第一話 敗走
第一話 敗走
灼熱の大地を駆ける、地鳴りも噴き出す炎も意に介さず、ただ速く早くはやく…
後ろには何人残ってる?、みんなは?、これからどうなる?…勇者のパーティーは?全滅したのか?…いや、今はここを抜ける事だけを考えろ、ただひたすらに走りながらそう思う。
背負っている血塗れの鞘に収まった剣が淡く光っていることを彼は知らない。
どれだけの時間走り続けたのだろうか、流石に疲れた…足が痛い、動悸がうるさい、状況を整理しよう。皆は無事だろうか…
灰色の岩肌と濃い霧の立ち込める峡谷で、ようやく足を止めた。自分の鼓動以外に音はない周囲の気配を探るが敵も味方もいないようだ。完全に孤立した、ここは…今どこにいる?
少し歩いて見つけた岩陰に腰を下ろし、手持ちを確認する。
諸々の薬 ボトルに少しの水 財布にはしばらく生活できる位の金はあるか、食糧が無いのが痛いな。
後はダガーが二振りと……血塗れの聖剣か、
「クソっ…こんなはずじゃなかった…なんでだ」
聖剣に視線を向け、そう洩らした。
あの瞬間、勇者リック・オーウェンが託した聖剣。魔王に貫かれながらオレに託した聖剣…これがあれば勝てるんじゃなかったのか?なぜ負けたんだ、あなたはなぜオレに託した?色々な疑問と不安が押し寄せて考えがまとまらない。
「!!」誰か来る…気配が二つ、こちらに近づく…敵か?
気配を消して様子を伺う。
霧の向こうからやって来たのは、知った顔だアレン、ヨナ無事だったか、良かった!安心して声をかける。
「アレン、ヨナこっちだ!」
「うぉっ!ショウ、お前なのか!無事でよかった…本当に」アレンが驚きながら言う。
「ショウ、どうなっちゃたんだ、何があったっていうんだよ?」涙を浮かべながらヨナが言う。
オレは、勇者のパーティーが全滅したかもしれないこと、勇者の死、聖剣を託されたことを伝えた。
「そんな、勝てるハズの戦いだっただろ?、リックさんが死んだって言うのか?あの人が…あり得ない」
「待ってよ…じゃあ魔王は殺せないってこと?聖剣があっても勇者のポジションは世界でリックさんだけだろ?」
戸惑う二人は青ざめる…仕方ないオレだって受け入れられない。
この世界の人々にはポジションがある。それは誰もが持つ潜在能力で、産まれてから誰もがいつか目覚める。聖騎士、黒魔道士、僧侶、料理人から建築士まで様々なポジションがあり、それらを組み合わせてパーティーが成る。
そして最強で唯一無二のポジションが勇者だ。千年に一人、一つの世界に一人なんて色々言われてるが要はリック・オーウェン一人だけのポジションだ。
勇者のポジションに立つ者だけが聖剣を使い、聖剣だけが魔王の命に届くとされている…そしてその勇者が死んだ。
「そうだ、世界に一人だけの希望が死んだ。これで人類の負けだ…どうしようもない。俺達は敗けたんだ」
聖剣をギュっと握りしめ、二人にそして自分にそう言い聞かせた。聖剣はもう光ってはいない。
初めての投稿と作品です。
感想など頂けると嬉しいですがお手柔らかに笑