―プロローグ― 『依頼』
始まりはいつも同じだ。目の前に誰かがいて、いつものように依頼内容を話してくる。
いつもと違うのは、どんな話をしたのか、どうして俺が依頼を受ける気になったのか、そして依頼主の顔さえも全く覚えていないことだけ。
覚えていないはずなのに、何故かずっと待っていたような感覚に陥る。怪しい、何か裏のある依頼だと勘繰りたくても何かに遮られるようにそれ以上は考えられなくなる。
だが不思議と大丈夫な依頼だと、直感でわかるのだ。
依頼された内容を改めて確認する。書類には『ある城に幽閉されている天使を助け出して欲しい』とだけ記載されていた。
ふと視線をテーブルに移す。そこには大量の羽が置かれていた。それもただの羽ではない。天使の羽だ。天使の羽は貴重で、1枚手にしただけで一生遊んで暮らせると云われている。
依頼主はそのとても貴重な羽を報酬としてたくさん置いていったのだ。まだ依頼が達成されていないのにもかかわらず、見ず知らずの他人である俺が必ず助け出すと信じて疑わずに――。
「……変人か、よっぽどの馬鹿だな」
徐に羽を1枚手に取る。いきなり大金持ちになってしまった。生きる為に始めた仕事ではあるが、まさかこんな機会が訪れようとは思わなかった。
シャツの内ポケットに手にした羽をしまい、お気に入りのベージュのコートを羽織る。
「ま、とりあえず城を探りに行きますかねぇ」
『ある城』というのは見当がついている。この世で最も空に近いと云われている『セレスト城』だ。
その城にはずっと昔からこんな噂が流れていた。『天使の少女が囚われている』という噂が――。




