同居
「というわけで、月奈ちゃんが我が家にやってくることになりましたー! かんぱーい!」
と一人、大はしゃぎするおかん。
「まるで娘ができたみたいだな。はっはっは!」
おやじがビールに口をつける。
この二人はやたらテンションが高かった。
「竜二さん、瞳さん、ヒロ君、ふつつかものですが、よろしくお願いします」
月奈があいさつする。
正直、ヒロの心はやばかった。
なにせ、女の子と同居である。
気にするなということが無理だった。
ましてや、今の月奈はTシャツにショート・パンツというラフなかっこ。
しかも、女性の象徴がはっきりと自己主張している。
ヒロと月奈はビールは飲めないので、オレンジジュースを飲んでいた。
「ちょっと、ヒロ! 月奈ちゃんが同居するからって変なことを考えちゃだめよ?」
「何だよ、変なことって?」
「例えば、エッチなこととか」
「はあ!? なんで俺が責められるわけ?」
「あっはっはっは! 年頃の若造に、エッチなことを気にするなってのが無理だぜ。なあ、ヒロ?」
「うるせ、くそおやじ!」
隣では月奈がほおを赤らめていた。
「月奈ちゃん、ヒロが野獣化したら、いつでも私たちのところに逃げてきていいからね?」
「大丈夫です。瞳さん、ヒロ君は紳士ですから。ね、ヒロ君?」
「う!?」
月奈がヒロに同意を求めてくる。
ヒロだって年頃の男の子である。
そういうことに興味がないと言えばうそになる。
ましてや同居である。
いやがおうでも期待はしてしまう。
ヒロはそっぽを向いた。
「ああ、別に何もしないよ」
「ヒロ君もこう言っていますし、何かするときには必ず、紳士的にしてくれると思います」
「はっはっは! 紳士ってか! ヒロお、紳士的ならいやらしいことをしてもいいってよ? どうする?」
くそおやじが挑発してくる。
ヒロはそんな挑発には乗らずに。
「そうやってたきつけるなよ。俺と月奈は幼なじみというだけなんだから」
ヒロは思った。
幼なじみだからって特別な関係になれるわけではない。
「そういえば、ヒロは明日から聖月学院に登校する日ね。ヒロ、準備はできているの?」
瞳が尋ねた。
「え!? ヒロ君は聖月学院に通うの?」
「そうだけど、それがどうした?」
「私も同じ学校なんだ」
「そうなのか?」
「明日はいっしょに登校しようね、ヒロ君?」
「あ、ああ」
月奈はヒロの隣で満面の笑みを浮かべていた。
ヒロは聖月学院の制服に着替えて登校した。
隣には同じく聖月学院の制服を着ている月奈がいた。
聖月学院の制服は上が白、下が紺となっている。
ヒロには気になることがあった。
とにかく、登校中周囲からの視線があるのだ。
ヒロは顔をしかめた。
「なあ?」
「何?」
「なんだか俺たちは注目されてないか?」
「そうだね」
もっともヒロは思うのだが、これは月奈が注目されているのだ。
月奈はモデルと思えるほどの美少女だ。
スラっと伸びた身長に、ミニスカートからのびるなまめかしい脚、魅力的なバスト……
幼なじみの成長ぶりに、ヒロでもドキッとしてしまう。
ヒロは知らなかったが、月奈は聖月学院の中でもトップクラスの美少女だった。
そのため、月奈に視線が集まってきたのだ。
「じゃあ、俺は職員室に用があるから」
「ねえ、職員室の場所って知っているの?」
「いや、知らないけど……何とかなるだろ?」
「はあ、いいわ。私が案内してあげる」
月奈はヒロの手を取った。
そして強引にヒロを誘導していく。
ヒロの心はドキドキを感じた。
「あ、おい!」
周囲では女子たちが「キャー」などと甲高い声を出してくる。
どうやら月奈は気にしていないようである。
(少しは周りの目を気にしろよな……まったく)
ヒロは職員室で月奈と別れた。
教室に入ると、なんとそこには月奈がいた。
ヒロは驚いた。
月奈も驚いているようだった。
しかも、ヒロの席は月奈の隣だった。
聖月学院はシベリウス教系のミッションスクールである。
そのため、原則としてシベリウス教徒しか入学資格がない。
「よろしく、ヒロ君!」
「ああ、よろしくな、月奈」
最初の休み時間ではヒロと月奈は取り囲まれて、いろいろと質問攻めにあった。