*第35話 カルアンからの手紙
精霊との親和性を保持する為に必要な情報は
ミトコンドリアDNAに組み込まれている。
その発現率に応じて契約が左右されているのだ。
エルサーシアはこの発現率が極大となっている。
つまりはエルサーシアの子孫達は人型精霊と契約出来る確率が高いのである。
但し、母性遺伝で在る為にエルサーシアが男子しか生まなかった場合は、
孫の代に受け継がれる事は無い。
運よく代々に渡りエルサーシアの遺伝子が受け継がれたとしたら、
人型精霊と言う明かな指標と、それが母系によって紡がれる糸である事に
人々が気付く日が必ずや訪れるだろう。
***
「も・・・もう十分だよサーシア、お腹一杯だよ。」
「あら、いくらも召し上がっていませんわよ?ほらもう一口、あぁ~ん」
「あ・・・あぁ~ん・・・うぐっ」
麦粥を作って差し上げましたのよ!
先ずは体力を回復しなくては成りませんものね!
沢山食べて下さいましな!
あの日、ふと思いつくまま僅かな望みを賭けて意識の戻らないカルアンの顔に、
脱ぎたてのパンツをひらりと被せて見ましたの。
するとパッチリと目が開き、モグモグとパンツを食べ始めましたのよ!
全身に鳥肌が立ちましたわ!
「いやぁ~!」
叫び声を上げてルルナが背中を搔き毟っていましたわ。
精霊でも蕁麻疹が出ますのね。
さすがですわねカルアン・・・
キモイですわぁ~~~!!!
森の中で仕留められていた襲撃者の半分はバルドーの民で間違い無い様ですわ。
問題はもう半分が同国人だとの事ですの。
恐らくは宮内省の御庭番だろうと言うのですけれど証拠は有りませんの。
もしもカルアンが死んでしまったら、
証拠など無くても復讐するつもりでしたの。
誰が何人死のうと知った事では有りませんわ。
そのくらいに怒っていましたの。
けれどもう許して差し上げますわ!
両腕が使えず、体に穴が開いて身動きの出来ないカルアンの
惨めな姿を楽しめるのですから、
今回だけは大人しくして置きますわ。
「週末には王都に戻ってしまうのだね。」
寂しそうにカルアンが呟きますの。
「授業が有りますもの、聖女のお仕事も溜まっておりますの。」
当分の間は来られそうにありませんわね。
「この手では書けないな。」
え?掻きますの?ここで?
「辛抱は出来ませんの?」
「辛抱も何もこの手では書けないよ。」
それはそうですけれど・・・
「そうだ!口に咥えて書けばなんとかいけるかな?」
うえぇ!セルフで咥えて逝くおつもりですの?
掻くどころかおしゃぶりですわ!
「腐れ外道ですね・・・」
まったく同感ですわルルナ。
「そんな事が出来ますの?傷口が開いてしまいますわ!」
体の柔らかい人なら可能だとは
聞いた事がありますけれど・・・
「頑張ればなんとかなるさ!」
そ・・・そんなに溜まっていますの?
まぁ他にする事も無いでしょうし・・・
暇ですものね・・・
けれど無理をしたら治る傷も治りませんわ!
「し・・・仕方が無いですわね!わ・・・私が掻いて差し上げますわっ!」
夫の迸る愛情を受け止めるのも妻たる者の務めですものっ!
「え?君が書いてくれるのかい?」
「えぇ!私がカルアンの右手になって差し上げますわ!」
「そ、そう!助かるよ!嬉しいな!そうだ姉上宛てに書くとしよう!」
「な!なんですってぇ~!」
私と言う美少女が目の前に居るのに、お母様をオカズにするなど許せませんわ!
「私をアテに掻けば宜しいではありませんか!」
なんでしたら脱ぎますわよ!
「いや、君宛てに書いてもしょうがないよ、君が書くのだから。」
んまぁ~!言うに事欠いて“しょうがない”ですって?
そんなに巨乳がお好きでしたの!
ロリコンのくせに!
邪道ですわ!
私だってあと5年もすれば立派なお胸に成りますわよっ!
成りますわよね?
きっと大丈夫ですわ!
お母様の豊満なお胸は私にも必ずや継承されるに違いありませんわ!
「どうして私では逝けませんの!」
「え?わざわざ出さなくてもいいからだよ。」
「もう!ご勝手になさいませっ!王都に戻りますわっ!御機嫌よう!」
暫くは絶交ですわ!
「え?どうして?
何を怒っているのサーシア?
待っておくれぇ~御免よぉ~
謝るからぁ~」
療養中のカルアンから手紙が届きましたわ。
蟯虫がのたうち回る様な字で
愛と謝罪の言葉が綴られていましたの。
まるで陽性のポキールを見ている様で不愉快ですわ。
ペンを口で咥えて書いたみたいですわね。
あれぇ?口で咥えて?書く?
もしかして“掻く”では無くて“書く”?
手紙の事でしたの?
おや・・・まぁ・・・
御免なさいねカルアン・・・




