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『情報収集と誤解』

 ――カランカランッ


「いらっしゃい! ……何だクロムか」


 店主(マスター)が元気よく迎えてくれたが、客が俺だと知るとあからさまに肩を落とす。


「ご挨拶だな、久しぶりに会ったのに」


 そんな様子には慣れたもので俺はいつも通りカウンター席に腰かける。


「ミルクしか飲めないお子様が何言ってんだ」


 悪態を付きながらも俺のためにミルクを用意する店主。ありがたく受け取り一口飲んで喉を潤す。


 ――うん、やっぱりここのミルクは旨い。一度仕入れ先を聞いてみたが企業秘密だと言って教えてくれなかった。残念だ。


 他の顔見知りの客に挨拶しつつ、他愛ない話をしていたが、会話が途切れると店主の方から切り出してきた。


「……で? 今回はどんな問題事持ってきたんだ?」


 その言葉を合図にスッと背筋を伸ばし、真剣な表情で問いかける。


「青い花畑があるところを知りたい。何か情報はないか?」


「花畑ぇ?」


「そう、花畑」


 思いがけない内容だったのか店主は面食らっていた。そうなる気持ちは俺自身痛感している。普段では絶対に受けない内容だからだ。


「お前いつから()()の何でも屋になったんだ?」


「……断れない事情があるんだよ」


 仕事場に置いてきた少女を思い浮かべる。少女は名を『ミティス』と言った。少女の突飛な行動に驚いて思わず受けてしまったが、今更ながら後悔が押し寄せる。


 何せ情報が青い花が咲いている場所というだけなのだ。せめて何の花でどういった特徴があるのかだけでも覚えていて欲しかった。


「しっかし青い花ねぇ……そんな花畑があるなんざ聞いたことねぇな。()といえば『スマルト』だが……」


 店主が首を捻りながら考え込む。


 『スマルト』とはここ『サルファー』より東部にある国で、国色として青を象徴としている。因みにサルファーの国色は黄色だ。


「情報通のあんたでも知らないか。参ったな……」


 分かっていたこととはいえ頭を抱えたくなる。少しでも場所を絞りたかったが、このままでは本当に全国を巡ることになってしまう。


「自国のことなら力になれただろうが、他国となっちゃさすがにな。ま、少なくともこの辺りではないとしか言えんな」


 店主は肩を竦めて気落ちするクロムに話しかける。


「ここよりも隣町の『ウィスタリア』に行けば情報が入るかもしれん。あそこは交易が盛んだからな」


「ウィスタリアか……」


 ウィスタリアは各国の商人が集まるこの国で2番目に栄えている町だ。他国の情報を得るには確かに一番効率の良い方法だった。


 自国にはないと分かっている以上、少しでも手がかりになりそうな場所に行くべきだろう。


「さっそくそこに行ってみるわ。ありがとな」


 残っていたミルクを飲み干し、店主に礼を言って出ていこうとする。


「報酬入ったら今度は飯食いに来いよ」


「フッフッフッ。依頼が終わったら毎日来てやらぁ」


 意味深な笑みを浮かべ店主を見やる。何たって今の俺は大金持ちだからな。……まだ換金してないから手持ちは寂しいが。


 得意気な顔をしている俺を店主が訝しげに見ていると、


 ――カランカランッ


「いらっしゃ……!」


 店主が出入口を見て固まったと同時に店内もざわついた。何事かと思い後ろを振り向こうとする前に声がかかる。


「クロム」


「ミ、ミティス!? どうしてここに……」


 思いもよらぬ人物の登場に驚いて立ち上がる。その拍子に、座っていた椅子がガタッと大きな音を立てた。


「だって、1人で暇だったんだもの」


(だからって何で大人しくしてるように言ったのに来るんだよ!)


 クロムは内心怒鳴りたい気持ちで一杯だったが公共の場なので抑える。変に騒いで兵士に見付かったら大事になってしまう。


 話は終わったので早くミティスを連れて帰ろうとした時、ふと周囲から嫌な視線が向けられていることに気付いた。所謂(いわゆる)羨望や嫉妬といった感情だ。


 ――そしてそれは特に真後ろにいる人物から感じ取れた。


 恐る恐る振り替えると、そこには見たこともないほど満面の笑みの店主、いや、()()()()()()()()()()()店主がいた。


「クロム君、この絶世の美女はどなたかなー? まさか……彼女だとか言わないよね?」


 店主が朗らかな口調で尋ねる。しかし目は全然笑っていない。これはあれだ。盛大に誤解されている。


「いや、違くてっ! 依頼主! そう、今回の依頼主だから!!」


「なるほど。その美しいお嬢さんの瞳と同じ色の花を見せてあげたいと。そういうことなんだね? クロム君」


「どうしてそうなる!?」


 慌てて弁解を試みるが店主は全く聞く耳を持たなかった。これだから拗らせた大人は怖い。ついでに店主と同調するように他の客も一緒に騒ぎ立ててきてうるさい。

 

 これ以上長居すると余計に絡まれるのは火を見るより明らかだった。


(うん、逃げよう)


 即座にそう判断するとミティスの手を掴み、一気に出入口まで走る。


「クロム君の、裏切り者ォッ!!」


 店を出たところで店主の悲痛な叫び声が(とどろ)いたが、聞こえなかったことにした。




「……ところでミティス。どうして俺がここにいるって分かったんだ?」


 帰り際にそういえばと引っ掛かっていたことを聞いてみた。情報を集めてくるとしか言ってなかった筈なのに、どうして居場所がわかったのだろうか?


(まさか依頼人のふりして俺の事を監視してるんじゃ……)


 冷や汗をかく俺を尻目にミティスは少し首をかしげて、


「なんとなく、あそこにいるかなって思ったの」


「なんとなくで!?」


 ミティスの謎が深まるだけだった。

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