10、魔王様のストレス発散法 ~クレアって、いつもニコニコしてるけど、ストレスないの? う~ん……ないかなぁ? まぁ、夜に発散……。なな、なに言ってるんですかカル様!?~
「ここが、カルとクレアの新しい家……」
リンベルがメモに書かれた地図と見比べながら三階建ての共同住宅を見上げる。
その向こうに見える空には、寒いながらも柔らかな日差しと青い空。
あの決闘の日から一ヶ月余り。
季節は十ニ月に入り、一気に冬らしくなってきた日曜日の十時過ぎ。
この日、リンベルはカル達と出掛ける為、待ち合わせ場所である二人の新居を訪れていた。
集合玄関を入って階段を昇り、シリングと書かれた表札の扉をコンコン!と叩く。
ほどなくして、「はーい!」という返事とともに扉が開き、エプロン姿のクレアが現れた。
「いらっしゃい、リン。 寒かったでしょ? さ、入って入って!」
笑顔のクレアに迎えられ、リンベルが「お邪魔します」と断って扉を閉める。
「ごめんね、お弁当もうちょっとでできるから、それまで寛いでて」
「ちょっと早かった? 何か手伝う?」
「ううん、平気。カル様とゆっくりしてて。カル様、リンが来ましたよ」
案内されたリビングでは、カルが紅茶片手にソファーで雑誌を読んでいた。
リンは俺に任せろ。
クレアがリンベルのお茶を淹れようとすると、カルが片手を上げながらそんな視線を送ってきた。
それに笑顔で返し、クレアがキッチンへと去っていく。
「来たか。とりあえず座ってろ。紅茶でいいか?」
雑誌をテーブルにポンと放ったカルがティーポット片手に立ち上がる。
すると、上着を脱ぎながらリンベルが小さな紙袋をスッと差し出した。
「これ、お土産。昨日焼いたクッキー」
「そんなに気を使う必要はないんだが……まぁ、せっかくだ。ありがたくいただくとしよう」
そう言って紙袋を受け取り、さっそく一つ摘まんで口に咥える。
「旨い」
「カル様~、お行儀悪いですよ~?」
「分かった分かった。ほら……」
カルが笑いながらクッキーを一つ摘み、キッチンでサンドイッチを制作中のクレアの口許に持っていく。
するとクレアが、えへへと笑いながらパクンと食いついた。
どうやら私も欲しいアピールだったらしい。
「美味しい! クランベリー入れたの?」
「うん」
「この甘酸っぱいのはそれか。紅茶に合いそうだな」
「バッチリ。私の自信作」
カルとクレアに褒められ、リンベルが満面の笑顔で答えた。
そのままクレアと並んでカルがキッチンに立つ。
ポットの中の古い茶葉を捨て、スポンジで洗って布巾で水気を拭き取る。それを眺めながら、
<カルも家事するんだ。ちょっと意外……>
と思う反面、何の違和感もないから不思議なものだった。
そんなカルから視線を外し、今度は部屋を見渡す。
玄関から真っ直ぐ伸びた廊下の右側には大きなクローゼットとトイレがあった。
そして左側には洗面所とシャワールーム。
リビングは十メートル四方と広く、大きな窓の向こうにはテラスがあり、小さなテーブルと椅子が二つ置いてある。
カルの性格なのだろう。整理整頓の行き届いたスッキリとしたリビングで、圧迫感のない低い棚と大きなソファーが、広いリビングを益々広く見せていた。
逆に、その棚とソファー、カーテンや壁紙はクレアの好みなのだろう。ナチュラル系の暖かい色合いだった。
二人の立つカウンター式のキッチンが部屋を入って右側、その反対の左側には扉がある。
閉まっていて見えないが、間取り的に考えて寝室なのだろう。
二人で住むにはちょうどいい広さだった。
「なんか、新鮮」
「何が?」
「カルが、家事してる」
リンベルがくすくす笑いながら向かいに腰掛けたカルをからかった。
「こんなの家事に入らんだろう」
「それでも新鮮。カルならエプロン姿も似合いそう」
「エプロンねぇ……」
ポットにお湯を注ぎながら、カルが自嘲気味に笑う。
すると、クレアがクスッと笑いながら、「カル様のエプロン、すっごい似合うよ~」と答えた。
「え!? 冗談で言ったのに、カル、エプロン姿になるの? 見たい!」
「あんなの、そう簡単に見せるか。あれは特別な時だけだ」
「特別な時……?」
「この間、私が風邪ひいたでしょ? あの時、カル様がご飯作ってくれたんだ」
「えぇ!? カル、料理もできるの!? 食べたい! カルのエプロン姿眺めながらご飯食べたい! 超食べたい! ご馳走して!!」
「目をキラキラさせるな。身を乗り出すな。そんな期待しても作らんから諦めろ」
「えぇ!?」
「それに、作ったと言っても簡単な物だ。鳥肉と野菜のホイル焼きにコンソメスープ、後はトマトをスライスしただけだからな」
「そんなの問題ない。カルが作ってくれたご飯、それに意味がある」
「そうか。だが諦めろ」
「……どうしても?」
「どうしてもだ」
「……わかった」
「わかってくれたか」
「うん。私じゃダメだとわかった。だから、ミランダ様からお願いしてもらう事にする」
「やめろ」
「今日の夕飯の時、みんなにバラす。 エプロン姿のカルが作ったご飯はとっても美味しかったってクレアの感想も話す。ハードル、めちゃくちゃ上げとく」
「真顔で脅すな」
「脅しじゃない。交渉。でも安心して。私の口は固い。私の為にご飯を作ってくれるなら、この事は一生心に仕舞っておく。だから作って」
「……とりあえず、紅茶を淹れた。これで許せ」
「ダメ。エプロン姿でご飯を作って欲しい」
「…………」
「…………」
「……クレア」
「なんですか?」
「なんとかしてくれ」
「えぇ~? 私もまたカル様のご飯食べたいです」
「…………」
「お願い、カル。 お礼に、私とクレアでご馳走作るから。デザートもつける。なんなら、裸エプロンで「はい、あーん!」もしてあげる」
「それはいらん! 」
カルが真顔でツッコんだ。
そんなことされたら、食事どころではなくなる。
とは言え、そこまで望むなら別に減るものでもないし……一回くらいなら作ってやってもいいか……と、思い直すカルだった。
「……はぁ、わかった。そこまで言うなら今度作ってやる」
「エプロン姿で?」
「ああ……」
「やったーーーーーーッ!!」
リンベルが両手を上げて喜びを露にする。
好きな男性がエプロン姿になり、しかも自分の為にご飯まで作ってくれる。
こんな嬉しい事はない。
そんなリンベルを眺めながら、
<俺なんかより、お前やクレアの飯の方がよっぽど旨いんだがな……>
と、自ら淹れた二杯目の紅茶を飲みながら心でツッコむカルだった。
※
「お待たせしました、カル様」
「悪かったな、何も手伝わなくて」
「いいえ、切って合えて挟むだけでしたので。リンもごめんね、暇だったでしょ?」
「全然。私服のカルを堪能してたから問題ない」
「こいつ、思い出したようにニヤニヤしてた。もう家に入れるのはやめよう」
「妄想は乙女の特権。妄想させるようなカルが悪い。(←紅茶片手に蕩けた顔でニマニマ)」
「もう……なに想像してるの、リン?」
「ごにょごにょ……」
「あ!? それ良いかも!!」
「絶対似合う」 (ニマニマ)
「だね~」 (ニマニマ)
「お前まで一緒になってするな」
「だってぇ~」
「だってじゃない」
「う~ん……では、ここでカル様に質問です」
「質問?」
「私の持ってる水着は青いビキニです。では、リンが着るとしたら、どんな水着が合うと思いますか?」
「水着? そうだな……リンなら……って、させるな!」
「ね?想像しちゃうでしょ?」
「してない」
「ふふ……カル様、そんなに照れなくても大丈夫ですよ」
「照れてない」
「それで? 」
「うん?」
「カルはどんな水着を想像したの? ご飯のお礼に、要望に答えてあげる」
「裸にエプロンだ」
「そう……わかった。それがカルの望みなら、叶えてあげる。クレア、エプロンは何色がいいと思う?」
「白じゃ地味になっちゃうから、色や柄はあった方がいいと思うな 」
「なら、今度買いにいく。ついでにビーサンも。クレア、付き合って」
「うん」
「待て! 冗談に決まってるだろう!! そんなの人前で着るな!!」
買い物の約束まで始めた二人を見て、さすがにカルが慌てた。
まさか本気にするとは思わなかったのだ。
そんなカルを見て、リンベルとクレアがクスリと笑う。
「カル様?」
「な、なんだ?」
「本気にしないでくださいね?」
「今のは冗談」
「お前らな……」
仏頂面をしたカルが浮かせた腰を再び沈める。
からかったつもりで、逆にからかわれていたとわかったからだ。
「ごめんなさい。まさか本気で心配してくれるとは思わなかった。裸エプロンはカル以外に見せる気ないから、安心して」
「別に心配なんかしてないし、安心することもない。俺には関係ない事だ」
くす。
「笑うな」
「怒ったふりして、ごまかした?」
「ごまかしてない」
「じゃあ、やっぱり照れた?」
「照れてもいない。ほら、そろそろ行くぞ!」
そう言ってカルは立ち上がると、右手を翳してゲートを開くのだった。
※
どんよりとした薄曇りの空の下に、見渡す限りの大森林が広がっていた。
ベル・アザル王国、北西の最果て。
国土の倍の広さを持ったそれは、ククラ・カルナ大森林と呼ばれていた。
セレス・アリーナから遠く離れたそこは木々が鬱蒼と生い茂り、人はもちろん、魔族の侵入すらも拒む深い森。
それ故、ここはどこの支配も受けつけぬ未開の地でもあった。
そんな大森林の地下には、人には知られていない巨大な洞窟が広がっている。
「フッ……フフ……フフフ……フハハハハハハハハハハハッ!!!
やったぞ! やったぞ!! ついに完成したぞ!!!」
薄暗い洞窟に、男の笑い声が高らかに響き渡る。
その男の眼下には、高さ三十メートルを超える程の巨大なゴーレムが三体と、百を越える、こちらは三メートル程のゴーレム達が整然と並んでいた。
何れも対魔力障壁を備えた戦闘用ゴーレムだ。
男の名は、ブラジハット・パールダイン。
元ベル・アザル王国の魔術師長で、魔法の探求心が強く、また金と権力への欲も深い。
魔道の探求という名目で罪人を殺しまくり、その研究資金欲しさに貴族を陥れて破滅に追い込む。
その自分勝手な性格が災いし、ついには王国を追われた曰く付きの男だった。
そんな男が残りの生涯を賭けて誓った事、それは……、
「私の高尚な研究を非道呼ばわりし、犯罪者へと貶めた挙げ句、全財産を奪って王国から追い出したシャルダットと宮廷の奴らめ……今こそ後悔させてやるぞ!!
アハハハハハハハハハハハッ!!!」
そう。それはベル・アザルへの復讐だった。
端から見ればそれは逆怨みなのだが、それだけを心の支えに生きてきただけに、その怨念は強く、そして深い。
のだが………、
「ん? な、なんだこの揺れは!? 地震か? うぉ!? で、でかいぞ!! 今までこんな事は……え? ぎゃあーーーーーーーーーッ!?」
突然起こった地鳴りとともに天井の岩盤が崩落し、哀れ、パールダインは崩れた土砂に埋もれてしまうのだった。
※
「暗黒太陽稲妻落としーーーーーーーーーッ!!!」
ドドオーーーーーーーーーッン!!!!
リンベルの超ハイテンションな叫び声とともに、直径十メートル程の炎の塊が弾丸並みのスピードで森の中へと落下した。
直後、爆炎が木々を吹き飛ばし、衝撃波が、遅れて凄まじい轟音が周囲に広がる。
「あーはっはっはっはっはっ!! 炎帝様も喜んでる!! サイコーーーーーーーーーッ!!」
不完全燃焼で終わった先の決闘。
『また今度、全力でやる機会を作ってやる』
あの時の約束を果たす為、カル達はピクニックがてら、辺境の地であるククラ・カルナ大森林へとやってきていたのだった。
「あの、カル様? ……ホントに人はいないんですよね?」
クレアが崖下の惨状を見つめながら尋ねる。
暗黒太陽稲妻落としの爆心地を中心に木々が放射状に薙ぎ倒され、見事な焼け野原となっていたのだ。
「安心しろ。魔力感知で探ったが、地上には人間どころか、獣の一匹もいない」
「よかった。なら大丈夫ですね」
安堵したクレアがにっこり笑う。
だがその横で、リンベルが無表情な顔でスッと前方を指差した。
「……でも、それは地上だけの話しだったみたい。見て、あれ」
「え!? な、なにあれ!?」
クレアが目を見張って驚きを露にする。
リンベルが指差したのは暗黒太陽稲妻落としの爆心地の更に向こう。
そこから、なんと三体の巨大なゴーレムが地面を掻き分けながら這い出してきたのだ。
「ねぇ、カル? 私、ゴーレムの生態には詳しくないんだけど……あれって、地面の中に住んでるの? それとも冬眠?」
「いや、そんな事はないと思うが……と言うか、あれは本当にゴーレムなのか?」
「なんで? どこからどう見てもゴーレム」
「ゴーレムというのは、基本、簡単な命令しか実行できない人形のことだ。なのに、あれは意思を持っているように見える」
「意思を持っている?」
「怒って岩を投げてきたからな」
「え……? うひゃあ!?」
驚いたリンベルが頭を抱えて踞る。
ちょっと目を離した隙にゴーレムの一体が岩を持ち上げ、こちらに投げつけてきたのだ。
もっとも、カルの結界に阻まれて粉々に砕け散ってしまったが。
因みにクレアは慣れたもので、ゴーレムが岩を掴むのを見るや、そっとカルの後ろに隠れていた。
「び、びっくりした。 てか、ケンカ売られた? 」
「さっきのアレ、怒ってるんじゃないかな?」
「あんな所に潜ってる方が悪い。そしてあれは薔薇の騎士団への宣戦布告。なら受けて立つのが騎士。殺っちゃっおう、カル」
「まぁ、宣戦布告はともかく……あの巨体だ、放っておく訳にはいくまい」
「決定! 炎帝様、もう一発、お願い!」
ニヤリと笑ったリンベルが、剣を抜き放ってスッと脇に構えた。そして、
「消し飛べ! 灼熱流星弾!!」
『業火炎帝剣』をサッと横凪ぎに払う。
すると刀身から放出された膨大な魔力が凝り固まりながら七つの火球となり、一斉にゴーレムの一体に襲いかかった。
ドドドドオーーーーーーッン!!!
咄嗟に両腕で防御したゴーレムの上半身が爆音とともに灼熱の炎に包まれる。
煙を纏ったまま、ゴーレムの巨体がゆっくりと後ろに傾く。
地響きをたてて倒れる。
やがて一陣の風が煙を吹き流すと、ゴーレムの上半身は跡形もなく消し飛んでいた。
魔力障壁などものともしない、問答無用の威力だった。
「ふふん、こんなもの」
「いい機会だ。リン、お前に最強の爆裂魔法というのを見せてやろう」
ふんす!と得意気に胸を張るリンベルを横目に、カルがスッと右手を翳す。
するとゴーレムの一体を巨大な防御結界が包んだ。外への被害を出さない為の結界だ。
閉じ込められたゴーレムが慌てふためきながら結界の壁を叩く。
それを睨みながら、カルが何もない空間を掴んだ。
直後、結界の中が〝カッ!!!〟と眩しい光に包まれる。
ドドオーーーーーーーーーーッン!!!!!
<……あれって、カル様がお城を吹き飛ばしたやつだ……>
朧気な記憶を思い起こしながらクレアがチラリとカルを見る。
すると、珍しくカルが笑っていた。
どうやら炎帝やリンベルだけでなく、カルもストレス発散になっているらしい。
「ななな、なにそれ!? 」
「俺の持つ、最強の爆裂魔法だ。その気になれば、街を一つ消し去る事もできる」
「ど、どうやってるの!?」
「原理は簡単だ。大気中の水分を掌握し、重力魔法で一気に圧縮する。すると原子核が融合し、大爆発が起こるんだ」
「え!? あれって、お水が爆発してたんですか!?」
「まぁ、簡単に言えばそうだ」
「じゃあ、カル様……重力魔法を使えば、私にもできるんですか?」
「街一つを消し去ると言ったろ? 仮に出来たとしても、強固な防御結界を張れんと自滅するぞ」
「あはは……じゃあ、ダメですね。止めときます」
「それが無難だな。それよりクレア、最後の一体が残ってるぞ?」
「え? 」
カルに言われクレアがチラリと崖下を見る。
確かにゴーレムの一体が残っていた。
もっとも、完全に戦意を喪失して右往左往しているが。
「私もやるんですか?」
「今のクレアなら余裕のはずだ。やってみろ」
「クレア、気持ちいいよ」
カルとリンベルがニヤリと笑う。
どうやら好意で譲ってくれてるらしい。
ストレス発散なんてどうでもいいんだけど、二人の気持ちを無下にもできないしなぁ……と思うクレアだった。
「じゃあ、僭越ながら……」
苦笑いを浮かべながらクレアが右手を天に掲げる。そして、
「えい!!」
掛け声と共に、その手を勢いよく振り下ろした。
たったそれだけで、残りのゴーレムがドゴンッ!!!と潰れて瓦礫の山へと変わる。
リンベルのような派手さはないが、リンベル以上に太いパスでカルと繋がっているだけに、その威力は桁違いだった。
「効果範囲の制御も、魔法の威力も申し分ない。腕を上げたなクレア」
「クレア、カッコいい!」
「えへへ、お恥ずかしいです」
クレアが照れながら右手を頬に当てた。
その時、
「えーーーい、止めろ止めろ止めろぉ!!!」
男の怒鳴り声が響き渡った。
直後、パールダインがカル達の目の前にスーーーっと転移してきた。
「誰……?」
「さぁな」
「何なんだ貴様等は! 私の秘密のアジトの上でドンドコドンドコ好き勝手にやった挙げ句、私のジャイアントゴーレムを粉々に破壊しおって! 私をブラジハット・パールダインと知っての狼藉か!!」
<やばいカル、あれの持ち主みたい>
<そのようだな>
<どうしましょう、カル様……ごめんなさいで許してくれる雰囲気じゃありませんよ?>
<まぁ、待て。秘密のアジトとか言ってる時点で胡散臭い奴だ。ここは俺に任せておけ>
念話での会議を終えたカルが一歩前に踏み出した。
そして、鋭い目付きでパールダインを睨み付ける。
その威圧するような雰囲気に、パールダインが思わず気圧された。
「今、あのゴーレムは貴様の物だと言ったな?」
「そ、それがどうした?」
「あれは労働用ではなく、戦闘に特化したゴーレムだ。それこそ、一国の軍隊を相手に出来るほどのな。あれで何を企んでいた?」
「…………」
「言いたくないか。なら俺が答えよう。お前はあれを使い、セレス・アリーナを襲う気だ。違うか?ブラジハット・パールダイン」
「な、何故それを!? いや、それより何故私の名まで知っている!?」
<さっき名乗ってたのにね>
<きっと若年性認知症。でなければ会話に慣れてないコミュ障のボッチ。あーゆーのは押しとハッタリに弱いと相場が決まってる。ここは私達に任せて>
そう言って、リンベルが自信満々な顔で戦列に加わった。
「そうか……私の計画は漏れていたのだな。しかし、何故だ? この地に隠れ潜んで五年……外への痕跡は一切残していなかったはずだ」
「ふっ……竜の叡智で得た俺の千里眼は、この世全ての事象を見通す」
「カルにかかれば、こんな企てを感知するなんて造作もない事」
<また、口から出任せを……>
クレアが呆れながら心でツッコむ。
「よって、全てを破壊させて貰った。これは警告だ。この企ては諦めて静かに余生を送る事だな。でないと、世界の秩序を乱す者としてお前を処分する」
「さっきの大魔法を貴方自身が体験することになる。この世で最後の景色として」
「な、なんだと!? お、お前達はいったい、何者だ!? 」
「私達は薔薇の騎士団!!」
「ベル・アザル王国第一王子、アルベルト・オールドフィール殿下の直轄騎士団だ」
「で、殿下の直轄騎士団だとッ!? 」
衝撃を受けたパールダインがズサッ!と後ずさる。
王子の直轄と言うことは、国王、シャルダットもこの件を知っているという事だ。
知っていたのに今まで放置した。
そして、ゴーレム部隊が完成するや、間髪を入れずに騎士団を派遣して殲滅した。
まるで今までの苦労を嘲笑うかのように。
掌の上で踊らされるとはこの事だった。
「立ち去れ。今回だけは見逃してやる」
カルに追い討ちをかけられ、パールダインがワナワナと震えた。そして、
「お、おのれ……覚えておれぇ!!」
そう捨て台詞を吐くと、パールダインは逃げるようにして忽然と消えてしまうのだった。
「…………」
「…………」
「……行った?」
「……行ったな」
「はぁ……!!」
リンベルがホッと息を吐きながら地面にしゃがみ込んだ。
その頭をカルが苦笑いを浮かべながらポンと叩く。
話しを合わせてくれて助かったの合図だ。
「マジで、弁償させられなくて良かった」
「まぁ、奴も脛に傷持つ身だったようだしな」
「それにしても、カル……さっきの話し、ホント?」
「まさか。口からの出任せだ」
「でも、あいつ……スッゴい驚いてた」
「戦闘用ゴーレムだからな。遠からず近からず、といったところだったんだろう。正直助かった」
「ふふ……でも、カルならゴーレムくらい、弁償できるんじゃない?」
「術式を見る前に壊しちまったからな。さすがに無理だ」
「そっか。……はぁ……まぁ、何にせよ……今回の教訓。次からストレス発散は空に向けてする」
「そうだな」
「とりあえず、カル様、リン、お昼にしましょう」
カルとリンベルが振り向けば、いつの間に広げたものか、クレアがレジャーシートの上にちょこんと座りながら紅茶を淹れていた。
目の前にはサンドイッチも並んでいる。
カルがリンベルにスッと手を差し出した。
その手を掴み、リンベルが立ち上がる。
そうして二人は、クレアの元に歩いて行くのだった。
おまけあとがき
「ふんふ~ん、ふ~ふふふ、ふんふんふ~~~ん!」
クレアのご機嫌な鼻歌がキッチンに響き渡る。
愛するカルのため、腕によりをかけて夕飯の支度をしているのだ。
それをカウンター越しに眺めていたカルが、ツイッと目を逸らした。
「クレア……?」
「もうすぐ出来ますからね、カル様」
「いや、そうじゃなく……なんで、裸エプロンなんだ?」
「なんでって……カル様がご覧になりたいのかなぁ……と思って……」
「……心遣いは嬉しいが、目のやり場に困る」
「あれ? 困ります?」
「困るな」
「えへへ……困るのかぁ……」
「困るな」
「ふふふ……カ、ル、さ、ま?」
「なんだ?」
チラリ! ←と前屈みになりながら指先でエプロンの胸元を下げる。
「乳が見えるぞ」
くるり!←と華麗に一回転。
「背中を見せるな。パンツを穿いてないんだぞ」
スーーーッ!←とエプロンの裾を摘みながらゆっくりと捲り上げる。太ももが露になり、やがて足の付け根が……。
「クレア、それ以上やると、どうなるか分かってるだろうな?」
「えへへ~……分かってますよ~?」(ニコニコ)
「そうか。分かってやってるのか。そうか」
「……え?」
スッと立ち上がったカルが、カウンターを回り込んでキッチンへと入ってきた。
それを見てクレアが慌てる。
「あ、あの……カル様? 今すぐって意味じゃなくて…………その……せ、せめてソファーに……へ? いやぁ!? エプロン食い込ませないで! これじゃ金太郎……ちょ、なに梟出してカウンター置いてるんですか!? ごめんなさい! からかってごめんなさいカル様! だから録画ダメぇ~~~~~~!!」
クレアの(黄色い)悲鳴がキッチンに木霊した。




