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*第31話 Mrボージャンガル

オレンジ色の夕陽に引き伸ばされた影達が踊っている。

庭師とその仲間が影遊びをしているのだ。


白髪頭で、よれよれのシャツにダブついたズボンと汚れた長靴。

それでも驚くほど軽快に飛び跳ねて、空中で両足を打ち鳴らし

ふわりと着地する。


コミカルで、それでいて妙に物悲しい影の振る舞いを眺めながらカルアンは

グラスの中の幸福を味わっていた。

挿絵(By みてみん)


狂気に囚われていた日々が遠い幻に思えた。

しかし全てが妄想であって、本当は隔離病棟の中ではないのかと、

毎朝の目が覚める度に、一瞬の冷たい恐怖がよぎる。


それを打ち消してくれるのは、

まるで起きるのを待っていたかの様に

朝の挨拶に部屋を訪れて呉れる愛しい妻の声だ。


死の淵から生還したならばくのごとくやと安堵するのだ。


***


「少し宜しいかしら?」


部屋に入ると窓際で間の抜けた顔のカルアンがお酒を嗜んでいらしたわ。

胸元に溢していますわよ、口元がだらしないですわ。


「何だぁ~いサーシアぁ~」

緩んだ目元が更にだらしないですわぁ~


「その目が気持ち悪いのですよねぇ」

駄目よルルナ!目に電撃は駄目!

潰れてしまいますわ!

指先を向けるのはやめて!


「週末に着ていく衣装で迷っていますの。どちらが宜しいかしら?」

殿下のお招きで王宮に参りますのよ。


「あぁサーシア!美しい君が着るのなら、

どんな衣装でも輝いてしまうよ!

どちらも似合いそうだね!

そぉ~だなぁ~

あえて僕の好みで言うならこっちかな?」


「やっぱり他のにしますわ、御免あそばせ!」

本当はもう別の衣装で決めて有りますの。


脇にスリットの在るものと、肩のリボンを解けばスルリと脱げてしまうものと、

カルアンがどちらを選ぶかをルルナと賭けていましたの。


私の勝ちですわ!


彼の性癖なら熟知していますの。

物心ついた頃から悪戯されて来ましたのよ、

年季が違いますわ!

より強く罪悪感を抱く方を選ぶに決まっていますもの。

お分かりになりますでしょう?


先ほどの2着はお母様からのプレゼントですの。

初潮が来た事をご報告致しましたらお贈り下さいましたのよ。


「二人の子供なら可愛いに決まっているわ!

あぁ私もついにお祖母ちゃまねっ!」


気が早過ぎますわお母様、

私はまだ11歳ですのよ・・・


***


王宮内に在る近衛騎士団本部の脇にある馬術場が今回の会場ですの。

結局の所、クラスの14名全員がお招きにあずかりましたのよ。


中でもロンドガリア一族のモーリス様は乗馬がお得意なのだそうで、

私の指導役を買って出て下さいましたの。

勿論、騎士団の方々も付いて下さいましたわよ。


バルドーの皇女殿下を王城にお招きするのは外交的に難しいかと思っていましたが、

あっさりと許可が下りましたわ。


外交部が異例の速さで手続きを済ませましたの。

何か心に引っかかる物が在る様な、

やっぱり無い様な・・・


「では私が解説を致しますので、まずは基本の歩法ほほうを御覧下さい。

モーリス!皆様に手本を見せて差し上げなさい。」


教官を務めて下さいますのは警護隊小隊長のブライアン・ラインバーグ卿ですの。

モーリス様の一番上のお兄様だそうですわ。


「はい!かしこまりました!」

さすがはロンドガリア一族の者ですわね、

馬上の姿勢がいかにもお上品ですわ。

まぁダモンの実戦主義の方が勇壮ですけれど!


常歩なみあし速歩はやあし駈歩かけあしと順に速度を上げて、

最後は襲歩しゅうほで私たちの目の前を駆け抜けて行きましたの。


まぁまぁな迫力でしたわ。

スーパースターも夢ではありませんことよ。


まぁダモンの鬼神の如き騎乗とは比べるべくもありませんけれど!


その後は銘々(めいめい)で騎乗し指導員の方々にご教授して頂く事になりましたの。

私にはモーリス様が指導して下さいますわ。


「レイサン夫人、その馬は?精霊ですよね・・・」

勿論、十二支精霊のウマのエドちゃんですわ!


「私の愛馬ですの、エドちゃんと言いますのよ。

可愛らしゅう御座いましょう?」


軍馬と比べると二回りほど小型ですけれど乗り降りが楽ですし、

なにより落馬の心配が有りませんの。

横向きに座るだけでピタッと安定しますのよ。

お尻に優しいリニアが標準装備されていますわ!


「これは・・・乗馬なのだろうか?・・・」

なんですの?何か異論が御座いまして?


「乗馬で御座いますわ!馬ですもの。ねぇルルナ!」

「えぇ間違いなく馬です。」

細かい事を気にしていてはスーパースターも夢のまた夢ですわよ、モーリス様。


チャーミィとラミア皇女殿下の静かなる戦いを眺めながらお昼を頂きましたわ。

立食形式で軽いものが用意されていましたの。


「エルサーシア!こっちへおいでよ!」

両手に花の殿下が私を呼んでおられますわ。

まだ足りませんの?


小さく手を振って“お気遣い無く”と合図を送りましたの。

それに今はハイラムのスワン伯爵公子様と

お話して居りますの。


「エルサーシア!僕とお話しようよ!」

急に腕を引かれてよろめいてしまいましたわ。

やっぱり空気を読まないお方ですわぁ~

合図が通じませんでしたわ。


「まぁ!お行儀が悪う御座いましてよ殿下。

後でお伺い致しますわ、

お待ちになっていて下さいましな。」


そっと寄り添う様に体を近づけて、

殿下の胸に手を当て悲し気な声で囁きますの。


「わわわ分かったよ!後でねっ!待ってるからぁ!」

相変わらずちょろいですわぁ~


午後からは皆様もかなりさまになって来ましたわ。

指導員に並走して貰いながら

速歩で乗れる様になりましたの。


あまり疲れてしまっても宜しくありませんので

早めに切り上げてお茶会へと移行しましたのよ。

お約束の通り殿下と沢山お話致しましたわ。

いかにチャーミィが可愛らしいお嬢様であるかを語り尽くしましたの。


暗くなる前に御開きですわ。


帰りの馬車がお屋敷の門を潜ると、

植え込みの隅に庭師のボージャンガル老が

片膝を付いて控えていましたわ。


めて下さいな。」

御者に合図して馬車を停止して頂きましたの。

「どうかなさって?」

彼はダモンの忠臣で、実はお庭衆ですのよ!


「近頃なにやら姫様を探っておるやからが居りまする。

大半は宮内省のネズミで御座いますが、

異国人が紛れて居りまする様で、

おそらくはバルドーかと。」


「意図はお判りになって?」

「まだなんともしゃくとしませぬ。

くれぐれもお一人にはなりませぬよう。」


「えぇ分かりましたわ。ご苦労様。」


我が家の庭師は全員がダモンの民ですの。

ミスター・ボージャンガルを頭とした

諜報ちょうほう部員ですのよ。


背の高いマイクと体の関節が自由自在に曲がるスミフ、

とっても力持ちのコイロ。

4人揃ってスーパーフォーと言いますの。

私の為ならエンヤトット~ドッコイセ!なのですわ!


さて今日はそれなりに楽しかった筈なのですが何かもやもや致しますわね。

訳も無くカルアンに優しくして差し上げたくなって来ましたわ。


どうしてなのかしら?・・・



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