*第90話 意味の無意味
何か意味が在る筈だと思う。
価値の有る人生は何所かと彷徨う。
何事かを成し遂げた先に、何某かの答えが待っていると信じる。
答えてやろう
辿り着いた先にあるのは虚無だ。
教えてやろう
お前は今、鏡を見ているのだ
***
「面疔か・・・」
鼻の頭に出来た腫物を指先で軽く触る。
じくじくと痛い。
鏡に映る渋面に赤い印がマヌケだ。
「ふぅ~、さすがに笑えぬ。」
デカシーランドが一方的に条約を破棄し、
同盟軍を名乗るオバルトの兵団が駐留軍を駆逐した。
帝国民は難民となって逃げだし、利権は完全に失われた。
海では聖女が暴れ回っている。
既に二百隻以上が沈められている。
主力艦隊が手も足も出ない。
陸と海からの挟撃がバルドー帝国の必勝戦だ。
それを想定した軍編成が為されている。
そこが崩されてしまえば、帝国軍は案外に弱い。
「この私が弱気になるとはな・・・歳を取ったと言う事か・・・」
皺の増えた顔をもう一度眺める。
「マヌケな顔じゃの。うふっ、うふふふふ。」
何らかの理由があって聖女が誕生したと丞相は考えている。
確かに理由は在る。
この世界を活性化させる為だ。
観測者の目的は情報の質と量の向上であって人の幸福では無い。
人の命もミジンコの命も同等なのだ。
人は勝手に期待し、自惚れ、絶望し、憎悪するが、
彼女達にはどうでも良い事なのだ。
滑稽な見世物くらいの価値でしか無い。
人ならざるに縋ってはならない。
苦しめ踏みにじるのが人であるのならば、
慈しみ手を差し伸べるのも、また人でしかない。
千に一つ、万に一つの出会いにこそ、涙の報われる時が訪れる。
それは明日かも知れないのだ。
「停戦じゃ、軍を引け。」
戦略の練り直しをしなければならない。
聖女を倒さぬ限り帝国に勝ち目は無い。
「待つのだ、その時が来るのを。
必ずや隙が出来る。
うふふふふふ。
楽しみじゃ。
うふふふふ。」
丞相の考える以上にエルサーシアは隙だらけだ。
今までも、そして此れからも。
しかしルルナに隙は存在しない。
今までも、そして此れからも。




