冬の童話祭2021 さがしもの
何かをなくした、そんな気がした。
広樹は夜にベッドから出た。
窓を開けて、月を見た。
月は昇っており、町を照らしていた。
「これだろうか、探し物は。」
広樹は月に手を伸ばす。
しかし、月に手は届かない。
今日は広樹の二十歳の誕生日である。
祝うべきこの日、大人への仲間入りを果たす日。
そのはずなのに、広樹は悲しかった。
なぜなのだろうか、そう悩んでいた。
冬の風が広樹の部屋に入り込む。
広樹は窓を閉め、もう一度眠りについた。
翌朝、窓を開けると曇り空が広がっていた。
広樹はこの鉛のような空を見て、悲しんだ。
気晴らしに散歩でも行こうと、町に出た。
広樹の悲しみは消えない。
何かを失ったという気持ちがずっと心を支配していた。
俯きながら、歩いた。
広樹は公園で遊ぶ子供たちを見た。
彼らは幸せそうだ。
その中の一人の言葉に、広樹はハッとした。
「早く大人になりたい、か。」
広樹は失ったものの正体がようやくわかった気がした。
少し笑みを浮かべながら、家に戻った。
家に着くころには、空は快晴となっていた。
広樹は空を見上げ、確信する。
失ったものはまた新たな思いへと変わっていくのだ、と。