*第1話 高橋 明
高橋 明
それが僕の名前だった。
もう過去形だ。
僕の頭の中には彼女が居た。
いや妄想じゃないよ!
本当に居るんだ!
物心ついた時からずっと一緒なんだよ。
彼女はすごいよ!
何でも教えてくれるんだ。
物の名前や、試験の答え。
世の中で起こっている事。
まさに知識の宝庫だ。
目の前の女の子がどんなパンツを履いているのかまで教えてくれる。
試しにスカートを捲ったらその通りだった。
クラスの女子全員から無視されるようになったけどね。
別にそれでもぜんぜん平気~
『まさか本当に捲るとは・・・』
彼女も呆れていた。
だって気になるじゃないか。
なんでそんなことが分かるんだろう?
聞いたら物体の固有振動数がどうのこうのと
わけの分からない答えが返って来た・・・
透視能力みたいなもんかな?
彼女は途轍もなく優秀だけど僕はダメ人間だ。
自己評価は“中の下”。
でも周りからは秀才だと言われていた。
インチキ野郎だ。
成績は上から5番目くらいを維持するように心がけたんだ。
”上の中”がベストポジションだね。
もし彼女の知識と能力を最大限に活用したら、
きっとどえらい結果になって、みんなに期待されて、
ややこしい問題を押し付けられて、
「あなたなら出来るでしょう?」って感じで
政府機関のエリート官僚の美人秘書さんにドS顔で言われるに違いない。
そしてたぶんTバックだ!
そんな事にでもなったら僕は性癖が暴走して壊れてしまうだろうと思った。
彼女も無難な路線で行くことを支持した。
地元の公立校を卒業し、地方の国立大を出た。
その後は就職せずにアルバイトで貯めた資金を元手にして投資を始めた。
ちょうどその頃から一般にインターネットが普及してね。
ネット上で株や為替の取引が出来る様になったんだよ。
彼女の指示で売買するのだから、損する方が難しいよ。
簡単に資金が増えて行った。
でも程々が一番!
目立ちたく無かったんだ。
多少の贅沢が出来るくらいの暮らしが出来れば充分だよ。
彼女が居れば寂しくなかったし、そもそも僕は他人が苦手だった。
申し訳ないとは思うが親兄弟でさえ他人と大差は感じ無かった。
両親から愛情を感じた事なんか無いよ。
色々と事情があったんだけどね。
長くなるから、その話はやめとくね。
僕と彼女とそれ以外。
その狭い狭い世界で生きて、
そして終わった。
え?
もうひとり?
あぁ~あの人の事だね。
あの人はね・・・
あの人は幻。
幼い記憶の中に揺れている。
大きな感動も無く、ほとんど疑問も抱かず。
さして不満も湧かず、一時は病の激痛に悶絶したけれど、
終末は穏やかだったよ。
あの一言が無ければ安らかに眠れた。
(何?転生?どーゆーこと?ここどこ?
どうなってんの?)
はてなマークに生まれ変わった気がした。




