*第114話 現大公閣下の激憤
オバルト歴1543年、後陽2週。
バルドー帝国とムーランティス大陸の覇者、
ニャートン帝国との間に友好条約が締結された。
ニャートン帝国の若き皇帝ゴリレオは、
バルドー帝国をジンムーラ大陸の主権者として認め大陸の統一を号令した。
***
「受け入れる事など出来ぬ。」
ニャートン帝国の布告文を巡っての王宮会議の席上で、
現ターラム大公ルイスールは言い切った。
先方の言い分を要約すると、
<バルドー帝国を代表として連合を結び、ニャートン帝国に恭順せよ>
つまりは、主権を放棄しろと言う事だ。
元老院と教会は、これを宣戦布告と見做しても良いと判断した。
これまでに入手した情報に依るとニャートン帝国では、
人を“万物の霊長”と呼び、
精霊は人に仕える僕であると考えているらしい。
「なんと傲慢な者達であるか!祝福を齎す者に対する感謝を知らぬとは。」
ルイスールは初めて触れる価値観に嫌悪した。
また“テクナロゼ”と言う精霊術を使わない技術の開発に勤しみ、
精霊と契約をしていない奴隷階級の者が、様々な作業を熟しているらしい。
「確か、バルドーでも似たような技があったのぉ。」
「“カガク”とか申しておったわぃ。」
「精霊を蔑ろにするなど信じられん。」
「戦うしかあるまい。」
元老院筆頭ナーバル選帝侯も戦は避けられないと見ている。
彼もまたルイスール同様に代替わりした若い当主だ。
「同盟国と連携せねばならぬな。」
「ジンムーラ大連合じゃ!」
元老院の意見は一致を見た。
「陛下のお考えを御下知頂きとう御座います。」
ナーバル選帝侯が裁定を仰ぐ。
「良きに計らうべし。」
元より王に否やは無い、国家存亡の危機である。
直ちに、ハイラム王国、コイント連合国。
そしてデカシーランド共和国に使者を送る事が決定した。
歴史上で初めての世界大戦が勃発しようとしている。
「聖女殿に御参戦頂く訳には参らぬか?」
ナーバル選帝侯が教会側に打診する。
付き添いの枢機卿が教皇に耳打ちする。
「聖女様にぃ~!御参戦頂きたいそうです~!」
「んんんふぇいぞさふぁふぁ~
んんんはにほほひほ~
ひふぁはふぁふ~んんん」
「何んと?」
「聖女様は何者にも従わぬ。と。」
「そこを押してお願い致したい!」
「なんとかぁ~!お願いします~!」
「んんんんんんんんんん
ほほへほいへほ~
んんんんんんんん
はふぇふぇひ~
んんん
あふぁふぇふ~
んんんんんんんんんん」
「何んと?」
「放って置いても勝手に暴れる。と。」
(良くあれで判るものだなぁ~)と
その場の全員が感心した。




