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ジョスト  作者: storia
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秋のピサ

まだまだ未完成です。順次更新していきます。今はテスト版で誤字脱字が激しいです。

―1960年イタリア共和国ピサ、ピサ大学運動広場―


第一話

2頭の馬の鳴き声がブルルと広場に響き渡る。広場は横6メートル、縦25メートルの楕円型で、薄く伸ばしたコロッセオのようになっており、広場中央を縦に木の柵が左コースと右コースを仕切っている。

 その広場に馬に乗った人物が、一方は右コース、もう一方は左コースの端に構え向き合っている。人間はもちろん馬まで甲冑に身を包み、2メートルはある馬上槍ランスを片手に持ち、構えている。2人とも鳥のようにくちばしが出たアーメットヘルムをかぶってはいるが、その奥底からは底知れない緊張がにじみ出ている。

 しばらく向き合い、にらみを利かせていた2人だったががゆっくりと馬を歩かせ始めた。速度は次第に早くなっていき、2人は直角に持っていたランスを横向きにすっとおろす。馬の速度はどんどん早くなり、二人が広場中央ですれ違う瞬間、ランスが音を立ててかみ合わされた。

 2本のランスはぶつかり激しい音を立てたが、一方のランスがもう一方にはじかれ、その矛先ははじかれたランスの持ち主の甲冑の胸当てにあたった。

 ドンという音とともにランスをあてられた人物は持っていたランスを手放し馬に振り落とされた。ランスを突いた人物は振り返らずランスの向きを直角に戻し馬の速度を落としながら端へ走り去っていった。そのあとは静寂である。

 しばらく続いていた静寂を破ったのは落馬した人物である。ヘルムを取り怒り口調で言った。

 「も~、また負けちゃったよー。しかもチルト!少しは手加減してよ!あたし女の子なんだよ!」

 この人物こそこの物語の主人公である。名はアンナ・シルヴィ。18歳である。

 庶民階級出身だが均整の取れた顔つきで、栗色の髪のさわやかな、女である。

 立ち上がろうとしたアンナだが思うように立ち上がれない。甲冑が重いのだ。アンナのつけている板金鎧は30キログラムある。女には立ち上がるのさえ難しかっただろう。

 「それにこの甲冑胸が出てないんだもの!押し付けられるような作りでいきぐるしい!」

 そう不満を言い続けながら地面でもがいているアンナに手が差し伸べられた。そこには先ほどアンナを落馬チルトさせた人物がいた。アンナを立ち上がらせるとその人物もヘルムをとった。

 黒髪の男で、年は20歳である。目は灰色で身長はアンナよりも頭一個分くらいは大きい、175センチほどだろう

 男の名はアルフォンソ・リドルフィ。イタリアの大貴族リドルフィ家の出である。

 「全く、わがままな奴だな。そもそも庶民はまだしも女がジョストの模擬試合なんて、前例を聞いたことがない。」

 そういうとアルフォンソは馬から降りて転がったランスを取り、アンナの乗っていた馬の手綱を引いてきて、アンナに託した。

 「今日はここまでだ。俺はやらなくてはいけないことがある。お前はもう帰れ。甲冑と馬はセヴァスティアーノに返してくれよ。」

 そういうと再びアルフォンソは馬にまたがり甲冑姿のまま去っていった。アンナはアルフォンソを呼び止めようとしたが、アルフォンソは行ってしまった。

 アンナもその場を離れた。


 ここはイタリア共和国中部ピサ。かつては海運業で栄えた町だが、今はアルノ川の運んでくる土砂で港はずっと向こうにある。大司教座の置かれる町で、イタリアの貴族メディチ家が建てたピサ大学は欧州でも屈指の大学で、特に哲学や物理学を学びに多くの地域から生徒が集まってくる。

 今は秋。トスカーナの美しい自然もさらに磨きがかけられる。この時期ピサ大学ではトーナメントが開かれることになっている。参加する生徒は思い思いの武装で様々な種目に挑むのだ。

 アンナも幼いころからこのトーナメントを見てきた。苛烈を極め、砂塵で曇った会場で汗を流しながら戦う学生に昔からアンナはあこがれてきた。女は出てはいけないという規則はトーナメントにはなかった。イングランド王国で創設されたロンドン婦人会が運動を行っていたからだ。女性記者や女性商人も少数だが生まれてきていた。だがアンナのこの考えは家族や友達にはまったく理解してもらえなかった。アルフォンソを除いては。

 アンナの家は代々アルフォンソの家の弁護士を務めてきた。その厚意でアンナは普通は一般庶民が通えない学校にアルフォンソとともに通っていた時期もある。アルフォンソとは幼馴染のようなものだった。

 しかし2人が成長すればするほど、アンナからアルフォンソは離れていっていた

。アルフォンソにはその意識はないようだが、アンナにはそう感じられた。昔は一緒にいても何も言われなかったが今は何かにつけて祖父フランチェスコや父アントニオに注意をされる。

 特に祖父フランチェスコは厳しく、アンナが外に出ることも嫌がるようになった。

 

アルノ川沿いの家に帰ったアンナを待っていたのは祖父フランチェスコの渋顔である。アンナは今日、フランチェスコとともにピサの港に行く用事があったのだ。父アントニオは仕事でピサーノ通りの弁護士事務所にいるので家にはいない。

 アンナはフランチェスコにばれないよう静かにドアを開け、二階に行こうとしたが、フランチェスコの鋭い声がアンナを制止させた。

 「アンナ、どこへ行っとった?」

 アンナはビクッと動きを止め、無理くりの笑顔で何とかごまかそうとした。

 「あー、おじいちゃん、ちょっと用事が出来ちゃって・・・・・」

フランチェスコは黙ったままだ。

 「えーっと、そのー・・・・・・」

 「大学に行っていたのじゃろう?」

 「・・・・・」

 「大学の広場でトーナメントの練習か。」

 「・・・・・・・」

 「しかも練習相手はアルフォンソ坊ちゃん。はぁ・・・・何度も言っておるじゃろう、女がトーナメントに出ることはできないと。」

 アンナはそれを聞いて、今日の新聞の‘‘ロンドン婦人会、大規模デモ‘‘と書かれた用紙を掲げながら反論した。ばれたとなれば言うしかない。アンナは盛大に開き直った。

 「なんで女だからダメなの?神様は人間を平等に作られたはずよ。その証拠にこの新聞に書かれてある女の人たちだって正々堂々と意見を言ってるじゃない!。」

フランチェスコそれを聞いて怒鳴り声をあげた。

 「馬鹿者が!考えてみたことはあるか、お前がトーナメントに出て市民の嘲笑の的になったとき、困るのはお前だけではないのだ!わしやお前の母さんや父さん、そしてアルフォンソ坊ちゃんまでもが笑いものになるのだぞ。そんなことも考えていないようなお前に、女がどうだという資格はない!」

 アンナは何も言えなかった。黙っているアンナにフランチェスコは声をやわらげ、言った。

 「もう坊ちゃんとはかかわるな、アンナ。坊ちゃんは貴族、わしらは庶民じゃ。いくら幼馴染とはいえ、身分の壁はどうやっても取り払えない。」

 そういうとフランチェスコはゆっくりと立ち上がり、もうすぐ夕食じゃ、母さんの手伝いをしなさい、といって二階に行ってしまった。 



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