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大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記  作者: おじむ
第二章 なのに私は王都へ行くの
19/130

*第17話 愛のアナマリア

王都の東側に下級貴族の邸宅が並ぶ一角が在る。


手入れの行き届いた敷地内と下級らしからぬ壮麗さを放つ屋敷は、

側室アナマリアの実家、サンドル男爵家である。


ほんの10年程前はろくに手入れもされず、

みすぼらしい貧乏貴族然としたものだったが、

出世した娘の恩恵で栄華をほこっている。


サンドル家の祖は8代前に南方ハイラム王国から移住して来た貿易商である。

当時はまだ平民で、ハイラム特産の絹織物を扱っていた。


3代目の当主が国内での桑畑くわばたけの開墾と養蚕ようさんを成功させ、

安価で上質な絹糸の生産を軌道に乗せた。

その功績が認められて準男爵を徐爵され、5代目で男爵位を賜った。


ところが7代目の当主が投資詐欺に合い

巨額の負債を抱え、主力の養蚕事業の殆どを手放す羽目になってしまった。


8代目であるライオネルが当主となった時には、

大手商社の下請けとして絹糸を収める工場を細々と経営する

没落寸前の貴族となっていた。


アナマリアは幼い頃から劣等感にさいなまれていた。

屋敷こそあれど貴族とは名ばかりの貧しい生活に嫌気が差していた。

いっそ平民として自由気ままな暮らしの方がいさぎよいのにと思った。


プライドばかりが高く、かつての栄光を夢見る父が悲しかった。

母はライオネルの美貌に惹かれ結婚したが、

愛想をつかして実家に帰りそのまま離婚してしまった。


家庭教師を雇う余裕など無く、

学習は平民の子に交じって教会に通った。

幸いな事に容姿には恵まれて、

安物の衣装を着ていても華やかな少女だった。


平民だが遥かに裕福な家の御曹司から縁談も来ていたが、

ライオネルは貴族との婚姻に拘った。


手元に残る数少ない宝石を売り、精霊院への通学費用を捻出し

高位貴族との縁談かもしくは王宮侍女に登用される道を目指した。

縁談は叶わなかったが王宮内裏シルティアル宮殿の侍女見習いとして登用された。


アナマリア14歳の事である。


宮殿に奉公に上がって間もなくアナマリアは、侍従職の一人と親しくなった。

歳は離れていたが高位貴族である彼の洗練された振る舞いに見惚れた。

甘い言葉や高価な贈り物に舞い上がり、誘われるままねやを共にした。

挿絵(By みてみん)


身も心も彼に捧げたアナマリアは、ある日縋るような声で話す彼の願いを受け入れた。

彼の為なら何でもしようと思った。


彼の望みを叶えられるのは自分しかいない、形だけの正妻などに出来はしない。

私が彼を幸せにしてあげるのだと決意した。

彼の手配でアナマリアは、王のお世話係に抜擢された。


「陛下を誘惑して、私の子を陛下の子として産んで欲しい。

私達の子を国王に!」


それが彼の願いだった。


王を篭絡ろうらくするのは実に簡単だった。

潤んだ瞳で見つめた後、恥ずかし気に俯いて微笑むだけで落ちた。


とぎを命じられた日の前日は彼と寝た。

当日はスポンジを仕込み避妊した。

その翌日も翌々日も彼の子種を受け入れた。


王子が生まれた時、アナマリアは確信していた。

「この子は彼の子だ」と。

彼との極秘の関係は今も続いている。


アナマリアの愛は狂おしく絡みつきながら、

哀しくも澄んでいた。



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