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愛と正義の魔王様  作者: たじま
16/18

16、剣術大会の大将は魔法使いの魔王様 〜前座だけどな~



「グラスは行き渡ったかな?

それじゃあ、二人との出合いに、そして忘れられない思い出に……乾杯!」


「「乾杯!!」」



アランの音頭に合わせ、全員が笑顔でグラスを掲げる。

イスメラルダとスイレンが聖導学園に編入して二週間。

今日をもって二人の編入は終わり、休み明けの来週、四校対抗戦が執り行われる。

それを前に、ここ学園騎士団アカデミー・ナイツ本営では、ささやかな送別会が執り行われていた。




「はぁ……イースちゃんともお別れかぁ……ホント、あっという間だったなあ……」

「クレアさんには色々とお世話になりましたわ。特にお料理を教われたのは良い経験になりました」

「ホントはもっともっと教えて上げたかったんだけどね」

「ふふ……それはまたの機会ですわね。その時を楽しみにしておりますわ」

「うん! 今度はケーキを作ろうね!」

「はい」


「そう言や、イースは対抗戦では大将だって聞いてたけどよ、スイレンは? ひょっとして、副将なのかい?」

「いえ、私は出場いたしません、ヴェスカライズさん」

「そうなのか?」

「学生の大会とはいえ、国の代表。私と同じ位の強さがあれば、それなりに地位のある者が優先されます」

「え? スイレン並に強いの、いるんだ?」

「リンさん……カル様に身体を調整していただく前のスイレン……って、事ですわ」

「あぁ……」

「皆様に鍛えられて私は強くなりました。今なら代表を勝ち取る自信もありますが……」

「もう決まってるのでは是非もない……か」

「はい。でも……そうですね……やはり私は、代表には相応しくないと思います。強さではなく、心の問題として」

「心の問題ってなんダ?」

「ここだけの話し、私はヴェラ・イルカの街や人達は大好きですが、国に対しての思い入れはないんです。はっきり言えば嫌いです」

「スイレン、人が聞けば誤解されますわよ?」

「すみません、イース様……この方達の前だと、つい本音が出てしまいました。皆様、今の発言はお忘れください」



はにかむスイレンを見て、皆が苦笑いを浮かべる。

はっきり嫌いだと言う以上、自分達の知らぬしがらみがあるのだろう。

だがそれを知らない以上、下手な相槌は打てないし、なにより追従の言葉など不快に思うだろうと思ったのだ。

だが陰鬱なその空気はクレアの嫌うところだった。



「ほらほら! せっかくなんだから、もっと明るい話題にしましょうよ!

この二週間、楽しかった思い出がたくさんあったんですから!」


「そうだね。確かに瞼を閉じれば、楽しかった出来事がありありと思い浮かぶよ」

「そうだな」

「うん」



そう言って皆が可笑しそうにクスリと笑った。

皆が皆、ある情景を思い浮かべているのだろう。



「あの、皆様……ひょっとして、私の事でお笑いになってます?」


「思考を読まれた!?」

「顔を見れば分かりますわ!!」



驚くリンベルにイスメラルダがソッコーでツッコむ。

それを見て、今度は皆が声を上げて笑うのだった。







「アラン様、校門まで送っていただけますか?」



餞別のプレゼントと花束の贈呈も済むと、イスメラルダがそんな事を言ってきた。

アランだけを名指しする以上、なにか話があるのだろう。

そう悟った皆は営舎の入口で握手を交わして別れを惜しむと、そのまま黙って三人を見送った。




「……ここでの二週間は……私にとって、夢のような日々でした……」



暫く歩くと、イスメラルダがそんなことを呟いた。

その横顔に笑顔はない。

それは楽しかった思い出を振り返っているのではなく、ヴェラ・イルカでの人生と比べての感想だったからだ。

イスメラルダといい、スイレンといい、向こうでの境遇はあまり良いものではないのだろう。

だが二人に沈んだ顔は似合わない。



「明日のパーティーでは、向こうの制服を着るんだよね?」



極力明るく振る舞いながらアランがイスメラルダに話しかける。

それを見てイスメラルダの顔に笑顔が戻った。

どんな沈鬱な気持ちも、愛する人の笑顔には勝てない。



「ふふ……アラン様にあちらの制服姿をお見せできますわね。些か機能性には欠けますが、アレンジが自由なだけこちらよりもおしゃれですのよ」

「君の好みを知る良い機会という訳だね。楽しみにしてるよ」

「まぁ……アラン様ったら……」

「ところで、大会の組み合わせは聞いているかい?」

「はい」

「この二週間、僕達は敢えて戦わなかった。それはこの時の為にだ。今大会最後の大トリ、そこで君と戦えるのを楽しみにしているよ」

「はい。私の全力をお見せいたしますわ。……ところで、アラン様……」

「なんだい?」

「その対戦、もしも私が勝ったら……」



そこでイスメラルダは立ち止まり、俯いてしまった。

スイレンも言葉なく立ち尽くしている。

よほど言い辛い事なのだろう。

だからアランが水を向けてやった。

「……君が勝ったら、なんだい?」

と。




「その……私が勝ったら、レーベンハイト家を継いでいただけませんか?」

「レーベンハイト家を、継ぐ……?」

「はい」

「それは婿養子に入って、君を娶る……ということかい?」

「はい……返事は今でなくとも結構です。勝負の後にお聞かせください。もちろん、私が負けたら、アラン様の言う事を何でも一つお聞きしますわ」




そう言ってイスメラルダはニコリと微笑むと、踵を返し、スイレンを伴って去って行くのだった。




「一国の王子が婿養子か……知らぬ事とはいえ、少し滑稽だな」

「しっかり聞いてたんだね」



アランが笑いながら振り向く。

さすがと言うか何と言うか……アランにすら気配を感じさせずに盗み聞きするなど並の術者では不可能だった。




「で?どうするんだ?」

「どうしようか?」



カルが真顔で尋ねると、アランは本気とも冗談ともとれる顔で曖昧に笑うのだった。










「楽しかったですね……」

「ええ。……でも、もう気を引き締めなさい。私達が帰るのは、力だけが全てのレイゼバッハ、その縮図たる王立魔剣士学院ですわよ」

「分かっています、イース様」

「この後、団結式を兼ねた軽い食事会でしたわよね」

「レイ殿とアーベル殿はもう到着しているはずです」

「はぁ……同じ食事会なのに、さっきと打って変わって憂鬱ですわね……」

「イース様? 気が引き締まっていませんよ?」

「うるさいです」







レイゼバッハ王国大使館。

それはセレス・アリーナでも主だった家臣達の立ち並ぶ、城外東側の一角にあった。


校門前で迎えの馬車に乗った二人は、小一時間かけてそこへと移動した。

馬車が門を抜けて玄関前で停車する。

すると大使館の職員達が一斉に頭を下げた。

レーベンハイト家は分家とはいえ王家であるレイゼンバーグ家の一族だ。

それ故、大使館員総出の出迎えを受けるのは当然なのだが、どうも雰囲気がおかしい。

嘲るような空気とでも言おうか?

とにかく頭を下げる態度とは裏腹に気持ちがこもっていない。

そんな違和感を感じながら開かれた玄関を抜けると、一人の男が待ち構えていた。




「遅かったな、イスメラルダ。そんなに居心地が良かったのか?」


「ジェスタ・カールソン!?」


「呼び捨てとはな……将来の夫に対して、些か失礼過ぎではないのかな?」

「そのお話しはキッパリとお断りした筈です! それより答えなさい、なぜあなたがここにいるのです!」

「決まっているだろう? 四校対抗戦に出場する為だ」

「対抗戦に? あなたの出る幕などありませんが?」

「出る幕がないのは君だよ、イスメラルダ。 大将はこの私、ジェスタ・カールソンに変更となった」


「なにをバカな!? 大将の私に断りもなく、勝手に変更など許されるとでもお思いですか!?」


「許されるさ。なにせこれはウラバス殿下のご意思だからな」

「ウラバス殿下の……?」

「そうだ」

「卑怯な……殿下に取り入りましたわね?」

「取り入るとは心外だな。そも、此度の縁談も殿下の思し召しであった。それを勝手に断るだの、婿は自分で探すだの、我儘も大概にしたまえ。女は女らしく、黙って子を産み、育てておればよいのだ」


「無礼者!! 仮とはいえ、父母亡き今、私がレーベンハイト家の当主です!! その私に向かって黙って子を育てておれとは、首を撥ねられても文句は言えませんわよ!!」


「はぁ……じゃじゃ馬イースは世俗に疎過ぎるな……」

「カールソンッ!!」


「黙れ!! これはウラバス殿下のご意思と言ったろう! 

レーベンハイト家は私が継ぐ! 

此度の対抗戦を圧倒的な力で勝利し、誰にも文句を言わせぬ武威を示してな!

これは決定事項だ!!」



「勝利? ふっ……私の足元にも及ばぬあなたが、アラン様に勝つと? 不可能ですわ」



「ほざけ。私にはこれがある。負ける事など万に一つもあり得ん」




そう言って、カールソンが腰の剣を見せた。

その瞬間、イスメラルダの顔がサーッと青ざめる。




「魔剣、ディルバレット!? 王家の宝剣たるそれを、なぜあなたが!? 

いえ、それ以前に、そんな物を学生の大会で使うなんて正気ですか!?」

「正気も正気さ。殿下は圧倒的な力で勝てと命じられ、これをお貸し下された。安心しろ、殺しはせん。まぁ、もっとも……私の嫁に色目を使った罰は受けて貰うがな」


「そんな事を、私がさせると思いますか?」

「それを私がさせると思うかね?」


「なっ!?」

「イース様ッ!?」




剣の柄に手をかけたイスメラルダの動きがピタリと止まった。

魔術による拘束。

一方、スイレンはカールソンの部下達が威嚇するように取り囲んでいる。

これでは手の出しようがない。

回らぬ首で部屋の隅をチラリと見れば、三人の魔術師がこちらに手を翳していた。

その三人というのが……。



王国魔術師キングダム・メイジまで……」



イスメラルダが悔しそうにカールソンを睨みつける。

ここまでするとは考えてもいなかった。

それ故の油断。

勝ち誇ったカールソンがニヤリと笑いながらイスメラルダから剣を取り上げる。

拘束は緩まない。成すすべがなかった。



「大会が終わるまで部屋に閉じ込めておけ」

「はっ!」



上半身を拘束されたままのイスメラルダが部屋へと連行されていく。



「ターク、イスメラルダの世話はお前に任せよう。しっかりとな」



カールソンは同じく剣を取り上げられたスイレンにそう告げると、部下を伴って屋敷の奥へと去っていくのだった。









「イース様、紅茶をお淹れしました」



スイレンが窓辺へと視線を向ける。

夕食が終わってからずっと、イスメラルダは窓辺に立ち、夜の帳の降りた街並みを見つめ続けていた。

まるで街の灯りに願いを込めて祈りを捧げているように。


実はイスメラルダ、この部屋に案内されるや否や窓から逃げ出そうと試みたのだが、それはできなかった。

小癪にも例の王国魔術師キングダム・メイジ達が結界を張っていたのだ。

だが、それは窓に対してだけであった。

現にスイレンは部屋を出て紅茶の支度をしてきたし、その時誰かが見張りにつくこともなかったらしい。

もっとも、同じ事をイスメラルダがしようとしても、部屋の外にいるカールソンの部下達がさせないであろうが。




「イース様、お気持ちは分かりますが……」

「なにが分かるのですか!!」




スイレンの言葉が呼び水となったのだろう。

突然、イスメラルダが抑えていた感情を爆発させた。

同時に涙が頬を伝う。



「アラン様……」



もう何もかも捨ててアラン様の元に駆け込みたい。

レーベンハイト家なんて知った事か。

カールソンにくれてやるくらいなら、いっそ潰してしまった方がせいせいする。


さっきからそんな考えがぐるぐると頭を回っていたのだ。

また、それの分からぬスイレンでもない。

だから決心をした。

国など捨ててでも、イスメラルダを救おうと。




「イース様、私に暇をくださいませんか?」

「……暇を?」

「はい」

「……私を……見捨てるのですか?」


「まさか。ここを抜け出し、アラン様とカル様にご助力をお願いします」



「アラン様に……?」




そうだ。

スイレンも言っているではないか。

こんな所は逃げ出そう。

何もかも捨てて、アラン様の胸に泣きつこう。

きっとアラン様なら何も言わずに受け入れてくれる。


そうだ。 そうだ。 そうだ!


アラン様が優しく頭を撫ででくれる。

アラン様が微笑んでくれる。

アラン様が私を守ってくれる。

だから逃げ出そう!


そう決心しかけた時、突然カールソンの顔が浮かんだ。

直後には主筋であるウラバスの顔も浮かぶ。



ダメだ……。


こんな国元のゴタゴタに、アラン様を巻き込む訳にはいかない。


そう思うと心がスッと落ち着き、同時に冷静さを取り戻した。



「それはなりません!」



今にも泣き出しそうな顔から一転、イスメラルダが強い口調でスイレンを咎めた。




「相手はウラバス殿下です。国元が騒げば、ベル・アザルとしてはあの方達を見捨てる他ないでしょう。そんな迷惑をお掛けする訳にはまいりません」


「ですが……」


「私はもう良いのです。諦めがつきましたわ。ご助力は請いません。が、あなたにはアラン様に会って伝言をお願いします」

「伝言?」

「魔剣ディルバレット……あれは魂喰ソウルイーターいです。使用者があれでは、手加減などできないでしょう。充分ご注意くださいと」


「……分かりました」


「それと、もう一つ……決勝で戦うという約束……あれは果たせそうにありません。申し訳ありませんでした……そう伝えてください」



そう言ってイスメラルダは悲しそうに微笑むのだった。








コンコン!

「ザールか? 入れ」


「失礼しまーす」



部下の一人が頭を下げるでもなく不躾に扉を開ける。

だがカールソンはそれを咎めない。

書を認めながら「抜け出したか?」とだけ尋ねた。

ザールと呼ばれた男が「予定どおり」と答える。



「どうします?」

「奴がいなくなれば、イスメラルダの味方は一人もいなくなる」

「へーい! んじゃま、そのように……」



ニヤリと笑った部下が踵を返して立ち去ろうとする。

だがその時、突然「待て!!」と言ってカールソンが立ち上がった。

そのままツカツカと窓に歩み寄り、開け放って外の様子を伺う。



「気のせいか……?」

「どうしたんです?」

「気配を感じたのだが……」

「ここ、二階ですぜ?」

「……まぁ、いい。お前は行け。見失うと厄介だ」

「了解〜」




ザールがバタンと扉を閉めて立ち去る。

そうしてからも、カールソンは油断なく外を睨み続けていた。

どうもさっきの気配が気になったのだ。

カールソンは知る由もない。

その時、開け放った窓の枠に一枚の札が貼り付いている事を……。








廊下の窓から飛び降り、裏手から屋敷の外へと抜け出したスイレンは、坂を下って街中の駅を目指していた。

馬車の使えない今、アランの元へ向かうには列車を使うのが一番の近道だったからだ。

路地を曲がり、暫く歩いてから不意に後ろを振り向く。

誰も付けてはいない。

武器を取り上げられてしまったので些か心もとないが、そこは割り切るしかなかった。

水路に架かった橋を渡り、塀に沿って暫く歩む。

すると前方に街の灯りが見えてきた。

人気の多い場所に出てしまえばもう安心だ。奴等も騒ぎを起こしてまで連れ戻しはすまい。

そう高を括っていたのが油断となった。

建物の陰から現れた酔っぱらいと危うくぶつかりそうになった瞬間、スイレンが身を捩りながらサッ!と飛び退く。



「くっ……!?」



着地と同時にスイレンの膝がガクンと崩れ、そのまま座り込んでしまった。

見れば右腕を深々と斬り裂かれている。

相手は酔っぱらいなどではなく剣士。

足元も覚束ない素振りから、伸び上がるように剣を抜き放ってきたのだ。

それに気づくのが一瞬遅れた。それ故の致命傷。

押さえた指の間から大量の血がボタボタと滴り落ちた。

傷口を改めるまでもない。

今のは完全に筋を断たれた。

骨も逝ってる。

もう右手は剣を振るえないだろう。




「おいおい、真っ二つにした筈なんだがなぁ……さすが逃げ足ターク、避けんのだけは超一流だな。へへ……」


「ザール……」


「あ……やっべ、顔見られちまった。まぁ、いっか。どうせ次で最後だ」




ニヤリと笑ったザールが剣を振り上げる。

だがスイレンは動かない。

いや、動けない。

斬られた腕がズキズキと痛む。

血と一緒に魔力が抜けていくのを感じた。

逃げるのはおろか、立ち上がる事さえできない。



<イース様……ごめんなさい……>



ザールを睨みつけながら心で謝罪する。

だが、スイレンが殺される事はなかった。

もう終わりと覚悟を決めた瞬間、



「誰だ!?」



危険を察知したのか、ザールが後ろを振り向いたのだ。



「なんだ、この霧?」



ザールが油断なく剣を構える。

その時、スイレンも遅ればせながら気づいた。

いつの間にか、辺りに霧が立ち込めていることに。

それは自然発生したものではない。

デルニックの呪符によるものだった。



「てめぇの仕業かッ!!」



いつの間にかスイレンの脇に屈んでいた男に剣を一閃させる。

だがそれより速く、デルニックは転移札を使ってその場から消えてしまった。

もちろん、スイレンを伴って……。



「ちっ! 逃げられちまった。はぁ……まぁ、いっか……どうせあの傷だ、死ぬだろ」



ザールは忌々し気に剣を納めると、何事も無かったようにその場を立ち去るのだった。









「デルニックさん……?」

「喋らない。少しキツく縛るけど我慢して」

「私は……ダメです……けっこう……バッサリ、いっちゃって……お願いします……イース様の、伝言を…………」



「絶対助ける! だから諦めるな!!」



素早く応急手当てを終えたデルニックがスイレンを抱えて立ち上がる。

その指先には、一枚の転移札が挟まれていた。









その時、王国魔術師長キングダム・メイジマスターのチキチャット・ニキロールは、城内に与えられた自室で優雅にお茶を飲んでいた。

傍らには新たに学園を卒業する魔術師達の名簿がある。

魔術師一人一人の成績に目を通し、適性を考慮して配属先を決める為だ。

そんな優雅な態度とは裏腹に忙しい彼女の頭に……、



<ニキロール、ちょっと来い>



突然、カルの声が響き渡った。




「へ……? ちょ、ちょっと〜〜〜!?」




抗議の声が尾を引きながら消えていく。

カルによる城内からの強制転移。

気づけば飲みかけの紅茶片手にカルの家のリビングに立たされていた。




「あの〜、シリング様〜? あまり王国魔術師キングダム・メイジを〜、ホイホイ呼び出されるのはどうかと思いますよ〜?

て言うかそれ以前に〜、こないだ私が張り替えたパーフェクトな結界を超えて、有ろうことか私本人を強制転移って……、いつのまにアレを解読されたんです〜?」

「あんなの、張り替えたその日にレンレンが解読した。意気揚々とな」

「あ、ん、の、腐れピッピ〜……」

「それより緊急事態だ」




そう言いながらニキロールから紅茶を奪い、代わりに一緒に転送しておいた愛用の杖を手渡す。



「もう〜」



不平満々な顔でそれを受け取りながらニキロールがソファーへと歩み寄った。

血だらけのスイレンが寝かされていたのだ。

その傷口を一目見るや、ニキロールがスッと表情を改める。




「シリング様〜、隠蔽術式、お願いしま〜す」

「分かった」



カルがパチン!と指を鳴らす。

すると部屋を包み込むように結界が発動した。

それだけ大きな術を使うということだ。




「あの……王国魔術師キングダム・メイジって……」

「うん? 怪我人はそんなの気にしな〜い」




にこやかに笑うニキロールが、右手の杖でスイレンの胸をトンと叩く。

するとスイレンの身体全体が緑色に輝きだした。

土気色だったスイレンの顔に血色が戻り、切断されかかっていた傷口が見る見る塞がっていく。

最上級の治癒魔法を使ったのだ。



「は〜い、おしまい!」




たった一分で?

スイレンがあり得ないといった顔でノロノロと身体を起こす。

痛みはない。

筋を断たれた右手もなんの不自由もなく動く。

それどころか失った魔力まで補給されていた。

こんなの、只の王国魔術師キングダム・メイジの力量ではない。




「いちおう言っておく。これは他言無用だ。こいつはこれでもベル・アザルの魔術師長メイジマスターだからな」


魔術師長メイジマスター!? こんな若い方が!?」

「うーん、素直ないい子〜!」


「抱きつくな。頭をスリスリするな。もう用事は済んだから帰れ」

「ひっどーい! ところで〜、シリング様?」

「分かってる」



ふっと笑ったカルが、赤く輝く石をポイッと放った。

それを受け取った瞬間、ニキロールの目がキラキラと輝く。




「こ、これは〜!?」

「この間討伐した火蜥蜴サラマンダーの魔晶石、その中でも魔力の濃密な核の部分だ。触媒に使おうと取っておいた」

「こ、これを頂けるんですか!? やった〜! 帰って早速実験〜! それじゃあ、シリング様、ご機嫌よう〜!」




そう言ってニキロールはゲートを開き、そそくさと消えてしまうのだった。




「あ、あの……カル様……なんとお礼を言ったらいいのか……」

「礼はデルに言え。デルの応急処置と即座に俺を頼った判断がなければ、お前は出血多量で死んでいた」

「は、はい。デルニックさん……ありがとうございました」

「どういたしまして。それより遅くなってすまなかったね。本当はもっと早く駆け付けようと思ってたんだけど、屋敷を抜け出せなくてね」

「屋敷を、抜け出す?」


「タイミング良く現場に居合わせたのかと思っていたが、そう言う事か」


「あの……ひょっとして、大使館に忍び込んでたんですか?」

「庭だけどね」

「別れた時の二人の表情が気になるとアランが漏らしたら、デルが念の為に大使館まで見送ると言い出したんだ。それをアランが了承した」

「ホントは大使館まで見送ったら帰るつもりだったんだけど、二人を尾行する影に気づいてね。それが君達に続いて大使館に入っていったから、つい気になったんだ」




気になったんだと簡単に言うが、仮にも一国の大使館だ。

その敷地に忍び込むなど、おいそれとできることではない。



「まぁ、それはいい。 それよりクレアが服を用意してくれた。二人共、その血だらけの服を着替えてこい。詳しい話しはそれからだ」








コンコン!


「お疲れさん」



カルが家の扉を開けると、そこにはアランとリンベル、そしてデルニックが立っていた。



「悪いね、会合場所に使っちゃって……」

「気にするな」



そう言って、カルが笑いながら三人を招き入れる。

土曜日の夜。

四校対抗戦の顔合わせを兼ねたパーティが終わると、アラン達三人は真っ直ぐカルの家へと足を運んだ。

今後の方策を練る為だ。



「どうだった?」


三人がソファーに掛けると、カルが早速アランに尋ねた。

部屋の中にはクレアの他にレンレンカブレ、そしてスイレンの姿もある。




「スイレンの言ったとおり、選手はジェスタ・カールソン、ブロッケン・ザール、ヴェルドー・ヘクトールの三名だったよ」

「どんな奴等らだ?」

「全員いけ好かない奴。まるで自分達が格上みたいな態度だった。超ムカつく」

「ブロッケン・ザールってのがスイレンを襲った奴だね。そこそこの腕ではあるようだけど……」

「不意打ちじゃなきゃ、スイレンが負けるような相手じゃない」

「そうか。それで? どうするんだ、アラン?」


「それなんだけど……カル、大将を任せてもいいかい?」


「俺が? ……あぁ、そういう事か。分かった。なら、俺に良い考えがある」

「良い考え?」

「良い考えだ」



そう言ってカルはニヤリと笑うのだった。



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