『交易の町、ウィスタリア』
――翌日、店主の助言通り俺達は今隣町のウィスタリアに来ている。
通りには露店が並んでおり、客はもちろん各国の商人が引っ切りなしに出入りしている。さすが交易の町と云われているだけある。
何故ウィスタリアがこんなにも栄えているのか? それはサルファーが世界の中央部に位置しているからである。
他の国は丁度東西南北に分かれた場所に位置しているので、必然的に集まりやすい中央部、サルファーの属国であるウィスタリアで交易が行われている。
ウィスタリアはサルファーから少し東に南下したところにあるが、ここはサルファーより標高が低く行き来しやすいため、多くの人が集まるにはうってつけの場所だった。
ここなら1人くらい手がかりを知っているだろうと情報を集めていたが、
「青い花? そこの花屋のじゃ駄目なのかい?」
「……何? 花畑だぁ? 知るかそんなもん! 商売のジャマだ! アッチへ行けッ!!」
「青いならやっぱり『スマルト』にあるんじゃないか? あそこは青を象徴にしてるから」
聞けども有力な情報は入ってこない。やはり店主も言っていたスマルトに行くべきなのだろうか?
確率は高そうだが、では何故青い花畑の噂が耳に入らないのかが気になる。絶好の観光スポットになるはずなのに。
懸念はあるがここから一番近い国であるし、他に手がかりが残されてないことからもそこに行くしかない。
行き先は決まったし、出来れば一泊してから向かいたいが、
「追手に見つかる前に進むしかない、か……」
実はここまで来るのに少々遠回りをしてきた。その理由は検問にあった。サルファーを立つ時、出入り口の門はどこも検問がかけられていたのだ。十中八九城から指示が出ているのだろう。――ミティスを連れ戻すために。
何とかうまく脱出し、ウィスタリアに逃げ込んだが、ここにも検問がかけられていた。
恐らく周辺の町には既にミティスが逃げたことを知らされているのだろう。国から逃れるには別の国に逃れるしかない。仕方ないが早々にここを立つ必要がある。
考えを纏めると早足にミティスが待つ宿へと向かった。
宿屋に戻るとミティスは窓側で外を眺めていた。きっと露店が気になっているのだろう。
本当はミティスも露店に興味を示していたが、万が一のことを考えて連れていくのは止めたのだ。未練がましい視線を向けられたが、無視せざるを得なかった。
今度は勝手に出歩かないよう口を酸っぱくして言い聞かせたのが功を奏したようだ。今回は大人しく待ってくれていた。
そんな彼女を急かすようにして声をかける。
「ミティス、すぐ次の国に向かうぞ」
言いながらすぐに荷物を纏め出す。ミティスは俺の動きで察したのか、身を隠すために纏っていたローブのフードを深く被る。
昨日の酒場での経験からミティスは居るだけで人の視線を惹き付ける。騒ぎにならないよう顔を隠した方が良いと判断してローブを購入したのだ。
ミティスを連れ受付に向かうが、咄嗟に柱の影に隠れる。見慣れない軍服を着た男が受付に立っていた。
「失礼。こちらに金髪の少年が泊まっていませんか? 名を『クロム』というのですが……」
「あぁ! 泊まってるよ。さっき戻ってきたから今なら部屋にいるはずさ。……ところで、国のお偉いさんが何のようで?」
「お騒がせするつもりはありません。少々その少年に聞きたいことがあるのです」
(マズい!)
もう追手が来ていた。確かに遠回りで来たがそれにしては早すぎる。まるで予めここに来ると知っていたかのようだ。
咄嗟にミティスの手を引き部屋に戻る。そっと窓から外を覗き込む。やはり先程までは居なかったはずの兵士が外に待機していた。
正面からは無理だ。かといって窓から出たらすぐにバレてしまう。廊下にはさっきの軍服野郎が迫っていることだろう。
(どうする……? どうすればいい!?)
俺が焦って結論を出せないでいると、ミティスがクイッと俺の袖を引っ張った。
何かと目をやると少女は天井に指差した。
――ダクトだ。
城でも利用したダクトがそこにあった。しかし城のものより一回り小さく、天井にあるため俺一人では上がることができない。いくら俺が小柄でもそもそも届かないのでは意味がない。だが、ミティスだけなら飛べば入れるのでは?
「ミティス、俺は無理だ。君なら飛べば届くだろう。俺のことはいいから先に……ぬぁ!?」
言葉を途中で遮えぎられ抱きかかえられる。誰が誰に? 俺が、ミティスに。
ミティスは俺を抱きかかえ、ダクトまで飛ぶ。そう、俺のことなど苦にもせずに。
(おかしいなぁ……俺、60キロ近くあるはずなんだけどなぁ……。天使って力持ちだなぁ……)
一瞬遠い目になる。そんな俺の様子に気付かないミティスに無理矢理押し込まれ、どうにかこうにかダクトへ避難できた俺達に続くように部屋がノックされる。
しかし俺達の返事がないとわかると普通にドアを開けて入ってきた。キョロキョロと室内を見回す軍服の青年。
「おや? 一足遅かったですかね……」
何やら考え込んでる風であったが、納得したのか部屋を静かに出ていった。最後にチラッとこちらを見られた気がしたが気のせいだと思いたい。
足音が遠ざかったのを確認してミティスに下へ降ろしてもらう。宿屋ということもあり掃除が行き届いていたのか、そんなに服が汚れなかったのは幸いだった。
軽く服を叩きながら埃を落としつつ再び窓を覗く。外では先程の青年が兵士達に何か指示を出しており、宿屋からは撤退していった。
ホッと安堵に胸を撫で下ろす。今捕まったら城への『住居侵入』と『窃盗の疑い』でしょっ引かれてしまう。いや、天使は生きてるから誘拐にあたるのか?
「助かったが、これからどうするかな」
「次の国へ向かわないの?」
本当ならミティスの言う通り隣の国に行く予定だったが、もしかするとそこまで勘づかれているかもしれない。
先程の軍服の青年を思い出す。それなりに地位の高そうな服装。理知的な印象を受ける容姿。どうみても知恵がまわりそうなタイプだ。
ここはあえて裏をかいて一旦サルファーへ戻り、体勢を整えた方が良いだろう。何故こんなにも動きが早いのか、調べる必要もある。
「いや、今進むのは危険だ。サルファーへ戻ろう」
「……わかったわ」
俺の意図を察したのか頷くミティス。まだ入り口には見張りがいるかもしれないので窓からそっと外へ出る。
隣国のスマルトは東門側にあるので俺達は西門側に向かった。




