表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記  作者: おじむ
第三章 ラブ・イズ・ブルー
87/130

*第85話 一粒の麦

人体を支えているのは骨格である。

その周りに筋肉が張り付き、

脂肪がそれをうるおし、

筋膜と皮膚が内臓を包み込む。


それらを統括し指令するのが脳である。


そして人体を養っているのは血液だ。

血液が滞れば肉体は滅び朽ち果てる。


国家の血液は“経済”である。

よく商売と経済を混同しがちであるが、それは誤りだ。

商売は利潤を追求し富を生むものであり、

原動力である事には間違い無いが、

あくまでも経済の一部に過ぎない。


国家としての経済は、その富を民に再分配しなければならない。

その配分や、法制環境の整備、

産業発展の推進などを含めての“経済”なのだ。

そもそもの意味は“経世済民(世を治め民を助く)”である。


経済とは即ち“勘定かんじょう”である。


全ての収入から、あらゆる支出を差し引いて“不足無し”

それを達成するために勘定するのだ。


一穂いっすい麦穂むぎほの麦粒を数え

一反いったん辺りの収穫を量り、

総じてその年の豊凶を判じて分配の手立てを講じる。


それが“勘定”と言うものだ。


経済は生き物だ、自然現象と同等だと考えねばならない。

操ることなど出来はしない。


ぐ時もあれば嵐の夜も来る。

それを踏まえて勘定するのだ。


戦争は武力のみに非ず。

経済界もまた戦場となる。

しかも目の前には倒すべき敵の姿は無いのだ。


経済の戦に敗した国の民は自ら命を捨てる。

高きより身を投げ、

或いは人生を捧げ築き上げた職場で首を吊る。


誰に殺されたのかも知らぬままに、

我が身を嘆きつつ・・・


***


「うふっ、はてさて困ったのう、

収拾が着かなくなって来おった。

うふふふふ。

盛りの付いた犬は騒がしくて難儀じゃの。

うふふふふふふふ。」


「第三軍を当てまするか?」

弱体化した占領軍ではもう抑えられない。

本国の大部隊を動かす段階に来ている。


「いいや、独立を承認する。」

植民地を手放すと丞相は言う。


「・・・」


「うふっ、解らぬか?

容易く手に入れた栄華えいがは、容易くしおれる。

あ奴らに国を差配する事など出来まい。

独立と言う名の檻の中に閉じ込めるのだ。

美味い餌で手懐けた後は、じわじわとくびり殺してくれるわ。

うふふふふふふ。

それよりもオバルトとの戦に備えねばの。」


「では休戦の使者を?」

成る程と“箱持ち”は納得した。


「良きに計らえ。」

「御意のままに。」


****


「ワシらの勝ちや!」

「独立万歳~!」

「ウィ~~~!」

挿絵(By みてみん)


党本部は歓喜にいた。

帝国の使者が独立承認の旨を通告して来たのだ。


「早過ぎひんか?本軍が来る思たんやけどな。」

「帝国は落ち目なんや、ビビッてもたんやで!」


「そやそや!占領軍も引き上げて行きよったし

本軍も居らへん、来週には外交官が来て

独立の話進めるっちゅうとったやんけ!」


「国の名前どないするんや?トム。」

宣伝部長のカーン・コッフィーが、

広報の為には国名を早く決めろと以前から要求している。


「デカシーランド民主労働者共和国や。」

「おぉ~~~そのまんまやんけ!」


名は体を表す。

彼らの頭の中には資本投下による経済発展など、

一欠けらも存在してはいなかった。


この世界に産声を上げた最初の民主主義は余りにも未熟であった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ