*第100話 ギュラ~ンドゥキュワッニュヨォ~ン
大地の裂け目の底を流れる河沿いに、交易の為の街道が寄り添って走る。
そこそこに大きい河であるが、まさかこの河が巨大な台地を削り、
千尋の渓谷を作り上げたとは誰も思わない。
焼けた大地に強酸性の雨が降り注ぎ、
轟く雷鳴と昼夜の区別なく明滅する放電現象の嵐。
そんなこの星の歴史を見上げて
「『グランドキャニオン』ってこんな感じだよなぁ
行ったこと無いけどぉ~」
干し芋を齧りながら友人と話しているのはフェリナンス。
寺島真司だった男である。
『モスクピルナスで待ってるっ!よろしくぅ!』
元気いっぱいの声に何度も励まされて来た。
見積もりを間違って大損した時も、あの声に支えられて立ち直れた。
「ギュラ・・・なんだって?」
この世界の人達は日本語の発音が苦手だ。
「『グランドキャニオン』だよ。」
ベタベタの日本語、後の精霊言語である。
「ギュ、ギュラ~ンドゥ、キュワッニュ、
くそっ!時々へんな事を言う奴だな。」
同郷出身の連れの男との旅も、次の街で終わりとなる。
駆け出しの頃からの付き合いである。
「本当に行っちまうんだな。」
男は淋しそうに言う。
「前からそう言ってただろう?」
ずっと前からだ。
「唯のホラ話だと思ってたよ。」
モスクピルナスが呼んでるなんて誰が信じる?
「信じて呉れなくてもいいさ。」
そう、関係ない。
「いいや、信じるよ。良く分かんねーけど、本当だって気がして来たんだ。」
「そうか、嬉しいよ。」
北へ、北へ、夜空の星の導く方へ。
渓谷と源流を遡り、大陸の原点へ。
『モスクピルナスで待ってるっ!よろしくぅ!』




