中村さんと会話
僕らが寮に戻ると、寮の入り口付近に中村さんがいた。僕を待っていたものらしい。
中村さんは僕に気付き、声をかけてきた。
「アレク様、お久しぶりでございます」
いやに丁寧なセリフだ。
魔素の動きをみて、中村さんが外見を偽装していることに気付いた。僕以外には父の使用人に見えているはずだ。
ジャンヌ達には先に部屋に戻ってもらった。
僕と中村さんの周囲に防音の結界をはる。
「中村さん、驚きましたよ。ここに来るなんて!」
「正月に会ったときには部外者だと思ってたんで話さなかったんだけど、僕も『風の一族』に縁がある者なんだよ。こちらの世界に来るのは初めてだけど」
「一人で来たんですか?」
「いや。今朝、妹に連れてきてもらった」
「妹? もしかして…」
「妹がいつもお世話になってます。アスカの兄です」
中村さんは笑った。
兄妹かあ。似てないので分からなかった。
それにしても、元日に風間流の道場に行ったとき、アスカは中村さんに会っているんだけど、兄妹だなんて何も言わなかった。恥ずかしかったのかな。
「中村さん、竜だったんですね。うまく力を隠してたから、竜だとは思ってもみなかったです」
「君と立ち会ったときは、つい本気になりそうで苦労したよ」
「ところで、中村さん、就職活動で忙しいんじゃないですか?」
「実は、風間流の本部で働くことになったんだ。今後、僕が師匠とアレク君の間の連絡役になる。よろしく」
今回は挨拶だけということで、僕の祖父であるゲイル公爵から重要な連絡事項はなかった。
ただ、祖父は僕の変化の術の修行状況を知りたいとのことだった。
僕は中村さんに状況を伝えた。
「幻影を実体化できたんだ! この短期間で凄いなあ」
その後、しばらく雑談しているうちに、個人戦闘訓練用ソフトのことを思い出し、中村さんに話してみたところ、中村さんは興味を示した。
そこで、中村さんを連れて練習場に行き、さっそく、ソフトを起動させる。
中村さんが挨拶の礼をしている途中で、相手は蹴ってくる。回し蹴りだ。
中村さんは蹴りの勢いを受け流し、左正拳で突きを入れる。
「僕がモデルなんだろ? 僕より性格悪いぞ」
仮想中村さんの方が厳しい性格だけど、実力は本物の方が上で、中村さんは力をセーブしたままで勝った。
今回の対戦データを参考に、もう少し改良してみることにする。
「アレク君、面白かったよ。じゃあ、僕は君のお父さんのところに寄ってから帰るよ」
「それなら、アスカを呼びましょう」
思念を送ってアスカを呼び、中村さんを父の家まで送ってもらった。
日本への移動は一人で大丈夫とのことだ。




