拝啓 俺に飼われたペットへ
拝啓 俺に飼われたペットへ
始めて逝く、そちらの場所はどんな様子だ?
他の仲間はいるか?
持たせてもらった、花と餌はしっかりあるか?
それは、聞く機会があれば聞こう。
それより、飼い主はお前にちょっとだけ怒っています。
「寿命まで生きろ」と言ったのに、ちょっと早く逝きすぎ。
せめて後数年は生きてて欲しかった。
これは、飼い主の我儘なのは、重々知っているけれども。
お前が亡くなったのを知ったのは、お前が亡くなってたった10分後だった。
呑気にお前を預けている者に電話したら、「丁度亡くなった」と聞かされた。
その時の俺の心情を、お前が分かる日はないだろう。
自分が呑気に電車で帰っている間は、お前はまだ生きていて。
自分が呑気に自宅へ帰ってきた頃に、お前は苦しんでいて。
自分が呑気に電話している頃には、お前は既に息を引き取っていた。
その時の俺の、どうしようもない悲しみを、寂しさを、バカらしさを、お前は分からないのだろうな。
分からない方がいいものだから、そのままでいてくれ。
飼い主であった俺も、お前の元にいた人間も、今全員同じ気持ちだろう。
「もっと長生きさせてやりたかった。」
これに尽きるだろう。
そして、「どうしてお前が亡くなってしまったのか。」
これも思う所ではあるだろう。
さて、ペットよ。
お前は覚えているか?
お前が俺に飼われた日。
お前は一人でガラスケースに入れられて、寂しそうにしていたよな。
俺はお前の種類のペットを、誕生日に飼いたくて、あの日お前に会ったんだ。
親にねだってお前を買って貰った。
少ないが、自分の小遣いからもお金を出して、お前を「飼う」事にした。
そして、家に連れてくる途中、不安げなお前を俺は胸に抱いて、撫でながら家に連れて行った。
その後、幼いお前の餌やりを、俺が殆どやったよな。
相当の量を食べるお前に、俺はなかなかに大変だったんだぞ。
それもまた、いい思い出だ。
大きくなったお前は、俺と最期に会う時まで、俺に対してツンデレだったよな。
素直に来ればいいのに、近くに寄るだけ。
膝にでも乗ればいいのに、全然乗らない。
それなのに、ずっと横目でこっちを見ている。
飼い主の俺に、そんなところ似なくてよかったんだぞ。
さて、ここまでお前宛に書いたが、最期にお前に宿題を出そう。
飼い主からの宿題だからな、ちゃんとやるようにな。
「俺に飼われて、幸せだったか?」
それを、俺が逝った時に答えるように、今から考えておけ。
こっちはお前が亡くなってからずっと、そればかり考えているんだぞ。
それくらいは答えてくれ。
言葉は通じないだろうから、態度で示してもいい。
ただ、しっかり答えるようにな。
最期に、一言。
俺は、お前を飼えて、良かった。
俺の人生の半分を共に生きてくれて、本当にありがとう。
俺の都合で、お前を置いてしまって、本当に申し訳なかった。
どうか、今は休んでくれ。
何時か俺も逝くから、その時まで安らかに。
半人前の、お前の飼い主より