個人戦闘訓練用ソフト、ナカムラ
武術大会に向けての特訓を始める前に、僕は持参した機器について皆に説明した。
僕が持参したのは、携帯ゲーム機の試作機。
試作機には、僕が自作した個人戦闘訓練用ソフトも入れてある。
まだ問題点は残っているが、仮想現実対応で実戦的な訓練内容の優れものだ。
さっそく、ソフトを起動させる。
プレイヤーの周囲が戦場に変わり、最初の対戦相手が出現する。
「中村さんじゃん」ケインが言った。
「正解。モデルは中村さんだ」
中村さんは、前世の世界での僕の祖父の弟子で、身長は二メートル近くあり、地球の人間としてはかなり強い。
年末年始にジャンヌ派の主力メンバーが日本に行ったとき、ケインは中村さんに武術の稽古をつけてもらっていた。
「じゃあ、久しぶりに中村さん相手に戦ってみるとしよう」
ケインは素手で相手に立ち向かう。
「ケガすることはないけど、痛みは感じるからな」
「了解」
ケインは礼をするため、頭を下げた。が、その瞬間、相手の蹴りをくらった。
相手に実体があればノックアウトされているところだ。
「ケイン、油断するな」
「アレク、これ、本物より強いんじゃないのか?」
中村さんは紳士だからな。挨拶をしてる相手を蹴ったりしない。
でも、ソフトを作ったのは僕だ。当然、隙があれば攻める!
五分ちょうどで対戦終了。ケインは仮想中村さんを倒すことはできなかった。
ちなみに、仮想中村さんを倒せば、次に前世の僕をモデルにした相手が登場することになっている。
戦闘の後、戦闘の様子を再生することができ、プレイヤーの悪かったところを指摘する機能も実装してある。
試してみた結果、再生は問題なくできたけれど、指摘の内容は的外れなものだった。まだまだ検証が足りない。
結局、その場にいた者のうち、僕とアスカ以外は仮想中村さんを倒せなかった。
設定が少し厳しすぎたかもしれない。
「ところで、そのゲーム、なんて名前?」と、ジャンヌ。
「ナカムラ」
「そのまんまね」
訓練の後、寮に戻ってみると、意外な人物が僕を待っていた。
本物の中村さんだった。




