月を見上げて
その日の夜は、美しい月が夜空に浮かんでいた。
とてもきれいな満月だった。
ヒロはリビングから月奈の姿が消えたことを知った。
ヒロは月奈のことが気になった。
「あれ? 月奈はどこに行ったんだ?」
まだ夕食の時間ではない。
「おかん、月奈がどこに行ったのか知らない?」
「確か、ベランダの方に行ったような気がしたわよ?」
「ベランダ?」
ヒロは半信半疑でベランダに行ってみた。
「ヒロ君! ヒーロー君!」
「? 月奈か。どうした?」
ベランダから月奈の声がした。
「ねえ、ヒロ君! 今日は月がきれいだよー! いっしょに見ない?」
「あ、ああ……」
ヒロはベランダに腰かけていた月奈の隣に座った。
「……ねえ、何でそんなに距離を取るのかな?」
「ん?」
月奈はヒロのすぐ隣にやって来た。
「うっ! ち、近い!」
「うふふふ。いいじゃない。私のヒロ君の関係でしょ?」
ヒロは月奈から甘い匂いを感じた。
(月奈が、俺のすぐ横に!)
ヒロはドキドキした。
「ねえ、ヒロ君、私の話を聞いてくれる?」
「月奈の話?」
「そう。私ね、中学校であんまりなじめなかったんだ」
「そうなのか? 何か意外だな」
「? どうして?」
「だって、月奈は何でもできるイメージがあるからな」
「そういうイメージがあることを私は知っているよ。でも、それは私じゃない。私はクールビューティーだと思われているけど、そんなにクールってわけでもないしね」
「……じゃあ、高校ではどうなんだ?」
「うん、実はあんまり変わってないかも……」
「月奈は人間関係を築くのが苦手なのかもしれないな」
「うん、それは言えてるよ。でもさ、私も変わったところがあるんだ」
「? どこが?」
「それはね……」
「!?」
月奈は下から見上げるように、妖艶なまなざしでヒロを見つめてきた。
まるで猫のようにヒロを捉える。
ヒロはその色っぽさに呆然とした。
月奈はとたんに笑顔を浮かべると。
「よく、笑顔を見せるようになったんだ、私」
月奈は再び向きなおり月を眺めた。
「ヒロ君がいてくれたからだよ?」
「え?」
月奈はヒロの肩にしなだれかかった。
「つ、月奈!?」
ヒロは慌てた。
女の子とここまで近い距離を取るのは生まれて初めてだった。
「少しだけ、こうさせて」
ヒロに女性の体特有の柔らかさが伝わる。
恋愛経験がないヒロには刺激が強すぎた。
ヒロはただ、赤面して硬直していた。