*第29話 時知らず
この世界には月が無い。
衛星は在るのだが小さいので“明るくて速く動く星”としか認識されていない。
この二つの衛星は“ケントとメリーヌ”と呼ばれ、
夜空の道を駆け抜ける男女の旅人と言われている。
そして月齢周期も存在しない。
生態系のリズムは季節の変化、
特に4節日を中心に刻まれる。
人間の場合では、年に4回の排卵周期で、
節日の前後2週間に集中し軽い発情期を伴う。
***
今日は朝から騒がしいですわね。
廊下に人だかりが出来て中を伺っていますの。
「ですから!これは何の嫌がらせかとお尋ねしているのですわ!」
この声はチャーミィですわよね?
風邪でも引いたのかしら?
「いや・・・その、違う・・・うぅ」
「こんな侮辱を受けたのは初めてですわ!
私は・・・私は・・・チャーフ家のぉ・・・」
鼻を摘まんだチャーミィがコイントの二人組と揉めていますわね。
「これは一体何事で御座いましょう?
私の従妹に何か不都合でも御座いましたの?」
売られた喧嘩はその場で買い取り致しますわ!
「あぁ!サーシア!私、悔しいですわぁ~」
「おぉ良し良し、いい子ねチャーミィ泣かないで、もう大丈夫よ。」
さぁ!覚悟しなさいコイント!
ダモンの娘が相手になりますわっ!
あらぁ?これは・・・シャケ?
「だはんで違うって言っちょるべさ!」
素が出ていますわよベリア王女殿下。
「???魚の死骸を押し付けて於いて何が違いますの!」
いやぁ、もしかしたら違うかも・・・
「とと友達!贈り物!これえっち番の高級品!」
やっぱり・・・
見事な大きさのシャケの干物が机の上に
でぇ~んと横たわっていますわ。
剝き出しで・・・
匂いが強烈ですわねぇ~
あぁ・・・焼いた身をほぐしてお茶漬けで・・・
堪りませんわぁ~
ですがオバルトでは魚の干物を食す習慣は有りませんのよ。
「お互いに勘違いをなさっている様ですわね。」
ここは私が収めて差し上げますわ!
コイント族の住む北の地では魚を乾燥させて保存する事や、
大型のシャケは高級品として贈られる事をチャーミィに説明して差し上げましたの。
「まぁそうでしたの・・・
これは大変申し訳ない事でしたわ。
お許し下さいませ。」
萎らしく頭を下げておりますけど、
鼻を摘まむのはお辞めなさいなチャーミィ。
「いや、こここ此方も、せ説明不足であった。」
漸く復活しましたわねギール殿下。
「これは“トキシラズ”と言っての。油が甘くて美味しいのだ。」
ほぉ!時鮭とは!
これはこれは!
「左様で御座いますか・・・」
要らないのなら私が貰い受けますわ!
宜しいですわよねチャーミィ。
「なにわともあれ、このままと言う訳にも参りませんでしょう?
一先ず私がお預かり致しますわね!
サスケちゃんお願いね!」
十二支精霊のサルのサスケちゃんを呼び出しましたの。
「『主婦の必需品!ジッパロック!』」
プシュっと音がして時鮭が透明の膜に覆われましたの。
真空パックですわ!
「お屋敷の調理場で風通しの良い日陰に吊るして置いてちょうだいな!」
くるりと宙返りをして時鮭を担いだサスケちゃんが走り去っていきましたわ。
あぁ~楽しみですわぁ~
出来れば魔法で加熱するのでは無くて炭火で焼きたいですわねぇ~
「ねぇルルナ!炭を作る事は出来ないかしら?」
「えぇ出来ますよ。備長炭が良いですか?」
「まぁ素敵!ついでに七輪もお願いね!」
あぁもう涎が溢れて来て、上のお口がびちょびちょですわぁ~
「サ・・・サーシア!今のは何?何の魔法ですの?」
あ!ついやってしまいましたわ!
創作魔法・・・
「え~っと・・・古い文献に載っていましたの。
保存の魔法ですわ!」
本当は違うの・・・
御免なさいねチャーミィ。
まぁルルナと私のラッキーペアーだからこそ
出来る奥義なのですけれど。
「おぉ!今のが噂に聞く多重契約の精霊ですな!聖女殿!」
話し方が年寄りくさいですわギール殿下。
「同級生ですものエルサーシアとお呼び下さいなギール殿下。」
大変に結構なものを頂きましたわ!
もうお友達ですわよね!
***
一日の授業が終わり、大急ぎでお屋敷に戻りましたわ!
早速、炭と七輪を用意して・・・
と思いましたが、先ほどからお腹が痛みますの。
なにやら、おへその下あたりがズゥ~ンと重たい様な・・・
おぉぉぉ~
来ましたわぁ~
来てしまいましたわぁ~
あれがぁ~
遂にぃ~
私にもぉ~
生理がぁ~
下のお口が血まみれですわぁ~




