*第22話 ありがとう
オバルト王国は3つの国家と国境を接している。
北はラーアギル山脈を挟み北狄コイント連合国、
南東に南方ハイラム王国、そして南西を南蛮バルドー帝国が窺っている。
国家の成立はオバルト王国が最も古く、建国以来1532年を数える。
三国の中で最も歴史の浅いのはハイラム王国で、
500年ほど前にバルドー帝国に対抗する為、
五つの小国が連合国を結成したのが始まりである。
その後内乱を経て主導権を握ったハイラムが他を併合し統一国家とした。
その際にハイラムを支援したのがオバルトで、それ以来両国は同盟関係に在る。
***
「まぁ!なんて無垢な出会いなのでしょう!
きっと恋だと気付いてもいないわ!」
皆様から誉めそやされて得意満面なルルナが
横目で私をちらちらと見ていますわ。
今日はクリステル王太后陛下の発起による詩会に来ていますの。
お題に合わせて即興詩を作って順番に御披露するのですわ。
今回のお題は“初恋”。
そしてルルナの詩が絶賛されていますの。
何所か名も知らぬ湖で
あの方と出会いましたの
何所か名も知らぬ湖で
雛菊の花に囲まれて
あの方が笑うとお空の雲がお魚になりましたわ
何所か名も知らぬ湖で
あの方とお別れしましたの
今は何処に・・・
ヨンデルセン物語のキャンピーの歌ですわねぇ~
堂々とやりましたわね。
神経が太いですわぁ~
ルルナがその手を使うのでしたら私も躊躇など致しませんわよ!
さてどれが良いかしら・・・
にこやかに恋を致しましょう
にこやかに傷つきましょう
にこやかに夢を見ましょう
にこやかに諦めましょう
一人きりで泣きましょう
何時も心に青空を抱きましょう
何時も優しく微笑みましょう
今日も明日も 有難う御座います
・・・失敗しましたわぁ~
初恋感ゼロですわぁ~
「まぁ・・・そうよね。
淑女は常に微笑んでいませんとねぇ・・・」
「えぇその通りで御座いますわ陛下!」
「淑女の嗜みで御座いますわ!」
居た堪れませんわ~
「その・・・お粗末様で御座いました。」
「元気いっぱいの爽やかさがサーシアの良い所よ!とても素敵でしたわ!」
あぁお母様!
今はその胸の谷間に癒されたいですわっ!
「どれも素晴らしい詩でした。
精霊王様の詩を拝聴出来るとは僥倖でした。」
王后陛下が詩会の締め括りを述べられて、
これから後は雑談ですわね。
「皆様も気に入って下さいましたわ。良かったわねルルナちゃん!」
それ盗作ですのよお母様!
私もですけれど・・・
「有難う御座います。喜んで頂けて幸いです。」
それ盗作ですわルルナ!
私もですけれどっ!
それから王后陛下御自身から初恋の思い出をご披露なされました。
陛下はハイラムの王族で在らせられますの。
熱帯の大森林と無数に流れる河川に囲まれた秘境から御越しになられましたの。
私の母方の曾祖母様ですのよ。
「もしあの時あの方の手を取っていたならと、
時々思わないでも無いのよ。
でもそうなると貴方と出会え無かったから、
今は良かったとほっとしているわ。」
陛下が私に微笑み掛けて下さいます。
「私も嬉しゅう御座いますわ陛下。」
「私もですのよお祖母様。」
「あら!妬いているの?
もちろん貴方に会えた事も私の幸せですよ
パトラシア。」
実に平和で有り難いですわ!
でも不満を抱く方々もいらっしゃるのよねぇ・・・
週末はその中心に居られる方とお会いしますの。
気乗り致しませんわぁ~
顔合わせだとか言われましてもねぇ。
どう考えてもお見合いですわよねぇ。
私はもうすぐ人妻に成りますのよ?
NTR?




