*第93話 始まる夢
(あれ?なんだ?何んも見えんぞ?んにゃ?)
芳夫は辺りを見廻そうとしたが、自分の頭を認識出来ない。
(あ、頭は?手はどこ?か、体が・・・
あぁ!そうか!夢だ!
なぁ~んだぁ~夢かぁ~)
(今日の耳鳴りは言葉をしゃべるぞ!
さすが夢の中ですな!)
芳夫は生まれつき耳鳴持ちであった。
一般的な症状とは違い、抑揚と強弱が有り誰かが話しかけている様な感じがしていた。
検査では全くの異常なし、薬も効果は無く幻聴かも知れないと
心療内科へも通ったが、改善はされなかった。
(しっかし良く聞こえるなぁ~
意味も分かるし、
会話も出来そうだねぇ~)
『だから!私の話を聞いてってばぁ!』
(え?)
『やっと波長が合ったんだよぉ~』
(波長?)
『そうそう!いやぁ~間に合った~』
(へ?)
川崎芳夫25歳 自由業
要するに“何でも屋さん”である。
部活の先輩に誘われて始めた、その日暮らしの気儘な毎日だった。
その日は大きなタンク内の掃除を手伝う仕事だった。
四人掛かりで昼までには終わる予定だった。
ブラシでゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴ・・・
そしてここに居る。
酸素欠乏症による窒息死である。
『必死に注意したのにぜんぜん通じなくてぇ』
(そー言えば何時もより酷かったな耳鳴り)
『耳鳴りじゃ無いんだよぉ~』
(そーとしか感じないよぉ~)
芳夫も明と同じく転生予定者として、
生まれた時からナビゲーターが付いていたが、
脳内の物理的な不具合により受信が出来ないまま死んでしまった。
肉体から離脱した事で直通での会話が可能と成り現状に至る。
明と同様に事情説明を受けた。
(なんか・・・人生を無駄に過ごした気がする)
『まぁ、次があるから!』
(不安だなぁ~)
『転生者の先輩の子供として生まれるから大丈夫だよぉ!私もいるしぃ~』
(先輩いるの?どんな人?)
『えぇ~っとねぇ、パンツの好きな人?』
(???)
そうして彼は転生した。
「ギ・・・ギャァ~~~!」




