*第37話 北国の春
コイントの春は遅く、そして短い。
陽節が過ぎても朝霜の下りる日が有る。
漸く温かい気候になったと衣替えをして、
冬物を手入れし終わる頃には夏も終わる。
生まれ育った故郷への愛着にも増して、
南国への憧れは強くまた恨めしかった。
連合最大の版図を持つテオルコイント王国では
今、同盟国元首達による首脳会談が行われていた。
議題は南下政策の継続の可否についてである。
何度も繰り返され、その都度もの別れになる不毛の会談である。
「その聖女とやらは11歳で上級の攻撃魔法を操ると申すか?」
タリタール国王ムヒカは懐疑的な姿勢を崩そうとはしない。
「我が息子ギールの言葉が真であれば既知の魔法では無い。」
コイル族長アルトゥクが事の重大さを強調する。
「ダモンの娘は魔法を生み出す事が出来る。」
「わいはぁ!まいねまいね信じれん!」
オウトワン国王パンジャブが驚愕の声を挙げる。
「最早南下政策など妄想ですぞ!彼我の力量の差は明白である!」
「ならばどうすると言うのだ!
ちまちまと貿易なんぞで稼いでも我がオウトワンには益無しじゃわい!」
貿易拠点から遠いオウトワンには海上貿易による恩恵は薄い。
長い冬の苦悩を癒しては呉れないのだ。
「我らが貧しいのは上級精霊が少ないからじゃ!
貴族と言えど半分は綿帽子じゃ!
オバルトと正式な国交を結び人が交われば増えようぞ!」
「そうじゃ!いずれ聖女殿にも子が出来よう、
その子を王族に迎え入れようぞ!」
「聖女殿はトキシラズを大層お気に召した様じゃ、
何でも“ビンチョウタン”とか言う炎を出す石で焼いて食したそうじゃ。
我が息子も御相伴に与かったそうじゃが、
格別であったと言う。」
「ギール殿は聖女殿と昵懇になられた様じゃの。
こちらにお招きしてはどうじゃ?」
「オウトワンのホジクリーナも絶品じゃ!お気に召すに違いない!」
先ほどまで否定的だったパンジャブが掌を返す様に乗り出した。
コイントの特産に舌鼓を打ったと言う話に気を良くしたのだ。
対抗心を剥き出しであるが、
その通りであ~る。
「タリタールの子羊も負けてはおらぬわい!」
「なんの!ランバの鍋料理で身も心も温めて貰おうぞ!」
北の物産展が手薬煉を引いてエルサーシアを待ち受けていた。




