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婚約破棄された後で、光の魔力を持つ聖女だと教えました。

恋愛要素ないです、ごめんなさい......

「アイリス・ハイルニグ、俺は貴様との婚約を破棄し、アンナ・ベイリー嬢と婚約する!」


 たくさん人がいる会場のど真ん中で、この国の第一王子であり、王位継承順位第一位のルーク・ヴェルソーが叫んだ。

 どよめく会場とは対照的にアイリスは呆れたように大きくため息をついた。


「貴様、何のため息だ、王族に対して不敬だぞ!」


 顔を真っ赤にして怒るルークに臆することもなく、アイリスはまたため息をついた。


「......陛下、殿下はこうおっしゃっていますが、どういたしましょうか」


 喚くルークを無視して、アイリスは国王の方を向いて尋ねた。


「すまないな、アイリス嬢。とても残念だが」


 国王も大きく息をついてアイリスを見て、少し頭を下げた。

 国王がただの侯爵令嬢に頭を下げるという異例な光景に黙っていられずに声を荒げたのはルークだ。


「父上! アイリスはアンナ嬢をいじめていました、そんな女になぜ詫びるのですか!?」


「黙れ、ルーク。お前には失望したぞ」


 国王の低い声に会場のどよめきも、ルークも息を飲んで黙り込んだ。


「それに、アンナ嬢も彼女が本気で君をいじめたというのかね」


 アンナはひっと声を上げると、ルークの背に身を隠した。


「アイリス嬢、本当に申し訳ないが、予定どおり取り行うが良いだろうか」


 国王がそう尋ねると、アイリスは頷いた。


「今日は私とルーク王子の結婚パーティーでしたが...... まあ、あんなのは放っておいて、さっさと始めましょうか」


 そう軽蔑の目をルークに向けてからアイリスは会場の人々に笑いかけ、目を閉じた。

 アイリスが手を合わせて祈ると、彼女の周りを温かい光が覆った。


「聖女様だ......」

「伝説ではなかったのか......」


 光の輪が大きくなるにつれ、状況を理解した人々が彼女を崇拝するように跪き始めた。

 ルークとアンナはガクガクと震えだし、国王はほっと安堵した様子だ。


 やがて、国全体を光が覆うと、ぱあっと光り輝いた。

 アイリスはふう、と息をつくと目をゆっくり開く。


「私は光の魔力を持っております。この国の安全と安寧を祈りましたので、向こう千年は戦争も大きな災害も起こりませんわ」


 アイリスはニコッと笑って、跪く人々に優しく声をかけた。


「あ、あ、アイリス、す、すまなかった......!」


「申し訳ありません! 嘘をついてしまいました、お許しください!」


 しどろもどろになってアイリスに必死に謝るルークとアンナを人々は白い目で見る。

 しかしアイリスはニッコリまさしく聖女のような笑みを浮かべた。


「許しましょう」


 ほっと息をつく2人にアイリスはその笑顔のまま歩み寄る。


「私はもともとルーク様との婚約などどうでもよかったのですよ。だから、アンナ様との婚約が決まって本当に嬉しいですわ。しかしながら、あなた方を加護するのは少し考えてしまうところですわ」


 そうアイリスが言うと、2人は青ざめた。

 それを見ていた国王が立ち上がった。


「ありがとう、アイリス嬢。それにしても、アンナ嬢。先程、アイリス嬢のいじめは嘘だったと証言したように聞こえたが...... 私の聞き間違いかな」


 国王とアイリスを交互に見て、アンナは怯え切った顔で口をぱくぱく動かした。


「王族に嘘をついただけでも重罪だが、我が国の聖女様を悪人にしたてあげようとした罪は何倍も重い......君はとりあえず、ここから出て行きなさい」


 国王が家来に指示をすると、震えたアンナは家来に連れて行かれた。


「そして、ルークよ。私は失望した。あのような戯言をあっさり信じ込み、長年の婚約者を裏切るとは......次期国王として恥ずべき行為だ。本日の結婚を私はとても楽しみにしていた。もちろん、お前が次期国王になるのもな。しかし、私の判断は間違っていたのかもしれない」


 国王はルークにそう告げる。ルークは慌てたように国王に平謝りし、しまいにはアイリスの手を取った。


「アイリス、すまなかった。もう一度やり直してくれないだろうか......」


 アイリスはうげ、と手を払い除けると、「絶対にそれはあり得ませんわ」と言い切った。


 国王は本当に残念そうに、ルークに退出を促す。


 そして、ルークとアンナがいなくなった会場は聖女を崇める声が響き渡る。


「アイリス嬢...... 本当に申し訳ないが、2人ともこの国の者だ、加護してやってくれないか」


 国王にそう言われて「分かりました」と言いつつ、アイリスは内心すごくイライラしていた。


 侯爵令嬢のアイリスが、初めて光の魔力を発動したとき、ハイルニグ家は歓喜した。

 光の魔力を持つ者は、この国では千年に一度しか現れない、聖女として扱われているのだ。

 そんなアイリスは、すぐに国王の元へ連れて行かれ、ルークの婚約者という地位を与えられた。

 しかし、ルークは王子とは思えないほど馬鹿でわがままな人で、アイリスは早々に呆れ返っていた。

 だからアンナと親しげな様子を見て、内心大喜びだったのである。

 光の魔力を使うのも今日の式までは禁じられていたため、馬鹿王子と利益重視の国王、とアイリスは常に拘束されていたのだった。


 そんなのも今日で終わり。

 聖女だからといっても、嫌な人たちを加護するほど、心は広くない。

 嬉しそうな国王をしれっと見て、この人の加護も解除したいと思いつつ、仕方ないか、と割り切ってアイリスは晴れた顔で、会場を後にした。



「アイリス様!」


 突然かけられた声が誰だかすぐに気がついて振り返る。

 そこには会場を追い出されたはずのアンナが立っていた。


「先程は本当に失礼なことをしました。本当に申し訳ございません!」


 頭を深々と下げるアンナを見てそんなに加護してもらいたいのね、嫌な女だわ、と無視しようとしたが、アンナは予想外のことを言ってきた。


「私はどうしてくださっても構いません、ですが、妹のマリーだけは、助けてください.......!」


 ドレスもお構いなしに床に手をつきすがるアンナと彼女の妹のことが気にかかり、アイリスはアンナの話を聞くことにした。


 聞けば、アンナの妹、マリーは重い病にかかり、危険な状態にあるという。

 お金があまりないベイリー子爵家の長女のアンナは少しでもマリーの薬と良い治療のために、とルークに近づいたらしい。

 ちなみに、ルークが馬鹿なことには気がついていたらしく、大嫌いだったそうだ。


 そう話を聞きながら彼女の家に着き、マリーがいる部屋へと入った。


「......ひどいわね」


 苦しそうに眠るマリーを見てアイリスは呟いた。

 マリーに駆け寄るアンナを見て、アンナにひどい勘違いをしていたことを申し訳なく思った。


「アンナ、私、マリーの病気を治せるかもしれないわ」


「ほ、本当ですか......!?」


 アイリスは「やったことはないけれど......」と付け加えたが、アンナは「お願いします」とまた深く頭を下げる。


 正直、幼い頃に傷ついた鳥の傷を治して、それ以来だからできるかわからないけど......

 アイリスはマリーの病気が治るように、と願って目を瞑った。


 しばらく祈っても何かが起こるような気配はなくて、ダメかもしれない、とアイリスはアンナの方を見た。

 アンナはそんなアイリスの様子には気づかずに、マリーの手を強く握っている。


 今まで、拘束されて、せっかくの光の魔力も国のためにしか使ってはいけないと、そう言われてきた。

 初めて、こんなに光の魔力を誰かのために使いたいと思えている。


「アンナ、後であの馬鹿王子、殴りに行くわよ」


 そう言うとアンナは一瞬驚いたようにこちらを見ると、大きく頷いた。


 この健気なアンナと、彼女の妹を救ってあげたい。

 そして私たちを苦しめた馬鹿王子を殴りに行って、私は自由を手に入れるわ。


 そう強く願って、目を瞑る。

 すると、マリーの周りを光が覆い始めた。

 目を瞑っていても差し込んでくる強い光に、アイリスはもう一度祈ると、目を開けた。


 そこには、アンナに抱きしめられているマリーの姿があった。


「マリー、体調はどう?」


 アイリスがそう尋ねると、マリーはアンナをチラリと見てから、コクコクと頷いた。


「本当にありがとうございます!」


 アンナは何度も何度も頭を下げた。


「顔を上げて。私こそ、ごめんなさいね」


 半泣きのアンナにアイリスがそう言うと、アンナは嬉しそうに笑った。



 それから2人の行動はとても早かった。

 城の会場に戻って、アイリスが国王に文句(というよりかは加護を解除するという脅し)を言うと、国王は平謝りしながらルークを差し出した。

 そしてアイリスとアンナは息を揃えて、馬鹿王子を会場のど真ん中で殴った。


 アンナはマリーと楽しく暮らすことを決めた。

 アイリスはまたアンナとマリーと会う約束をしてから、病気や怪我で困る人々を助けようと国を後にした。


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