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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第三章:アルダラン編
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目指すべき方向

 ジャンヌとジェシカを土曜日にダンジョンに連れていくことになった。


 僕は父方の祖父ゲイル公爵に依頼して、ジャンヌとジェシカを超特急でアルダランに入国させてもらうことにした。


 僕は軍学校の寮からアルダランの王都にあるゲイル公爵の屋敷に瞬間移動し、必要な書類を用意してもらった。


 サラの家に寄り、翌日の参加者が二名増えることを伝えておく。

 サラは快く了解してくれた。



 僕が軍学校の寮に戻ったのは、夜の九時過ぎだった。


「ただいま」


「おかえり」


「兄貴、お疲れ様です」


 その後、さらに疲れたのは言うまでもない。



 翌朝、僕とアスカは大学の寮に戻った。

 ジャンヌとジェシカは、カルナーの王都にあるアルダラン大使館から転移魔方陣を利用して、アルダランの入国管理局に移動。僕とアスカは、入国者用の出口付近でジャンヌたちを出迎えた。


 そのまま冒険者ギルドに向かい、サラたちと合流した。

 丁寧過ぎるのは場違いなので、さらっと紹介を済ませる。


「サラ、俺の正妻のジャンヌだ。隣は側室のジェシカ」


「こちらはキラールのサラ殿下だ」


 ジャンヌとジェシカは礼儀正しく挨拶し、サラも王女として上品に挨拶した。


「ジャンヌ、ジェシカ、私のことはサラと呼んでね」


「はい」と、ジャンヌとジェシカ。



 その後、ギルドの受付で、ジャンヌとジェシカをパーティー『西風の拳』に加入させた。

 カルナーの軍学校では一年生の三学期からダンジョン実習があるため、ジャンヌとジェシカは既に冒険者ギルドに登録済だ。ただ、二人はカルナーで登録したため、アルダランでの活動には様々な制限がある。例えば、ダンジョンに入る際にはアルダランを本拠とする冒険者と同行しなければならない、というようなことだ。


 僕もカルナーの軍学校に籍があるのだけれど、アルダランで冒険者登録したため、ジャンヌたちのような制限はない。


 登録変更の手続きの間に、この日のダンジョンでの指揮者を決めた。

 『西風の拳』の五人の中で、指揮経験が最も豊富なのはジャンヌだ。

 ジャンヌは軍学校で、ジェシカ、ユイ、ケイン、ジョルジュの四人とパーティーを組んでいて、五人組の隊長を務めている。


 五人で話し合い、今回はジャンヌに指示を出してもらうことになった。



 パーティーの登録変更は無事に終わり、残りは案件の受注。

 新顔のサラがいるので、初心者向けの案件をこなしながら連携を深めていきたいところだ。


 皆で手分けして依頼書を調べた後、薬草採集の依頼を引き受けることになった。

 目的の薬草は、王都近郊にあるゼド遺跡ダンジョンの地下二階に自生している。



 馬車でダンジョンまで移動し、すぐにダンジョンに入った。


 隊列は、前日に打ち合わせた通り、前衛がアスカ、二列目左にサラ、僕は二列目右だ。

 ジャンヌとジェシカは三列目で、ジェシカが左側。

 『西風の拳』の五メートル後方に『サラの護衛たち』。



 地下一階で出現するのはスライムのみ、罠を警戒する必要はなく、階層ボスも出現しない。

 地下一階は素通りし、地下二階に進む。


 目的の薬草は地下二階の入り口付近で採集できた。

 このまま帰ってもよいのだけれど、皆、物足りなそうな顔をしている。


「もう少し、先に行こうか?」僕が言うと、皆、賛成した。


 ゼド遺跡ダンジョンでは、階層のボスが倒された後、ボスが自然発生する。

 地下二階のボスはゴブリンロード。


 ゴブリンロード程度ならば僕一人でも瞬殺できるけれど、今回の目的は連携強化だ。

 なるべくなら、威力の高い魔法は使わず、皆で協力して倒したい。


「サラ、威力の高い魔法は控えめにしてくれ。出来るだけ、連携して戦いたい」


「分かったわ」


 その後、僕たちはジャンヌの指揮の下、階層ボスの出現場所まで移動した。



 僕らの目の前に数体のゴブリンが現れた。後ろにはゴブリンロードもいる。


「アレクは前に移動。サラは火魔法でボスを狙って!」


 ジャンヌの指示で僕は前衛に上がり、アスカと二人でゴブリンを倒していく。

 僕が前衛に上がると、ジャンヌとジェシカがサラの両脇に移動するよう、取り決めてある。


 サラは初級の火魔法を連射し、ゴブリンロードを攻撃。牽制が狙いだ。


 ゴブリンロードはサラを睨み、サラの方に前進。

 アスカがゴブリンロードを殴りつけると、ゴブリンロードの意識が飛んだ。



 地下三階には進まず、ダンジョンを出て、ギルドで報告と薬草の納品を行った。

 この日に倒したゴブリンロード等の魔石もギルドに買い取ってもらった。


 皆で一緒に外で夕飯を食べ、明日もダンジョンに行くことを約束して、サラ達と別れた。

 ジャンヌとジェシカは、大学の寮に泊まる。ベッドは二つしかないが、二人で共用しても問題ないサイズだ。



 寮の自室に戻り、僕はふと、目指すべき方向について考えた。


 サラの場合、キラール国民から強さを認められることによって、キラール国内での求心力を高めたいと考えている。


 僕の場合、目標はスウの復讐だ。誰かから強いと認められたいわけではない。

 スウの命を奪った黒幕は、おそらくは、アルダランの王位継承権を持つ者か、その関係者。


 例えば、僕がアルダランの王になれば、結果的にスウの復讐になるかもしれない。

 僕自身、アルダランの王になりたいわけではないけれど、選択肢の一つではある。


 黒幕の正体を突き止めることが出来ない場合、アルダランという国そのものを滅ぼすという手もある。

 ただ、スウが母国の滅亡を望むはずはなく、滅ぼしてしまえば、僕は自己嫌悪に陥ることになるだろう。

 僕は今のところ、黒幕の正体を調べるつもりだ。

 そのために、アルダランの王族に接近したいものだ。

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