*第11話 隠された伝説
遠い昔に4人の精霊の落とし子が生まれ、この世で最初の契約者となった。
彼らは世界中を旅して廻り、精霊の言葉と文字を人の世に伝えた。
彼らの死後、知識と技を受け継いだ弟子達が教団を組織し、
民の救済を掲げたのが精霊教会の始まりとされている。
今、教会の代表としてダモンの地を訪れているコネリー大司教主席枢機卿は、
使命の重さと伝説の再来に立ち会う感動に震えていた。
***
昨日は朝からお城の中央広場で訪問団の歓迎式典が行われました。
皆様ルルナとお話がしたいご様子でしたが、
当のルルナが超然と無視するので気まずくなってしまいましたわ。
午後からは王太子殿下をお招きして、お祖母様主催のお茶会が開かれました。
親戚同士のお茶会なので、殿下も寛いでおられました。
「まるで精霊の姉妹のようだね。」
と殿下が微笑まれると、
気を良くしたルルナが
「ラッキーペアーですから。」
と両手の人差し指を立てて返答しました。
“魔女っ娘ピックル”ですわねぇ~
マハーロのターマリで
フーランペですわぁ~
夜は舞踏会が開かれましたが、その前に私はお暇させて頂きました。
ここまでで4度の衣装替えで5着のドレスをクリアしましたわ。
初日を戦い終えたメイド戦士たちが互いの健闘を讃え合っていました。
今日からは午前と午後に一組ずつ、お父様同席の上で会談が行われます。
交渉事はお父様にお任せすれば宜しいので、
私は可愛らしく微笑んでいれば良いわね!
***
と甘く考えておりましたが・・・
「単刀直入に申し上げます。公女様を教会にお預け頂きたく存じます。」
え?私に出家せよと?
「娘を差し出せと申すかっ!」
元陸軍中将だったお父様の射殺すような眼光に当てられて、
大司教様の顔から血の気が引いていきます。
わ、私も身震いするほど見惚れてしまいますわ!
「話をっ!話をお聞き頂きたいっ!公女様の為なのです!」
まるで命乞いをするような勢いで大司教様が言い募ります。
「申してみよ!」
完璧なマウントですわお父様!
「今からお話するのは教会の秘中の秘、
決して口外なされませぬ様お願い致します。」
大司教様は緊張して手が震えておられます。
「承知した。」
むっとしながらも只ならぬ様子にお父様は身構えておられます。
凛々しくて素敵ですわぁ~
大司教様たっての願いにより人払いがなされ、
三人のみでの密談となりました。
「これで良いであろう。では秘中の秘とやらを聞こう。」
陣中で床几に腰を据える将軍のようなお父様が、
大股開きで腕組みしておられます。
あぁお父様・・・もう・・・
もう私・・・
お股が・・・お股が・・・
「この事は教皇猊下と枢機卿団のみが知る封印されし真実の歴史、
四始祖様の契約精霊は人型だったので御座います。」
祈りを捧げる様に両掌を胸に当て話を始める大司教様を遮り、
「落とし子の事ですね?あんなのと私のサーシアを一緒にしないで下さい。」
と突然ルルナが言い放ちました!
いきなりそんな“私の”だなんて~
もうお茶目さんなのだから~
私のルルナは~
「やはり!やはりご存じなのですね!あぁ・・・伝説が・・・」
大司教様が涙ぐんでいらっしゃいます。
お年を召された方に泣かれると虐待している様で心が痛みますわね。
「四始祖様は救世主では無いのかい?詳しく聞かせて貰えないだろうか。」
打って変わって包み込む様な優しい眼差しでお父様がルルナに問いかけます。
その微笑みは私だけのものでしたのに・・・
まぁルルナなら許してあげましょう。
さぁルルナ、お父様がご所望ですのよ!
話して差し上げてね。
「彼らは人型精霊との契約を可能とする為に用意された器でした。」
おやぁ?
もしや転生者ではありませんこと?
「特別な器と言う事なのかい?」
「ある程度の条件は有りますが、特別と言う程ではありませんよ。」
「そ、それはどの様な条件で御座いましょうや!」
あまり興奮なさいますとお体に障りますわ大司教様。
「貴方が知る必要は有りません。」
「も、申し訳御座いませぬ。どうかお許しを・・・精霊王様」
いつの間に精霊王になったの?




