聖なる月のもとで
9月、ヒロはインターンシップに参加した。
インターンシップ先は月州軍である。
月州軍を統括するのは国防省だった。
このインターンシップでヒロは徹底的に軍人教育を受けた。
ヒロは訓練の中でも射撃に高い精度を示した。
朝6時起床、夜10時就寝、スマホは没収。
ただ、ご飯はおいしかった。
外出は禁止。
これが2週間続いた。
このインターンシップでヒロは本物の軍隊という組織を知ることができた。
アニメやマンガの中で描かれているのとは違う、本物の軍隊を。
その後、ヒロは無事にインターンシップを終えた。
それからヒロは誰もいない教室に月奈を呼び出した。
ヒロは読書でアルフレッド・アドラーの作品を通して、決めていたことがあった。
ヒロを動かした言葉は。
「あなたから始めるべきだ」
この言葉だった。
やがて月奈がやって来た。
「ヒロ、話しって何?」
「ああ、たいしたことじゃない」
ヒロは月奈を見た。
月奈のほおは上気していた。
月奈も呼び出されたとはいえ、このシチュエーションを理解しているはずだ。
つまり、ヒロが月奈との関係を変えたいと思っているということだ。
ヒロは「勇気を出せ」と自分に言い聞かせた。
「月奈……俺は月奈を愛してる」
「!? やっと、やっと言ってくれたね……うん、うれしい。私もだよ。私もヒロを愛してる」
その時涙が落ちた。
それはヒロの涙だった。
「ヒロ? 泣いてるの?」
「俺さ……もう誰からも愛されないのかと思っていたんだ」
「うふふふ……ここにヒロを愛している人がいますよ?」
「ありがとう、月奈。俺は幸せだよ」
「うふふ、ヒロ君は泣き虫ですね。はい!」
そして月奈はヒロを抱きしめた。
こうして二人は恋人同士になった。
ベランダでヒロと月奈は月を見ていた。
月は満月で、月の光が夜の町を明るく照らしていた。
「月奈ってほんとに月を見るのが好きだよな」
ヒロは隣に座る月奈に言った。
「だって、、私の名前にもあるくらいだもん」
月州共和国の旗は青・白・黄の三色旗である。
特に月があるわけではない。
「今日の月は本当にきれいだ。聖なる月ってこういうのをいうんじゃないかな?」
「そうね」
月奈がヒロにしなだれかかる。
「月奈?」
「うふふ、ねえ、私たちも今いるステージを変えてみない?」
そう言うと、月奈は目を閉じた。
「!?」
ヒロはこの状況を理解した。
ヒロは軽く、自分の唇を月奈の唇に押し当てた。
後世、シベリウス教以前の時代は「無道時代」と呼ばれることになる。