴み、関節を捻りながら背負い込む。



「ぎゃあーーーーーーッ!?」



肩と肘の関節がゴキンッ!と砕かれた。

ヘクトールの悲鳴が尾を引きながらくるんと宙を舞う。

頭から真っ逆さまに地面へと叩きつけられる。



ドゴンッ!!!



アリーナ中がシーーーンと静まり返った。

ヘクトールは気絶したらしく、ピクリとも動かない。




「勝者! デルニック・ミストバーン!!」


「「うおぉーーーーーーーーーッ!!」」




観客の声援を背に立ち上がったデルニックが、レイゼバッハの控え室をスッと睨みつける。

そして、おもむろに中指を立てた。


ざまあみろ。


口には出さないが、立てた指がそう告げていた。





「あの野郎……」



踵を返して立ち去るデルニックを睨みつけながら、ザールがわなわなと震えた。

デルニックの挑発により額には太い血管がくっきりと浮き上がっている。

更にその時、デルニックの向こう……相手側控え席にいるリンベルと目が合った。

今度はそのリンベルが、べーーーッ!と舌を出す。

まるでザールの事を小馬鹿にするように。




「ああ、もうダメだ……カールソンさん、次……殺っちまってもいいっスよね?」

「いいだろう。但し、殺るなら一発で仕留めろ。それが条件だ」

「ヘヘ……了解!」



カールソンの許可を得たザールがニヤリとほくそ笑む。




「これより二回戦を始める!

レイゼバッハ王国、魔剣士学院、ブロッケン・ザール!

ベル・アザル王国、聖導学園、スイレン・ターク!

前へ!!」



「「なにっ!?」」



裁定者のコールを聞いた瞬間、カールソンとザールが思わず叫んだ。

それはそうだろう。

死んだ筈のスイレンが、よりにもよって聖導学園の選手として闘技場に入場してきたのだから。



「あの野郎、死んでなかったのか!!」

「どういう事だ、ザール!」

「いや、それが……実は腕を切り落としたんで、てっきり死んだもんだと……」

「バカ者! ちゃんと確認してなかったのか!?」

「すいません……」

「ええい、道理で奴らが魔剣の事を知ってる訳だ。こうなったらザール、分かってるな?」

「これ以上、余計な事をバラされる前に殺れってんでしょ? そのつもりですよ」




そして、動揺しているのはアリーナで観戦する生徒達も同じだった。

リンベルを差し置いてスイレンが出場する?

それに何より、スイレンは聖導学園の生徒ではない。期間限定の編入生なのだ。


だがそのどよめきを吹き飛ばすように、学園騎士団アカデミー・ナイツの面々から大きな声援が上がった。




「スイちゃーーーーーーん! がんばれーーーーーーッ!!」

「お前達、声出しテくぞ! そーれ、ス、イ、レン! ス、イ、レン!」


「「ス、イ、レン!! ス、イ、レン!! ス、イ、レンッ!!」」



その声に釣られ、他の生徒達も顔を見合わせ、そして現状を受け入れる。

編入生だからなんだ。スイレンは聖導学園の制服を着ている。

ならスイレンは聖導学園の生徒だ。



「がんばれ、スイレーーーーーーッン!!」

「聖導学園の力を見せてやれーーーーーーッ!!」


「「ス、イ、レン! ス、イ、レン! ス、イ、レン! ス、イ、レンッ!!」」




「ちっ!! うっせぇなぁ……ったく、気に入らねぇんだよ。

声援が気に入らねぇ。

声援すりゃ勝てるって思ってる奴らが気に入らねぇ。

ま、一番気に入らねぇのはオメェだけどな、ターク。

まさかあれで生きてるとは思わなかったぜ。さすがは逃げ足ターク、まるでゴキブリだな」



「……前から思ってましたが」



「あん?」

「あなたはいつも口だけですね、ザール」

「何だと!」


「大した腕でもないのに口だけは達者。いつもギャアギャアと喚いて周りを威嚇するばかり。現に、武器も持たない私も殺せなかったではありませんか。

私が逃げ足タークなら、あなたは口だけザールですね」


「あんだと、てめぇ!!」


「ほら、また下品に喚き散らす。ここは闘技場。口ではなく、力で優劣を決める場所です。それをこれから、あなたに教えてあげましょう」



「おもしれぇ! やってみろやぁ!!」

「は、始め!!」



ザールが飛び出したのを見て、裁定者が慌てて開始の合図を出した。


一足飛びに近づいたザールが袈裟斬りに剣を振り下ろす。

それを、スイレンはサッと身を引いて避けてしまった。

その後もザールが剣を右に左に振り回すが、その尽くをスイレンは避けまくる。

速い身のこなしと優れた動体視力が無ければ出来ない芸当だった。




「ちょこまかと上手く避けんじゃねぇか!!」

「振り回すしか能のないあなたの剣なんて、当たる訳がないでしょう」



「ほざけ!!」




剣で弾き、あるいはサッとかわす。

口では挑発しているが、悔しい事に剣の速さだけは本物だった。

おそらく一撃食らえば終わり。

そして、持久力も自分より上だろう。



<でも、負けられない! せっかくカル様とリンさんが仕返しのチャンスをくれたんだ、絶対に勝つ!!>



スイレンは剣をいなしながら、じっとチャンスを伺っていた。

一撃で相手を戦闘不能にする為にはカウンターしかない。

そのチャンスを。

とは言え、相手もカールソンの懐刀と呼ばれた男だ。

おいそれと隙など見せない。なら、



<隙がないなら、作る!>



この時、初めてスイレンが攻勢に出た。

ザールの斬り込みを剣で弾き、そのまま一歩踏み込んだのだ。

横薙ぎに胴を狙う。

だが、その時をザールは待っていた。



「しゃあ!!」

ーーーッ!?



ニヤリと笑ったザールが、弾かれた剣を膂力でもって強引に振り上げる。

不意を突かれ、受け損なったスイレンの手から剣が離れ、クルクルと宙を舞う。



「死ねやぁ!!!」



剣もない。

盾もない。

そして、避ける事も出来ない完璧なタイミング。

勝ちを確信したザールが両手で剣を握りしめた。

そして、スイレンを真っ二つにする勢いで振り下ろす。


だが、それこそがスイレンの仕掛けた罠だった。

左拳が光り、魔法陣が広がる。




「なっ!?」

バチンッ!!




両手で剣を握りしめたのが仇になった。

渾身の一撃をシールドに弾かれ、無様にもバンザイしてしまったのだ。




「いやぁーーーーーーーーーッ!!」

「ぶべッ!?」




無防備なザールの顔面に、スイレンの固く握った右拳が炸裂した。

鼻血を撒き散らしながらザールが二十メートル以上も吹き飛ぶ。

カルの盾を展開しての右ストレート。

それをまともに食らった為、鼻は潰れ、顎骨は粉々に砕けていた。

もちろん、ザールはピクリとも動かない。




「はぁ!! スッキリしたッ!!」



「勝者、スイレン・ターク!!」

「いやったぁーーーーーーーーーッ!!!」








「スイレン、やりましたわね」


カルの設置してくれたライブ映像を見ながら、イスメラルダが我が事のように喜びを露わにした。

これでスイレンも剣士として一皮剥けた事だろう。



「もうスイレンを馬鹿にするような奴はいなくなるだろうし、言わせもしないだろうね」

「はい。また一つ、私の心残りがなくなりましたわ」

「それは良かった」



二人がクスッと微笑む。



「さて、そろそろ僕達も行こうか」

「はい、アラン様」



そう言って、二人が肩を並べて歩き出す。

壁に映ったライブ映像には、闘技場の中央で睨み合うカルとカールソンの姿が映し出されていた。









「はぁ……まったく、我が部下達ながら情けない事だ。そうは思わんか?」

「別に。元々、大した奴等でないのは分かってたからな。分相応の負けっぷりだと思うぞ?」




大将戦。

闘技場の中央でニヤリと笑うカルを、カールソンが不機嫌そうに睨みつけた。

カルの挑発にカチン!ときたのだ。

もっともカルにしてみれば、「別に挑発なんかしてない。本当の事を言って鼻で笑っただけだ」と切り捨てることだろう。


そんな二人のやり取りが聞こえている訳ではないだろうが、アリーナはシーンと静まり返り歓声の一つもなかった。

予選では、どちらも圧倒的な強さで相手を降した為、皆、固唾を飲んで見守っているのだ。




「ふむ……こうして向かい合うと分かる。ドエルを降したのがまぐれでない事がな。だがそれでも、私には敵わぬと知れ」

「ふん……相手の力量なんか分かりもしないのに、なに大物ぶってんだ。滑稽だからやめとけ」



再びのカルの挑発に、カールソンの眉がピクリと動く。




「……身の程知らずめ。我が覇気を食らっても同じ事が言えるか楽しみだ」


カールソンがスーーーッと剣を抜く。

それを見て、カルも異空間から黒塗りの刃を引き抜いた。

そしてダラリと構える。




「ガキのごっこ遊びじゃあるまいし、本当に覇気なんてもんがあるなら見せてみろ」



「始め!!」



「ならば喰らうがいい!! はぁッ!!!」



カールソンの気合い声が闘技場に響き渡る。

その途端、裁定者がフラリとよろめき、観客達は背筋にゾクリとしたモノを感じた。

微量とはいえ、魔力を吸われたのだ。

それはカールソンが魔剣を制御しきれていない証だった。

の、だが……カルは何事もないようにスタスタと近づいてきた。

それを見て慌てたのはカールソンだ。




「へ? は、はぁ!  はぁーーーーーーーーーッ!!!

はぁあああーーーーーーーーーッ!!!!」



「どうした? 早く覇気とやらを見せてみろ」




顔を真赤にさせて吠えるカールソンをカルが嘲笑う。




「そんなバカな! ありえない! ありえない!! 剣は魔力を吸っている! 間違いなく吸っている!! なのに何故、お前は平然としていられるのだ! ありえん! これは何かの間違いだッ!!」



「お前……覇気がどうとか言う設定はどこ行ったんだ? バカなのか?」



「そ、そうか! 指輪だ、指輪の調整が狂ったのだ。でなければ……」

「いい加減にしろ!」


「ひゃ!?」



カルが剣を振り上げていたのに気づいたカールソンが慌てて頭を抱える。そして、



バキンッ!!

「「斬った!?」」



観客達の目の前で、カールソンの握った魔剣が真っ二つに断たれた。

直後、可視化できる程に溜め込んでいた膨大な魔力が解放され、天へと立ち昇っていく。



「あ、あぁ…………」



やがて魔力放出が収まると、カールソンはガクリと膝を折った。

そして呆然とした顔で手元を見る。

そこには真っ二つに斬られ、ガラクタと化した魔剣、ディルバレットの姿があった。




「な……なんて事を…………なんて事をおぉおおおおおおーーーーーーーーーッ!!

殿下にお借りした剣が、剣がぁああああーーーーーーーーーーーーッ!!!」




折れた剣を両手で掴んで繋がってくれと願うようにカチャカチャと切れ目を合わせる。

ガタガタと身体は震え、涙と鼻水と涎を垂れ流し、目の焦点も合っていない。

完全に取り乱していた。

それはそうだろう。

何せ魔剣ディルバレットは王家の秘宝。

それをこんな姿にしてしまっては、もはや死は免れない。


そんなカールソンの前にカルがスッとしゃがみ込んだ。




「お前はこの場所に相応しくない。目障りだから失せろ」

「へ……? 」



デコピンッ!!!

「ぴゃげりゃぶびばらけた〜〜〜ッ!?」



カルがカールソンの額を指先でピン!と弾いた。

ようにしか見えなかったのに、カールソンは高速でくるくると回転しながら

一直線に吹き飛び、顔からビタンッ!!!と壁に張り付いた。

まるで潰れたカエルのように。

やがて、


ずる……ずるるるる…………パタン



と地面に倒れ込む。

途端に、アリーナ中がぷっ!と笑いに包まれ、直後には大きな歓声に変わった。

裁定者の右手が高々と上がる。



「勝負あり! 勝者、カル・マ……」

「待てッ!!!」


「え……?」



勝利宣言を遮り、カルの大音声がアリーナ中に響き渡った。

裁定者が右手を上げたまま固まり、拍手喝采していた観客達は何事かと静まり返る。




「ここに集まった生徒達、そして各国の来賓の方々に問おう。

こんなのが本当の大将戦だと思うか?

こんな無様に醜態を晒した奴が、武門の誉れ高い、あのレイゼバッハの剣士だと思うか?


……思わぬだろう?

そう、答えはノーだ。


なぜならこいつは自分の栄達の為、権力でもって本当の代表を退け、身の程も弁えずに大会に潜り込んだ痴れ者だからだ


よって、こちらも本気で相手をしなかった。

我が学園最強の剣士であるアラン・オリバーを差し置いて俺が出場したのはそれが理由だ。


だが安心しろ。

こんなのは前座、これから本当の大将戦を執り行う!!


紹介しよう!


ベル・アザル王国、聖導学園大将、アラン・オリバー!!

そしてレイゼバッハ王国、魔剣士学院大将、イスメラルダ・レーベンハイトだ!!」





アリーナがザワザワとざわめく。

本当にアランとイスメラルダが入場してきたのだ。

やがて闘技場の中央に達したイスメラルダが、カルに向かって深々と一礼した。



「カル様、我がレイゼバッハに汚名返上の機会を与えてくださり、感謝いたします!」



イスメラルダの凛とした声がアリーナ中に響き渡った。



「ですがその前に、ケジメをつけさせてください」




顔を上げたイスメラルダはにこりと微笑むと、踵を返し、観客席へと歩き出した。

カルやアラン、観客達が何事かと見守る中、イスメラルダが客席の片隅に設けられた敗戦校の控え席前でピタリと立ち止まる。




「コーラル殿、私はレイゼバッハ王国、イスメラルダ・レーベンハイトと申します。

本来なら此度の対抗戦、大将を務める予定でした。

にもかかわらず、私の不甲斐なさからあのような者に代表を名乗らせ、挙げ句、騎士にあるまじき卑劣な振る舞いをさせた事、レイゼバッハ王国を代表してここに謝罪いたします。誠に申し訳ありませんでした」



そう言って謝罪するイスメラルダを、コーラルは無言で見つめた。

今更なにを……そんな顔だ。



「ご不満はごもっとも。

本来なら試合を棄権し、委員会による沙汰を待つべきところですが、既に決勝戦。相手も待っております。

そこで、私とコーラル殿にて一戦し、勝った方がアラン様との戦う権利を得る。それでお納めいただけないでしょうか?」


「決勝戦を掛けて戦うと?」

「はい」


「ふむ……よかろう。ならば一戦仕ろう!

と、言いたいところだが……私が勝ったとしても二敗は覆えらない。お気持ちだけ受け取ろう」



「それに……シリング殿のお陰ですっきりしたしな(小声)」

「ふふ……実は私もです(小声)」



イスメラルダの返しを聞いたコーラルがふっと笑った。そして大きく息を吸う。




「大将戦で不正があったとはいえ、こちらの二敗は覆えらない!

にも拘わらず、決勝戦出場を掛けて大将戦にて雌雄を決しようというその気概、気に入った。さすがはレイゼバッハの剣士だ!

その気概に免じ、此度の決勝戦はお譲りする!」


「お気持ち、感謝いたします! 決勝戦に恥じぬ戦いをお見せする事を、ここに宣言いたします!」



「うむ。心置きなく、オリバー殿と戦われよ」

「はい!」




その時、アリーナ中がこの日一番の拍手に包まれた。

イスメラルダの凛とした振る舞いと、コーラルの心遣いに感動したのだ。

その拍手を背に、イスメラルダが再び踵を返す。

アランの待つ、闘技場の中央へ。





「お待たせいたしました、カル様、アラン様」

「ふっ……何もかも吹っ切れたようだな」

「おかげさまで。カル様には、本当にお世話になりましたわ」

「気にするな。それじゃあ、アラン……俺は下がる。闘技場には結界を張っておくから安心しろ」

「何から何まで悪いね」

「あぁ」




アランの礼に笑顔で返すと、カルは裁定者を促して闘技場を去って行った。

この戦いに審判は不要だ。

なぜなら勝敗は二人が決めるからだ。

それになにより、全力で戦う二人の側にいるなど自殺行為だった。




「アラン様」

「なんだい?」

「実は私、レーベンハイト家を王国に返上する事といたしました。

カル様のお手をお借りし、書面は先ほど、陛下へと提出済みです。

故に、厳密には私はレイゼバッハの代表ではありません。

一剣士として、アラン様に決闘を申し込みます。受けていただけますね?」

「もちろん」

「先にも言いましたが、私が負けたら、あなたの言う事をなんでも一つお聞きします。ですが、もし私が勝ったら……」

「勝ったら?」


「なんの地位も、名誉も、財産もない私を、お嫁さんにしてください」



そう言って、イスメラルダははにかみながらアランの目を見つめた。

その美しさに思わず見惚れたアランが、ふっ……と笑みを零す。



「いいよ。僕が負けたら、君を妻に娶ろう」

「あ、ありがとうございます! ならば、全力で勝たせていただきます!」


「それじゃあ、僕が勝った時の条件だけど……」


「あッ!? よ、喜びのあまり、失礼いたしました。どうぞ、アラン様の希望をお聞かせください」


「僕が勝ったら、イース……君をいただくとしよう」

「え……?」




イスメラルダの表情が固まる。

とっさにアランの意図が理解できなかったのだ。

が、それも一瞬……直ぐにその顔が複雑な笑みへと変わった。

決闘まで持ち出して思い切って告白したのに、しれっと告白で返されたのだから当然だ。

おまけにこれでは……、



「あの、アラン様? これって……もう決闘の意味がないんじゃありませんの?」

「そんな事はないさ。カルが言ってたよ。

『男と女の関係は、初めにしっかり上下関係を決めておかないと、後々面倒になるぞ……』

ってね」

「ふふ……カル様らしいですわね。でも……それは真実だと私も思いますわ」

「それじゃあ、今後の主導権を賭けて……」

「はい。どちらが上か、はっきりさせるといたしましょう」




くすりと笑った二人が、スッと剣を引き抜いた。









「ねぇ、カル……どっちが勝つと思う?」

「そんなの決まってるだろう」



リンベルの問いかけに、カルがニヤリと笑う。

直後、イスメラルダの巻き起こした暴風が闘技場に吹き荒れた。









「お呼びでしょうか、父上?」



重厚な扉を家臣に開けさせ、一人の男が入室してきた。

ここはレイゼバッハ王国、レイゼンバーグ城の王宮広間。

謁見にも使われるそこで、国王のトレルバーダ・レイゼンバーグが気怠そうに男を迎えた。

男の名はウラバス・リラ・レイゼンバーグ。

トレルバーダの長男で、レイゼバッハ王国の次期国王だ。

そのウラバスが辺りをサッと見回す。

謁見の間には大臣達はおろか、護衛の騎士すらいなかったのだ。

いるのはトレルバーダの片腕たる、宰相のランドルフのみ。




「いつも小うるさい大臣達がいないようですが?」

「儂が人払いした」

「人払い?」




ウラバスが怪訝な顔で尋ねる。

それに対し、トレルバーダは玉座の上から、まるで他国の使者を威圧するかのような視線でウラバスを睨んでいた。




「そ、それで? 人払いまでして、父上はいったい何をご相談に?」


「単刀直入に問おう。ウラバスお主、儂の知らぬ間に、イスメラルダになにをした?」

「何をしたとは心外です、父上。両親を亡くし意気消沈している従姉妹に、その支えとなる者を充てがってやろうとしたまでです」

「あんな男が頼りになると? 口だけが達者なお主の腰巾着に箔をつける為の縁談としか思えんが?」

「口だけが達者とはまた、父上はカールソンを誤解しております。彼の者は武勇に優れ、軍略や政治の知識欲も旺盛で、将来我が片腕となる素質を持った有望なる者でございます」


「……ウラバス」

「はい」


「お主には軍を統べる騎士としての力が決定的に不足している。故に、学を収め、人徳を積み、人を見る目を養い、国の役に立つ者を引き立てられる王になれと常々言ってきた」

「もちろん、父上のお言葉は常に我が心にあります」

「その結果があれか。あのような男がお主の側近候補かと思うと、この国の将来が思いやられるな」

「益々以って、父上はカールソンを誤解しております。

実は此度の四校対抗戦、カールソンの実力を示す良い機会と捉え、急遽大将へと抜擢いたしました」

「大将はイスメラルダであった筈だが?」

「もちろん、イスメラルダも同意の上です。我が夫となるカールソンの腕を見極める良い機会と判断したのでしょう。かの者は必ずや、我が国に勝利をもたらし、最優秀選手の称号を持って凱旋する事でしょう」


「はぁ…………ランドルフ」

「はっ!」

「このバカ息子に、自らの犯した罪の重大さを教えてやれ」

「承知いたしました、陛下」


「ば、バカ息子……?」


「ウラバス殿下、先ずはこれをご覧ください」




そう言ってランドルフが玉座脇のテーブルにあった梟の人形をポンと叩く。

すると梟の両目が光り、何もない空中にリアルな映像を映し出した。



「なっ!?」



それを見た瞬間、ウラバスの表情が凍りついた。

初めて目にする魔道具に驚いたのもあるが、問題はそこではない。

映像はカールソンが魔剣、ディルバレットを引き抜いたシーンから始まったのだ。

本来ならカールソンが手にする事など絶対にあり得ない、王家の秘宝を使用しているシーンから。


おまけに、その後の展開は目を覆いたくなるような醜態だった。

衆目の前で魔剣が効かないと喚き散らし、あろう事か剣を破壊され、挙げ句の果てにデコピン一発でノックアウト。

もしそれだけで終わっていれば、レイゼバッハの武名は失墜。

他国には永遠に蔑まれていたことだろう。

それを救ったのは、誰あろうイスメラルダだった。

彼女の振る舞いと、負けてはしまったが大将戦での戦いは、先のカールソンの失態を補って余りある物だった。

はっきり言えば痛快。

胸のすくような物語の主人公を見ているようだった。

但し、カールソンを推した本人でなければ。




「こ、これは?」

「つい一時間ほど前、王国魔術師キングダム・メイジが王宮への転移魔法を感知した。その時届いたのが、これと二通の手紙だ。

一通はこれの使用方法。そしてもう一通はこれだ」



そう言ってトレルバーダがテーブルの上から一枚の書状を手に取った。

それを受け取ったランドルフが、階を降りてウラバスへと手渡す。

それはイスメラルダから国王トレルバーダへと宛てた手紙だった。

それに目を通したウラバスの表情がサーーーッと青ざめる。



「こ、これは王国への反逆です! 父上! 即刻、イスメラルダを召還するべきです!」



「書状にはイスメラルダの現状と、決意に至った経緯が理路整然と書かれておる。

儂の知らぬ間に、よくもまぁイスメラルダをここまで追い込んだものよ。

おまけに、それをさせたのがお主とあっては、国を捨てて国外へ逃げるしかあるまい。

それを国家反逆の罪で捕らえろと?

妹の忘れ形見であるイスメラルダを罪人扱いしろと?

お主はどこまで恥知らずなのだ」


「そ、それは……」



「一応、この映像がフェイクの可能性もある。

よって事の真偽を確かめる為、宝物庫を確認させると、確かにディルバレットは持ち出されていた。

これから触れを出すが、宝剣の紛失事件。

対抗戦での不正と失態の責任、並びにそれに加担した者への処罰。

明るみになった、イスメラルダに対する数々の不敬罪。

そしてこうなると、我が妹夫婦が本当に事故で死んだのかも、もう一度調べ直す必要が出てきた。

いったい、何人の家臣を処罰せねばならぬのか、今から心が寒くなるわい。

それもこれも、皆、お主一人を生かす為の生贄かと思うと尚更な」



「ち、父上……」


「以上だ。もう話す事はない。下がれ」


「……はい」




もう話す事はないとずけりと言われ、ウラバスが意気消沈した面持ちで広間を後にする。

そうして扉が静かに閉まると、ランドルフがトレルバーダへと向き直った。





「よろしいのですか、陛下?」

「どちらの事だ?」

「イスメラルダ様です」

「良くはない。あれだけ王家の血が強く出た者を他国にやるなど言語道断だ」

「では……暗殺しろと?」

「それこそ言語道断だ」

「それでは、どのように?」

「ふん……ランドルフ、お前の悪い癖だぞ? どうせもう考えがあるのだろう? ならそれを先に申せ」

「失礼いたしました。では進言させていただきます。イスメラルダ様はレーベンハイト家を返上致しました。なれば即座に、レイゼンバーグを名乗らせるべきかと」

「儂の養子としろと?」

「形式上は。その格式をもってオールドフィール家へ」


「……ふむ……ベル・アザルと強固な絆ができた……そう思って祝福してやれと言う事か?」

「御意」


「……手元に繋ぎ止めておくにはそれしかないか……よかろう。そのように手配りせよ」

「ありがとうございます」


「それにしても……まったく、あれ(ウラバスのこと)には困ったものだな。

直接でないとはいえ、部下が王家に連なる者を、それも仮とはいえ、当主本人を罪もなく軟禁。おまけに、未遂とはいえその家の者を暗殺しようとまでしていたとはな。

こんな事が公になれば、あれの人生どころか、家臣達の心は離反し、我が王国はおしまいじゃ。

それを理解し、これを教訓として心を入れ替えてくれるのを祈るばかりだ。

でなければ将来、レイゼバッハはベル・アザルの……」


「陛下!」


「なんじゃ?」

「それ以上はお言葉になされますな」

「ふん……お前以外の前で、こんな愚痴などこぼすものか」

「それでもです」



強い口調でランドルフに咎められ、トレルバーダが「はぁ……」と大きく溜め息をついた。



「……心を許した友の前でも思いを口にできんとはな……儂はなんて不幸なんじゃ……」

「心中、お察しいたします……」










「はい、カル様! 今日はお疲れ様でした」



カルとクレア、二人の家のリビング。

時刻は夜の十時過ぎ。


四校対抗戦と大会後のパーティーも無事に終わり、自宅に帰ったカルが早速シャワーを浴びてくると、クレアが冷たいドリンクを用意してくれていた。

礼を言ってそれを受け取り、ソファーに腰掛けて一口飲む。



「……うまい」



仕事をやり遂げた後の一杯 (と言っても、ただのジンジャーエール)は、どこの世界でも格別だな。

そんな事を考えながらソファーで寛いでると、クレアがちょこんと脇に腰掛けてきた。

どうやら甘えたいらしい。

案の定、肩をスッと引き寄せてやると、えへへ……と笑いながら凭れ掛かってきた。



「カル様……?」

「なんだ?」

「今日、とってもカッコよかったです。惚れ直しちゃいました」

「ふっ……素敵〜とか大声で叫んでたもんな」

「え? 聞こえてたんですか?」

「当たり前だ」

「そっか〜……じゃあ、あの時手を上げてくれたのは、私に答えてくれてたんですね?」

「まあな」


「えへへ〜……カル様、大好きです」



そう言って遠慮がちに甘えてくるクレアがいつにも増して愛おしい。

そう思うと自然と手が伸びていた。

クレアの腰を抱きながら、膝の下に手を差し入れる。

すると、心得たクレアがカルの首に手を回してきた。

そのままひょいと抱き上げ、自分の膝の上に下ろしてやる。



「クレア……」

「なんですか……?」

「お前と出会えてよかった」


「へ? ど、どうしたんですか?」


「お前は綺麗で、可愛いくて、愛嬌もあって、どこか幼いのにしっかりしてて、ケーキやクッキーのお菓子作りは得意だし、作る飯はどれも美味い。おまけに紅茶を淹れるのも得意ときた。もう良い女過ぎて、俺には勿体ないくらいだ……」


「な、そ、えぇ?」


「そうやって照れるところが益々いい」

「も、もう……からかわないでください……」

「からかってない。本当の事を言ってるだけだ」




突然の誉め殺しに、クレアが顔を真っ赤にさせてオロオロと慌てる。

それをじっと見つめていると、ついに耐えられなくなったクレアが、



「あうぅ……カル様ズルいですよ」



と、照れ負けして視線から逃れるように抱きついてきた。

その髪を優しく撫でると、クレアが嬉しそうに瞼を閉じる。



「カル様……?」

「うん?」

「今日は大っきな声出したから、発生練習もバッチリですよ……?」




そう言ってカルの耳元でクスリと囁くクレアだった。



おまけあとがき


「みんなはさぁ、シリング君の笑ってるとこって見たことある?」

「なんですか、唐突に?」




対抗戦の翌日。

学園騎士団アカデミー・ナイツの本営で、スレンダ・メロディーラインがクッキー片手にポツリと呟いた。

その目の前にはクレア、リンベル、レンレンカブレの三人が困惑した顔で座っている。


因みにアランは婚約報告と、イスメラルダ、スイレンの編入許可を貰う為に父親のいる王城へ。

デルニックはこちらで生活する事になった二人の買い物の付き添いへ。

そして、カルは編入にあたっての打ち合わせの為、学園長と事務方に出張っていた。




「そりゃあ、ありますよ。カル様、クールなようで良く笑いますので」

「うん。こう……優しく微笑む感じ」

「そレがまた、似合っててカッコいいのダ」


「そうじゃなくてさ、お腹抱えて笑うところ見た事ある?」

「「お腹を抱えて……?」」




クレア、リンベル、レンレンカブレが顔を見合わせる。

心当たりがまったく無かったのだ。




「それはないですね」

「うん」

「なのダ」


「でしょ!!」




スレンダが我が意を得たとばかり、バンッ!とテーブルを叩きながら立ち上がった。

たが、クレア達は冷めたものだ。




「それがどうしたんですか?」

「いや、ただ単に見たいなと思って」

「なんでそんなに見たいんですか?」

「え? だって、あのシリング君がお腹抱えて笑い転げるところだよ? 見たくない?」


「私は、カル様がお腹抱えて笑い転げるところなんて見たくないです」

「って言うか、あのカルがお腹抱えて笑い転げるところなんて、想像できない。たぶん無理。もしやるなら、魔法かなんかで強引に笑わせるしかない。と、思う」


「魔法!? それだ!! レンレンちゃん!!」


「お断りなのダ。て言うか私の魔法なんテ、ますターの魔力障壁に阻まれておしまいなのダ」

「さすがにカルでも、直に擽れば笑うんじゃない?」


「それだ!!」






「ただいま」

「お帰りなさい、カル様」

「おかえり」

「おかえりなのダ」



「それで飛び級の件、どうでした?」

紅茶をスッと差し出しながらクレアが尋ねる。



「許可は貰った。但し、テストに受かればって条件付きだがな」

「あはは……じゃあ、今日から毎日特別授業ですね」

「そうだな」


「シリング君、飛び級って?」


「イースが、編入するなら俺達と同じ学年が良いと言い出したんだ。

こっちに知り合いなんて一人もいないしな。

それで俺が学園長に掛け合ってきた」



「そっかー。お疲れ様。それじゃあ、そんなお疲れのシリング君を労って、お姉さんが肩を揉んであげよう!」


そう言って、スレンダがにこやかな顔で立ち上がる。だが、



「断る」

カルはそれをにべもなく断ってしまった。



「え? なんで?」

「なにを企んでるのかは知らんが、そんな貼り付けた笑顔と邪オーラ全開で近づけば氷漬けにするぞ」



「さすが、ますター」

「あはは……バレてるね」

「うん」



「ふふ……さすがシリング君だね。じゃあ小細工はやめて、ここは正々堂々勝負といこうかな」

「勝負?」

「ねぇ、シリング君……私とジャンケンしない?」

「ジャンケン?」

「そう。勝った方は負けた方の脇腹を擽るの。それも気絶するまで!」


「……まぁ、別にかまわんが」



「あレ? 受けたのダ」

「てっきり『断る。俺に何のメリットがある?』って、一蹴すると思ってた」

「あ、それ言いそうなのダ」


「負けない自信があるからじゃないかな?」

「あ……」

「言われテみれば……」

「例えジャンケンでも、カルが負けるところなんて、想像できない」

「反対に、スレンダが気絶するまデ笑わされるところは簡単に想像できるのダ」




「いっくよー! ジャ〜ン、ケ〜ン、ポンッ!!」


「「やっぱり」」



「確か気絶するまでだったな?」

「え? いや……その……実は私、擽り弱いんだよね……だからその……」

「ほぅ……?」



「あーあ、ますターに火がついたのダ」

「あの顔してる時のカル様って、ちょっといじわるなんだよねぇ」

「ご愁傷様」



「いくぞ?」

「お、お手柔らひゃ!? あひゃひゃひゃひゃひゃ!! ひゃめ……ひゃめ……!? ひゃめひはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………………………………………………………………………………プツン」



「十秒持たなかったのダ」

「うん」

「擽りに弱いノに、なんデあんな捨て身の提案したのダ?」

「そこまでして、見たかったんじゃない?」





「失敗だった。良く考えてみたら、シリング君が、例えジャンケンでも負けるところなんて想像できないや」


「もっと早く気づくべきでしたね」

「うん」

「スレンダって、頭良いのにバカなのダ」

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