月下
四人は食べ終わると、バーベキューで使った用具を洗剤で洗った。
ヒロはバーベキューで使った鉄板を洗っていた。
「ヒロ君、お疲れ様。これ飲む?」
月奈が持ってきたのはペットボトルのミルクティーだった。
「ああ、いただくよ。まったくおやじの奴め、何が若い者は働け、だ! まったく自身は何もしない口実じゃないか」
「でも竜二さんももう中年でしょう? ここは一番若くて力もあるヒロ君がやらないと、ね?」
「それにしても、月奈はこういうのって初めてだったのか?」
「え!? そうね。私の家族はあんまりこういうイベントに連れて行ってはくれなかったから……だから楽しかったわ」
「……なんか月奈の家族ってあんまり『愛』を感じないよな?」
「……うん、そうだね。だってあの二人は愛があって結婚したわけじゃないから……」
ヒロはミルクティーを開けて飲んだ。
「まあ、いいさ。そうだ。俺たちは二人でハイキングに行かないか?」
「ハイキング?」
「そうだ。俺はこの前ここに来た時にハイキングコースを歩いたことがあってさ。良かったら行かないか?」
「うん、喜んで!」
その後、四人は夕食を済ませた。
夕食は焼き鳥だった。
それから夜になるまでラジオで音楽を聴いていた。
そして、夜、テントの中でみんなは寝た。
テントの中はきつきつだった。
寝袋の中で寝ていたヒロは、ふと目を覚ました。
「あれ? 月奈?」
瞳の隣で寝ていたはずの月奈が見当たらなかった。
ヒロはテントの外に出た。
外は月光の光に照らされていた。
月奈はイスに座っていた。
ヒロはそんな月奈に見とれた。
ヒロはもう恋はしないと決めていた。
だが、そんな誓いを目の前の月奈はあっさりと吹き飛ばしてしまう。
「あら? ヒロ君、起きちゃった? えへへ、ごめんね、ちょっと一人になりたかったんだ。もしかして心配してくれた?」
月奈がいたずらをするような顔で言った。
「まあ、少しはね。どうしたんだ? 眠れないのか?」
「うん、ちょっとね。もう十年も前になるんだね。私とヒロ君が出会ってから」
「あの時はおやじの会社の宴会に出された時だったな。工場の社員とその家族が出たのは。正直俺はあんまり出たくなかったよ」
「? どうして?」
「俺はおやじと違って人見知りするからさ。あんまり人が多い場所って好きじゃなかったんだ。おやじは大勢の人と何かをするのが好きなんだよ。俺には信じられないが……」
「でも、そこで私とヒロ君は出会ったんだ。そうそう、迷子になっていた私をヒロ君が連れて行ってくれた。今でも覚えているよ」
ヒロは月奈を見てドキッとした。
それほど月の明かりに照らされた月奈はきれいで、人の心を引き込むようなところがあった。
「あれって、私の初恋だったの」
「え?」
「だーかーらー! は・つ・こ・い! 初恋!」
月奈の顔が赤みを帯びているのがわかった。
「今でも続いているよ? 私の初恋は?」
「え、あ、あ……」
ヒロはもう二度と恋はしない、そう決めた。
そう決めたはずだった。
それが揺らいでいく。
「でも、違うよね。大切なのは恋じゃなくて、愛だから……」
月奈はヒロのそばに来ると、ヒロのほおにキスをした。
「うふふふふ。おやすみなさい」
月奈は先にテントに入った。
ヒロは呆然としていた。
その日、ヒロは眠れなかった。