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聖なる月 Der Heilige Mond  作者: Siberius
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夏至祭

夏至祭げしさい――6月22日もシベリウス教の祭りである。

ヒロと月奈は月光教会を訪れていた。

教会は花や葉で飾られていた。

教会の内部は電気は消されて、ロウソクの火だけが周囲を照らしていた。

シベリウス教徒は「聖典の民」である。

聖典アヴェシュタの量は膨大である。

これは預言者シベリウスが一生を著作活動に費やしたためである。

特にヘルデンリートは最も量が多い。

シベリウスの著作はドイツ語とラテン語の影響がある。

特にタイトルがドイツ語が多く、アヴェシュタの研究にはドイツ語は必須となっている。

シベリウスが好んだ分野は宗教、歴史、文学である。

さて夏至祭は冬至祭とうじさいとセットになっている。

冬至祭では演劇を行うが、夏至祭では植物に触れるのが特徴である。

そのため、教会は植物で飾られていた。

ヒロはその光景に見入った。

「ねえ、ヒロ?」

「何だい、月奈?」

あのキスがあった夜から、月奈はヒロを君付けでは呼ばなくなった。

「花や葉がきれいね」

「そうだな」

「飾りは気に入ってくれたかな?」

牧島まきしま牧師!」

そこに牧島牧師が現れた。

彼はこの月光教会の主任牧師である。

彼はアヴェシュタの研究に一生を捧げていた。

よく本を読んでいるからか、視力があまりよくなく、メガネをつけていた。

「Guten Abend! Hiro und Tsukina.」

(こんばんは、ヒロと月奈)

「「Guten Abennd! Pastor Makishima.」

(こんばんは、牧島牧師)

「それにしても、君たちの親御さんが出席してくれないのは残念だ」

「やはり、無宗教というか、宗教とは距離を置きたいらしいです」

「昔ね、宗教がらみの事件があってね、それ以来宗教は危険なものと人々に映るようになったようでね。まあ、これも我々宗教家や宗教そのものに問題があるのも事実だ。ある宗教は批判さえ許さないらしいし、別の宗教はほとんどカルトと言っていいありさまだ。月州共和国憲法では信教の自由が保障されているにも関わらずだ。まず、宗教に必要なのは信仰のはずだが、カルト教団は信者を金儲けのために利用している。シベリウス教はイスラームと同じくビジネスライクな宗教だ。今でも、シベリウスの著作は売れ続けている。シベリウスはイスラームを研究していた。ビジネスの本質は何だと思う?」

「さあ、なんでしょう?」

「それはギブ・アンド・テイクだよ。もらいたのなら先に与えなさい。そういうことさ。我々シベリウス教徒のビジネスとは思想だ。シベリウスはゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、そして自身のシベリウス教の民を「聖典の民」と呼んだ。これらの宗教はいずれも聖典を持っているからだ。つまり、アヴェスター、聖書、クルアーンだ。宗教の創始者が自ら著作を書いたというのは珍しい。マニ教の教組マニが自ら著作を書いた、宗教家だな。キリスト教はパウロが第二の教祖となった。パウロの手紙がなければ、キリスト教はあれほど広まりはしなかっただろう。おっと、話しが長くなってしまったね」

「いいえ、有意義なお話でしたよ」

「君たちはシベリウス教の第一世代だ」

「第一世代?」

と月奈。

「そうだ。君たちは君たちの子供たちにその信仰を伝えなさい。でも、いいかい? 小さい子供は親からほめられることを望む。例えば君たち二人のあいだに子供ができたとする。その子は君たちからほめられたいと思うがために、宗教にかかわるかもしれない。だが、これは信仰ではない。もし、次の世代が信仰を持てないならば入会しなくてもかまわない。また、入会した後でも、シベリウス教では脱会もできる。聖道会はGlaubensgemeinschaft――つまり信仰共同体だからだ。信仰を持っていることが入会の条件なのだから。ん? ああ、そろそろ讃美歌の時間か。では二人とも私は失礼する」

牧島牧師の主導で讃美歌が歌われた。

この讃美歌とはシベリウスの時代にはなかった。

これは月州の国民がシベリウス教に付け加えたものだ。

ちなみに、讃美歌と呼ぶのは聖化、聖火、聖歌と音がかぶるからだ。

シベリウス教では創始者シベリウスが造語の際、音のかぶりを嫌ったため、極力それが避けられる。

聖堂も聖道と音がかぶったため、「教会」と「聖道」と区別されることになった。

シベリウス教ではすべての民に預言者が派遣されたと考える。

ゾロアスター教の預言者ツァラトゥストラ、ユダヤ教の預言者モーセ、キリスト教の預言者イエス、イスラームの預言者ムハンマド、シベリウス教の預言者シベリウスというように。

預言者とは神から言葉を「預かった」という意味だ。

讃美歌の後、簡単な料理がまかなわれる。

ちなみにシベリウスは月州語で作品を残した。

したがってシベリウスの著作を研究するためには月州語を学ばねばならない。

料理はソーセージとジャガイモのマッシュポテトだった。

ヒロと月奈は料理をおいしく頂いた。

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