*第86話 女と男のラブゲーム
嘗て地球に誕生した最初の生物は子供など産まなかった。
自身を分裂させてクローンを発生させたのだ。
世界にはイブしか居なかった。
クローンの集団には致命的な弱点が在る。
多様性が無い為に、何か大きな異変が起こると
たちまち全滅してしまう。
そこでイブは思った。
「男が欲しい!」と。
己の肋骨を捥ぎ取ったのはイブの方であった。
男は多様性を発生させる道具でしか無かったのだ。
性の分化に依り生物の多様性は飛躍的に向上した。
世界は大博物館と化した。
“カンブリア大爆発”と呼ばれる時代の到来だ。
手あたり次第の実験的進化。
目的の分からない形態。
ありとあらゆる生物門が出揃ったとされている。
勿論、殆どは絶滅し化石のみが残っている。
当初の男性は生殖後に用済みとなったが、
モッタイナイ精神の働いたイブは思った、
「なんか他に使い道ないかいな?」と。
「そや!敵が来た時の鉄砲玉にしたろ!」
男性は共感性を弱められ、代わりに攻撃性が強められた。
男性が他人の気持ちに鈍感であるのは、これが原因である。
程度の差こそあれど男性は基本的にサイコパスである。
だから女性は男性の無神経さを責めてはならない。
「こんな私に誰がした!」
と世の男性のY染色体は叫んでいるのだ。
***
何時もの通り夜明け前に目が覚めましたの。
そっとカルアンの腕をよけて
寝台から抜け出し、
身支度を整えますの。
最初の頃はカルアンのイビキがうるさくて、
何度も目を覚ましてしまいましたわ。
もう慣れましたけれど。
線路沿いの家に住んでいる人が、
電車の通過に気付かなかったのに驚いた事がありますけれど、
あれと似ていますわね。
確か高次脳機能による効率的選択でしたかしら?
人の話を聞かないお方が時々居られますけれど、
本当に聞こえていないのかも知れませんわね。
無呼吸症候群ですわね・・・
半開きの目が気持ち悪いですわ~
あれで見えていないのが不思議ですわ。
正に節穴ですわね。
私とカルアンの関係が女と男に変わってから、
私は甘えんぼさんになってしまいましたの。
滑稽で愉快だとしか思わなったカルアンの無神経さに、
腹が立つ様になりましたのよ。
まさかカルアンに対して承認欲求が生まれるとは思いもしませんでしたわ。
理屈では解っていますのよ。
男はそう言う生き物だと言う事くらいは。
なにせ前世では男性でしたもの。
私ほど男性を理解している女はいませんわ!
それでもイライラしますの・・・
このままではいけませんわね。
夫婦円満の妨げになってしまいますわ。
デカシーランドの独立騒ぎも収まってしまいましたし、
ストレス発散の場がありませんわね。
適当な理由をでっちあげて、
また暴れてやろうかしら?
相手はバルドーですもの構いませんわよね!
そうと決まればシモーヌの特訓ですわ!
体術は御庭衆に仕込んで貰っていますの。
問題は魔法ですわね。
シモーヌの契約精霊は綿精霊ですので、
攻撃魔法が使えませんの。
「何とかなりませんの?ルルナ」
「あぁ~そうですねぇ~、
出来ない事も無いですね。」
ほぉ!言ってみるものですわね。




