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愛と正義の魔王様  作者: たじま
1/17

1、実は転生魔王様 ~なんで魔王なんてやってたんですか? 知らん~



「……ん…………ん…………ん…………」



炎の灯りがゆらゆらと漂う薄暗い広間に、女の呻き声が静かに響く。


きゅっと引き結んだ口元から絶える事なく漏れ続ける呻き声。

長く艶やかな金髪を三つ編みにした蒼い目の女が、数人の魔族達に犯されていたのだ。

空中の魔法陣から伸びた鎖に両手を拘束され、立ったまま後ろから衝かれ続ける女。

抗っても無駄だと諦めているのだろう。

歯を食いしばり、なにもない虚空をただじっと睨み続けていた。



そんな女を、豪奢な椅子に腰掛け、足を組み、肘掛けに身体を預けながら無気力に見据えている男がいた。

漆黒の鎧に漆黒のマント、漆黒の兜に漆黒の仮面を被った全身黒尽くめの男。

それは人間の敵である魔族達を統べる者、魔王だった。



ここは魔王軍の居城にある謁見の間。

つい先日、魔王軍と人間達との間で一大決戦があった。

そして結果は魔王軍の勝利。

人間達の軍勢は敗れ、散り散りになって撤退した。

この女は軍の中核を担うグループに属していたのだが、騎士団長他全て殺され、ただ一人捕虜になったのだった。



「……お願い……もう、殺して…………」



果てた魔族が次の魔族と交代するまでの束の間の休息。

その時、大粒の涙をボロボロと溢しながら女が懇願した。

それを見た魔族達がくくっと愉快そうに笑う。

だがその瞬間、魔王の脳裏にはある記憶が過った。

霞み掛かった視界が鮮明になり、思考が活性化する。

沸々と怒りが込み上げてくる。

魔王は無言で立ち上がると、おもむろに右手を前に翳した。直後、



ボンッ!!

「「なっ!?」」



女を後ろから衝こうとしていた、馬の頭をした魔族の頭が爆ぜた。

何が起きたのか分からず茫然とする魔族達。

だがそれをやったのが自分達の王だと知った時、魔族達は当然慌てた。



「ま、魔王ッ!?」

「いったい、何をするッ!?」


「失せろ、外道ども」


「「ーーーッ!?」」

魔族達が驚いて目を見張る。


直後、この場にいた魔族は全員、魔王によって粉々に砕かれてしまった。






魔王がパチン!と指を鳴らすと、女を戒めていた鎖が光となって消えた。

拘束を解かれた女が床に崩れ落ちる。


魔王は陛を降りて女に歩み寄ると、おもむろに兜と仮面を脱いだ。そして脇へと放り捨てる。

黒い髪に紅い目をした魔王の素顔は、どこからどう見ても人間のそれだった。



「…………?」



もう身体を動かす気力もないのだろう。女は虚ろな瞳で魔王を見上げている。

その傍らに片膝を衝いた魔王が、スッと女を抱き上げた。

そのまま踵を返し、今度は陛にそっと下ろして座らせてやる。



「これで口を濯げ」



そう言って魔王が掌を翳すと、そこに忽然と水が現れた。

女は言われるままにその掌へと口をつけると、口を濯ぎ、直後には咳き込みながら脇へと吐き出した。



「腹の中を洗ってやる。じっとしていろ」

「あ……や…………」



女がピクン!と震えた。

魔王が女の足を開き、指先を差し入れてきたのだ。

すぐにお腹の奥深くに温かみを感じ、やがて指の隙間から大量の水が溢れ出してきた。



「種族も違うし、孕む事はないだろう」



女が訳が分からないと言った顔で男を見る。

魔王であるはずの男を。

そんな女から視線を外し、魔王が後ろを振り向いた。

どうやら騒ぎを聞きつけた他の魔族達がやってきたらしい。



「騒がしくなってきた。場所を変えるぞ」



そう言って男はマントを外すと、女の肩にそっと掛けてやった。そのまま女を再び抱き上げる。

害意がないのが分かったからか、女も特に抗うことなく男の背に腕を回して抱きついた。

そして、気づけば空の上にいた。


空間転移。


眼下には今まで居たであろう大きな城があり、その周囲には魔王軍十万の軍勢が屯している。



「五キロってところか」



魔王はそう呟くと、城を中心に直径五キロの結界を張った。

眼下では魔物達が何事かと騒ぎだしている。


なにをする気なんだろう?


回らぬ頭で女がそう思った時だった。結界内で大爆発が起きたのは。


それは一瞬の出来事だった。

城の上空が光った。

そう思った時には結界の中を光が満たし、後はこの大爆発だ。

生きている者など一人もいないのは明らかだった。

なのに男は眉一つ動かさずに眼下の光景を眺めている。仲間であるはずなのに涼しい顔だ。


そして確かな事は、散々人間達を苦しめた魔王軍が、今この瞬間、地上から跡形もなく消え去ったという事だった。



「行くか」



誰にともなく呟くと、魔王は目の前の空間にゲートを開いた。

そして女を抱き抱えたまま、その中へと消えていくのだった。






ゲートを抜けると、そこは森の中だった。

目の前には綺麗な泉がある。

魔王は女を木の根本にそっと下ろしてやると、無言で枯れ枝を拾い始めた。

ここで野宿するつもりなのだろう。



「……なんで?」

魔王が焚き火を始めると、女がポツリと呟いた。


「なんでとは?」

「なんで、私を助けたんです?」

「助けたかったからだ」

「魔王が?」

「そうだな」


「別に……助けなくても、よかったのに」

「不服か?」


「私……もう生きてても、しょうがないですし」

「しょうがないとは思わんがな」


「だって……魔族に犯されたんですよ?…………こんな穢れた女……気持ち悪がって、誰も近づかない。……きっと、汚物を見るような目で見られて、……避けられて、……影でくすくす笑われて……私にはもう、生きる場所がなくなっちゃったんです。

いっそ、一思いに殺して欲しいです」



女は嗚咽を漏らしながらそう訴えた。

それを見て、男が「ふぅ……」と小さく息を吐いた。

まるで呆れたように。



「お前が自分で思ってるほど、穢れているとは思わんぞ。 少なくとも俺はな。だがまぁ、そこまで言うなら望み通り殺してやる」



「え……? 」



その瞬間、景色が変わった。

森の中にいたはずなのに、見渡す限りの夜空と月が目に入った。

空間転移。

そう理解する前に世界がひっくり返り、今度は地面に向かって真っ逆さまに落ちていった。



「きゃあーーーーーーッ!? いや、いや、……助けて……いや! いやぁーーーーーーーーーーーーッ!!! …………ひゃれ……?」



気づけば男に抱き抱えられて、もといた森の中にいた。

心臓がバクバクとうるさいほど高鳴っている。



「死にたいんじゃなかったのか?」



涙をボロボロ流す女を見下ろしながら男がニヤリと笑った。

その顔を見た瞬間、急に怒りの感情が込み上げてきた。



「人でなし! あんなの、誰だって助けてって言うに決まってます!!」


「そうか?本当に死にたい奴なら、死を受け入れていたと思うがな」

「…………」

「そう睨むな」

「意地悪……どうせ私は、死ぬ勇気もない女ですよ……」



女は男の胸に顔を埋めると、今度は声を殺して泣き始めた。



「何回犯された?」

暫くすると、魔王が尋ねた。


「そんなの、覚えてません……痛くて……怖くて……悔しくて……早く終わってって……ずっと祈ってた……初めてだったのに……きっと、一生記憶に残って……ずっと、苦しむんだ……死ねもしないで……ずっと、ずっと…………」


「なら、俺がその記憶を塗り替えてやろう」


「塗り、替える……?」


女がきょとんとした顔で男を見上げた。

記憶を消去でもするのかなと一瞬思ったが、それは違った。



「これから俺が、奴等にヤられた以上にお前を犯す」


「え?」


「お前の身体に俺というものを刻みつけてやろう。

何度も何度もイカせてな。

そして俺以外の奴など、頭の中から追い出してやる。

お前はそれを黙って受け入れろ。

そして心に刻め。

俺が一生、お前の側にいている。

一生、お前だけを愛してやる」



「あ、愛してって……こ、こんな所で?……待って……」

「待たん。いくぞ」


「!? や……」



女がぎゅっと両目を瞑って男に抱きついた。

直後、男が侵入してきた。








気がつけば男に優しく頭を撫でられていた。

しかもあろうことか、男に跨がったまま、その胸に頬を埋めている。



「……なんで、助けたんです?」

女が気だるそうに尋ねた。

実際、身体がくたくただったのだ。


「助けたかったからだと言ったろう?」

「なんで急に、助ける気になったんです?」



「ああ、そう言う事か」


女の質問の意味を理解したのだろう。

男は女の髪を優しく撫でながら、遠い昔を懐かしむように夜空を見上げた。



「……俺は、ずっと夢の中にいたんだ。

頭の中にはいつも靄がかかってて、何も考えられなかった。

お前が目の前で犯されていても、何も感じる事がなかった。

まるで別世界の事のように、ただボーッと見ていた。

それがあの時……お前が殺してくれと泣いた時……急に視界が開け、頭の中の靄が消え、そして思い出したんだ。前世の記憶ってやつをな」


「前世の、記憶……?」


「昔、愛した女がいた。いや、単に好意をよせていただけかも知れん。

とにかくその女が男共に犯された。

集団で寄って集ってな。

女はその日のうちに自殺したよ。誰に相談するでもなく、孤独に……。

後からそれを知った俺は当然怒り狂った。

だがそれ以上に許せなかった。

女を取られた事がじゃない。

女が短絡的に命を絶った事でもない。

一人の女の人生をめちゃくちゃにし、死に追いやったというのに、誰からも裁かれる事なく、何の罪の意識も持たず、平然と生き続けている男達が許せなかった。


だから罰を与えた。


男達を捕まえ、逃げられんように足の腱を切り、両目を焼き、二度と女に悪さができんよう、局部を叩き潰した。


男達は泣きながら叫んだよ、こんな事をしてただで済むと思うなよ! ってな。

だから俺は笑いながら言ってやったのさ。思う訳なかろう、とな。


俺は奴等の目の前で、自らの首を掻き切った。

後悔などなかった。

死の刹那、ざまあ見ろ!と満足して逝ったのを今でもしっかりと覚えている」



「それで、だ。ここで問題なんだが」

「……?」

「そうして死んだ筈の俺が、……人間である俺が、何であんなところで魔王をやってたんだ?」


「ぷっ!?……そんなの……知りません……」

女が可笑しそうにクスクス笑った。


「それもそうだな」

それを見て男も自嘲気味に笑う。

自分が知らないのに他人が知るはずがない。



「まぁ、そう言う訳だ。お前と昔の女が重なった。だから死んで欲しくなかった。それが助けた理由だ。納得したか?」


「……はい…………ところで、その……」

「うん?」


「あの……何回くらい……イキました?」

「二十回ってとこか?」

「二十回も……?」


よほど恥ずかしかったのだろう。

紅く染めた頬を見られないよう、女は男の胸に顔を埋めるようにして抱きついた。



「……頭が真っ白で覚えてなかったんですけど……私、そんなにイッてたんですね」

「今のは俺のイッた回数だ。お前はその倍以上はイッてたぞ」


「…………」


「どうした?」

「……魔王様って、無敵なんですね」

「魔王だからな。ところでどうだ?」

「どう、とは……?」

「奴等の記憶は消えたか?と聞いてるんだ」

「あぁ……さぁ、どうでしょう? でも……」



そう言って女はそっと瞼を閉じると、幸せそうに微笑んだ。



「目を瞑っても、もう魔王様の顔しか浮かばなくなりました」

「……そうか。それは何よりだ」


「こうしてぎゅっ!てすると、強く抱きしめてくれたの、嬉しかったです」

「お前が可愛かったからな」

「!?…………」

「…………」

「あ、頭を優しく撫でてくれたのも、嬉しかったです」

「お前が可愛かったからな」

「…………」

「…………」

「……そ、それでその……なんだか、心が満たされて……魔王様が、どんどん愛しくなりました……」

「俺も愛しいぞ。お前は可愛いからな」


「…………」


「黙ってどうした?」

「なんでもありません。魔王様って、普通なら言い辛い事も、簡単に仰るんだなと思っただけです」

「思った事を口にしているだけだ。それより痛くはなかったか?」


「え……?」

「大丈夫だったのか?」


「……は、初めはちょっと……魔王様の、キョーアクでしたので……」

「実は俺もびっくりしてた。すまなかったな。でも、すぐに慣れたんだろう?」


「そ、それは……はい……」

「大声で喘いでたもんな」


「そ、それは魔王様が敏感なトコばっかり責めるから……」

「お前が可愛く鳴くからだ」


「だ、だいたい……何度も何度も待ってって言ったのに、待ってくれなかったのは酷いと思います」

「お前が可愛く鳴くからだ」


「あ、あんなの……声を我慢できる訳ありません……魔王様の意地悪……」

「お前が痙攣させながら大声で喘ぐのが悪い。だいたい俺は一度止めてやったろう?なのに、お前が腰を……」


「ち、違う! あれは魔王様が……」


「俺のせいにするな。自分からスリスリと擦りつけて……」


「やぁ!? やめて! 分かりました!分かりましたから、もう許してください!!」


「許して欲しかったら、ちゃんと俺の顔を見て話せ」

「うぅ…………」

「ほら、どうした? ちゃんとこっちを見ろ」


「……ま、魔王様……私が羞恥に震えるのが、そんなに楽しいですか?」

「ふっ……楽しいな」



ガブッ!!



「噛むな」

「 魔王様、ホントは私のこと、お嫌いなんでしょう?」

「そんな事はない。今のはちょっとからかい過ぎたと自分でも思ってる。だから許せ」

「そう思うのでしたら、ちゃんと優しくフォローしてください」

「フォロー? こうか?」


「あっ……」


「それとも、こうか?」


「やっ……」


女がブルッと震えながら再び抱きついた。

そして、うっとりとした顔で瞼を閉じる。

お尻を撫でられたあと、再び優しく侵入してきたのだ。



「魔王様……ズルいです……」

「そうか?」

「そうです。……でも」

「でも?」

「……大好きです」

「俺もだ」

「……魔王様?」

「うん?」

「魔王様のその、……一生懸命愛してくれてる時の顔を思い出すと、なんだか幸せなキモチになります」

「キモチよくなるの間違いだろ?」



カブッ!!



「だから噛むな」

「今のは魔王様が悪いと思います!」

「茶化して悪かった。それで?」

「すごく心も満たされて、幸せですって言いたかったんです」

「これから何度でも、そう思わせてやる。だから安心しろ」



「……ふふ、はい……じゃあ、お願いします」



返事とともに、女は身体中でぎゅっと男を抱き締めるのだった。







「それはそうと、魔王はよせ。俺のことはカルでいい」


一通りの事が済んで女が余韻に浸っていると、魔王がそんな事を言った。



「カル……様?」

「カル・マ・シリング。確かそんな名前だったはずだ」

「はず?」

「奴等に名乗った事などなかったからな。十数年ぶりに記憶を漁った」

「カル様……ですか。 ねぇ、カル様?」

「なんだ?」

「ふふ……なんでもないです。名前を呼んだだけですので」

「ふん。さて……これからどうするか。取りあえず、お前の街に行くか? それとも他にどこか行きたい所はあるか?」

「取りあえず、シャワーが浴びたいです」

「シャワー?」


すりすり。


「……そうだな」



「わざわざ触って確かめないでください。カル様のえっち」

「となると近くの町、宿屋ってところか?」

「あと服も。私、裸なんで」

「お前がシャワーを浴びてる間に揃えておく」

「お願いします。でも、その前に……」



そこで初めて、女は男の顔を……カルと名乗った男の顔をじっと見つめた。

だが急に恥ずかしくなったのだろう。頬を染めて再び抱きついた。



「その……クレアです……」

「クレア?」

「私の名前……クレア・ティンベル」

「ふむ、クレアか。良い名だ。クレア」

「はい? なんですか?」

「なんでもない。名前を呼んだだけだ」

「…………」

「…………」

「カル様……?」

「なんだ?」

「なんでもありません。呼んだだけです」



「ふっ……」

「ふふ……ふふふ……」



したり顔で見つめあっていた二人だが、どちらともなくクスッと笑うと、後は堰を切ったように楽しそうに笑いあうのだった。







「ところで……カル様って、おいくつなんですか?」

「十七だったかな?」

「私のいっこ上? 月によっては同い年なのかな?私てっきり、三百歳くらいかと思いました」

「そんな訳があるか」






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