夏
月州の家庭でも夏はそうめんを食べる。
そうめんは夏の風物詩だった。
7月、教会ではみんなでそうめんを食べる習慣がある。
牧島牧師は大量にそうめんを買ってきた。
みんなで教会で食べるためである。
この習慣をシベリウス教では「冷風祭」と呼んでいる。
「はっはっは! 手伝わせてすまなかったね、ヒロ君」
「いえいえ、俺でよければ喜んで協力しますよ」
ヒロは牧島牧師が買ってきた大量のそうめんを運んでいた。
教会にはすでに信徒たちが集まっていた。
その中には月奈の姿もあった。
「ヒロ、お疲れ様。そんなにそうめんを持っていると、重いでしょう?」
「まあ、確かに。でもこれも体を鍛えていると思えば、苦にならないさ」
さっそくそうめんは水でもどされ、割った竹に流された。
信徒たちは流れるメンを取って、たれにつけてそうめんを食べていく。
ヒロも月奈も流れてくるそうめんを必死になって取ろうとした。
しかし、滑ってくるそうめんを取るのはなかなか難しい。
「あっ、月奈、そうめんが流れてしまったぞ?」
「ああ、もう! なかなか取りづらいのよ!」
「はっはっは! 二人とも、まだまだそうめんは流せるぞ? 今度はどうかな?」
牧島牧師がそうめんを上から流してくる。
「あっ、取れた!」
月奈はそうめんの塊を箸でうまく取ることに成功した。
夏の日ざしが暑い一日、そうめんは涼しさを与えてくれる。
「うん、やっぱり、夏にそうめんはおいしいわね」
二人は冷風祭を楽しんだ。
8月。
8月といえば、それは夏祭りである。
ヒロと月奈は夕方、いっしょに夏祭りに出かけた。
ヒロは月奈の部屋の前で、月奈がゆかたに着替えるのを待っていた。
「うーん、女の着替えは時間がかかるっていうけど……おーい、月奈、まだかあ?」
ヒロがそう言うと、月奈の部屋の扉が開いた。
「お待たせ、ヒロ。どうかな?」
「……あ、ああ。すごくいい。青いゆかたがよく似合っている」
「うふふ、ありがとう。じゃあ、祭りに出発しましょうか」
二人は夏祭りに出発した。
祭りの会場は多くの人でにぎわっていた。
「人が多いな……」
「じゃあ、こうしない?」
「え?」
「うふふ」
月奈はヒロの手を取った。
二人は手をつないだ。
ヒロは照れながらも、月奈の手を握り返した。
「ふふ、これで離れ離れになることはないね?」
「あ、ああ」
ヒロは照れてそっぽを向いた。
「ねえ、ヒロは自分の人生で何をしたいか、考えたことある?」
「俺は、将来は月州軍に入りたいんだよね」
「月州軍に?」
「ああ。だから毎日ランニングして、体力作りに努めているんだけどさ。俺は月州を愛している。でも、国の独立がなかったら俺たちが大切に思っているものも守られなくなってしまう。だから、俺は月州軍に入りたいんだ。俺は俺の大切なものを守りたい。だから、月州軍に入るんだ。月奈はどうなんだ?」
「私? 私はね、大学に行って教師になるつもりよ」
「教師か……月奈には合っているかもな」
「私、子供が好きだから。ねえ、ヒロ。ヒロにとって大切なものって、それって私も入る?」
「え!?」
「ねえ、どうなの?」
「そ、それは……」
「入る? 入らない?」
月奈が迫ってくる。
「は、入る、かな?」
「入るんだ。そう、うふふ」
月奈は嬉しそうだった。
「あっ、射撃がある! あれをやってみよう!」
ヒロは射的をやってみることにした。
「実は俺ってこれが得意なんだよね」
「そうなの?」
「ああ。照準はO.K.! 当てるぜ!」
ヒロは金賞を狙って狙撃した。
金賞は猫のぬいぐるみだった。
コルクが飛んで猫のぬいぐるみを倒す。
「うわあ! すごい! ヒロってこんな才能があったんだ!」
「へへっ! これ、月奈にあげるよ」
「え?」
「俺が持っていても仕方ないだろ?」
「ありがとう。うん、大切にするね!」
その後、二人はコンビニに寄って、アイスを注文した。
帰りにヒロは月奈のゆかた姿をスマホにとって保存した。