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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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ドラゴン召喚

 学科試験は割とよく出来たと思う。

 試験の後、僕は校舎の外に出て、一人で弁当を食べた。軍用の携帯食料だ。

 他の受験生は、普通の弁当を教室で食べた人が多かったようだ。


 僕は三分ほどで食べ終え、学校の裏門側に向かった。

 実技試験の前に軽く素振りするつもりだ。


 そこには先客がいた。僕と同じ受験生らしき少女が木剣を振っている。

 王都リエンで主流の流派の型を演じていて、なかなかの腕前に見える。


 思わず見とれていると、少女が僕の視線に気付き、

「なにか?」と、一言。


「ちょっと、そこの君、俺の下僕になりなさい!」


 動揺して、馬鹿なことを言ってしまった。


 異世界転生ものの小説では、「高飛車な美少女から主人公が勝負を挑まれ、主人公が勝負に勝つ」のが典型的なパターンの一つとなっている。

 その勝負の結果、大抵、主人公は美少女を下僕や配下にすることになる。


 僕の側から勝負を挑んだということは、僕が下僕になることも考えられる。でも、必ずしも僕が負けるとは限らない。

 そんなことを考えながら、少女の反応を待つ。


「あんた、ばかぁ?」


 そう来たか。こんなとき、ヱヴァンゲリヲンのシンジくんは何と言っていたっけ?

 思い出せないので、少女の頭をなでてあげた。セクハラだな。


 一瞬、少女が憤怒の表情になり、次に笑い出した。


「この私、ジャンヌ・パフュームを怒らせるとは、さすがね。いいわ、勝負しましょう!」


 少女は木剣を上段に構えた。


 ジャンヌは、カルナーの有力貴族であるパフューム公爵の血縁かもしれない。

 この勝負、負けるわけにはいかないが、勝ってしまうのもまずそうだ。

 僕の自業自得とはいえ、困った。


 中国の武侠小説では、こんなときの対処として、自分の強さを印象付けた後で双方の剣を破壊し、引き分けに持ち込むというようなことがよく行われる。よし、これで行こう!


 僕は木剣を下段に構えた。スウから教えてもらったジャルト流の構えだ。


「ふっ、ジャルト流か。相手にとって不足なし」


 一瞬の静寂。その後、少女の猛攻は始まった。

 僕の思っていた以上の強敵で、彼女の攻めを受けきれそうにない。

 本気で戦えば勝てるけど、大怪我させてしまいそうだ。


 ジャンピング土下座(飛び込み前転からの土下座)して下僕になろうかな。

 でも、何もせずに負けるのは嫌だ。


 少年漫画によくある手だけど、ここで共通の敵を出して一緒に戦う展開に持ち込もう。


 僕は脳内で幻獣召喚の呪文を詠唱した。


「まて、あれを見ろ!」


 体高が五メートルほどのドラゴンを見て、少女は仰天する。恐怖でふるえているように見える。


「勝負は引き分けだ。君は先生を呼んできてくれ」


「あなたはどうするの?」


「俺は戦う」


「一緒に戦うわ」


「それでは二人とも無駄死にだ。それよりも先生を呼んできてくれ。早く!」


「わかった。無理しないでね」


 少女は校舎の方に駆けていく。


 さて、どうしようか。ドラゴンを召喚したものの、元の場所に帰す魔法はまだ習得していない。

 こちらの勝手な都合で呼び出したのだから、退治するのは可哀そうだ。


 まあ、戦うしかないなら仕方がないが、とりあえず、ドラゴンを手なずけてみることに決め、僕はジャンピング土下座した。


「プライドというものはないのか?」


 僕の心の中にドラゴンの思念が流れ込んでくる。あきれている感情も伝わってくる。


「俺の勝手な都合で呼び出して、元の場所に帰してあげることも出来ないから、謝るしかないよ」


「謝罪は受け入れよう。だが、ただで済むとは思うなよ」

 ドラゴンは声を出して言った。

 次の瞬間、ドラゴンの姿は消え、僕と同年代の姿の少女が出現した。


「おまえ、ドラゴンか?」


「ああ、あの姿では目立つから人化した」


 初対面でも、相手がドラゴンだと思うと緊張しない。


「一か月間、三食、ケーキを各一個。これで許してくれるか?」


「駄目。二個ずつ」


「了解した」


「よろしく、ご主人様」


「で、なんて呼べばいい?」


「ご主人様が名付けるんだよ」


「ドラゴンでいいか?」


「最低!」


「ドラミ」


「猫型ロボットじゃないもん」


「クッコロ」


「ご主人様のエッチ!」


 結局、ドラゴンの名前はアスカに決まった。



 ジャンヌ・パフュームが先生達を連れて戻ってきた。


「パフュームさん、片付いたよ」


「まさか、やっつけたの?」


「いや、手なずけた」

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