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『そして新しい物語へ』

 ボーン、ボーンと鳴り響く時計の音を合図に目を覚ます。薄暗い、檻で囲まれた部屋。窓はカーテンが閉じられておらず、綺麗な満月の光が室内を照らしていた。


(どうして、ここにいるんだろう?)


 考えようとして、やめる。頭に(もや)がかかるような、遮られるような感覚に陥り、何も考えられなくなったからだ。


 ――長い夢を見ていた気がする。そう、ここではないどこかで、誰かとともに過ごしていた気がした。でもそれはありえない。だって、ずっとここに閉じ込められているはずだから。


「…………っ」


 何かがザザッと残像のように脳裏を過った。金色の髪にベージュのような紳士服を着ている誰かが見えた。


(誰? ……あなたは、誰なの?)


 思い出せない。でも、思い出そうとすると何故だか心が温かい気持ちになるような気がした。


 不思議な感情に戸惑いながら、窓辺の方へ近づいてみる。今夜は雲もなく立派な満月が天で輝いている。天上に居たときには知らなかった光景だ。


(? でも天上って、どういうところだっけ?)


 今までいた場所を忘れるなんて、どうかしている。不自然に欠けた記憶に疑問を覚えるが、ここには誰もその疑問に答えてくれる人はいない。


 仕方なくボーッと外を眺める。もう深夜ということもあり、いつもは兵士達の声で(にぎ)やかな外も、今は静けさに包まれている。静かな部屋、誰もいない室内、もう慣れたはずだったのに、急に寂しさが募る。


 本当にどうかしている。こんなこと、今まで思ったこと、なかったはずなのに。


 何とも言えない気持ちに戸惑っていると、天井から何か物音がした。ドキリと心臓が高鳴った気がする。やっぱりおかしい。こんなことで、心が揺さぶられるなんて。自分の心臓なのに、自分のじゃないみたいだ。


 何とか鎮めようとして再び窓の外に目をやる。しかし、そんな気持ちとは裏腹にどうしても天井が気になってしまう。それに同調するかのように胸がドキドキと早鐘を打つ。しばらく葛藤していると、天井で何かが外れるような音がした。そして、ガシャンと小さな音を立てて誰かが檻の上に降りてきた。


「っ!」


 その姿を見た瞬間、欠けた記憶が埋まり始める。


 私をここから連れ出してくれた人。追われながらも最後まで一緒にいてくれた人。――私を見送ってくれた人。掛け替えのない想い人を、間違えようがなかった。


 先程まで鮮明だった視界がぼやけて見える。必死に瞬きを繰り返すと元通りになったが、かわりに熱い何かが頬を伝った。


「……何泣いてんの? ミティス」


 少し茶化しているような口調に、私の名前を呼ぶ優しい声。どうして忘れていたのだろう? いや、どうして今まで、忘れてしまっていたのだろうか?


 それともこれは夢なのだろうか? 私にとって都合のいい夢。壊れかけた世界が見せた、幻なのだろうか?


 それでもいい。だって彼に、もう一度会えたのだから。ここがいずれ消えてしまうとしても、これからはきっと、決められた物語以外を紡ぐことになるだろうから。


 いつもは差し出されていた手を今度はこちらから差し出し、私は精一杯の笑顔を浮かべ彼に呼びかける。――愛おしい、彼の名を。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ずっと『いいね』をしていただいた方には完結までお待たせしてしまい申し訳なかったですが、それと同時にこんなに時間をかけてしまったのに見ていただけてとても嬉しかったです。

因みにこの物語の詳細は活動報告にて書こうかなと思っています。いつになるかは自分でもわかりませんが、気が向いたら読んでみてください!

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