戦闘訓練(改)
変化の術の訓練を手探りで進めているうち、僕は別の能力を身につけた。
最初は幻影を生み出すだけの力だと思っていたのだけれど、今では幻影を実体化できるようになっている。
裸の美少女を実体化させてみたところ、ジャンヌに見つかって怒られた。
それ以降、人間の肉体を実体化させることは控えている。
近頃は、実体化させた魔物を相手に戦闘訓練している。
僕の能力で生み出した魔物は、心は持っていないけれど、思考能力はあり、訓練の相手として役に立つ。
実体化させた魔物をジャンヌ派の仲間に見せたところ、皆、これで訓練することを希望した。
アスカとユイは既に強力な魔物を相手にできる実力があるが、他の者は実力も経験も足りない。
そこで、最初は弱い魔物を相手に経験を積ませ、徐々に強い魔物と戦わせることにした。
将来的には、RPGのようなレベル分けの仕組みを構築するつもりだけど、今はまだデータが足りない。
土曜日の午後、ジャンヌ派の主力メンバーを連れて、僕の実家に行った。
僕と一緒に来たのは、ジャンヌ、ジェシカ、アスカ、ケイン、ジョルジュの計五人。
これから、敷地内にある練習場で人造の魔物相手の戦闘訓練を行う。
「ジョルジュ、やってみるか?」
「おお。やったるわい」
僕はスライムを一体、実体化させた。
僕が助言する前に、ジョルジュは練習用の木剣でスライムに切りかかった。
スライムは不定形の生物で、打撃や斬撃でダメージを与えることはできない。
何度か切ってみて、ジョルジュも分かったようだ。
ジョルジュは火属性の魔法を木剣にまとわせた。
確かに火はスライムの弱点の一つだけれど、木剣に火属性の魔法をかけるのはどうかと思う。
木剣は燃え上がり、火がジョルジュの手に近いところまできている。
数分後、ジョルジュはスライムを退治できた。
少し火傷していたので、回復魔法をかけてやると、ジョルジュは泣いた。
「お、俺は今、猛烈に感動している」
そして、僕に抱きついてきた。練習とはいえ、初めて魔物を退治をできて嬉しいのだろう。
気持ちは理解できる気もするけど、ジョルジュに抱きつかれるのは暑苦しい。
僕はジョルジュの進行方向を少しずらし、ケインに抱きついてもらった。
ケインは困った顔をしているが、僕は気づかないふりをした。
その後、ジャンヌとジェシカもスライム相手に戦った。
二人はジョルジュの戦いの様子を見ていたので、本物の剣を使い、剣に火属性魔法をかけて、無難に勝った。
ケインは木剣でゴブリン五体を倒した。
アスカは火魔法でワイバーンを撃ち落とした。
ユイは訓練相手としてストーンゴーレムを希望した。
「ユイ、本当にいいのか、ゴーレムで?」
「ああ、杖なしで勝ってみせる」
ユイは『闇の杖』を使わずにストーンゴーレムを倒した。
けれど、やはりユイは戦いの後で血を吐いた。
ユイには別の訓練方法を用意するべきかもしれない。出来ることなら、呪いの影響をなくすか、軽くしてあげたい。
そのためには、杖の呪いについて、よく知る必要がある。
ユイに回復魔法をかけながら、僕はユイに何を言おうか考える。
そして、
「ユイ、君の体を解析させてもらっていいか? 呪いの影響を軽くする方法を考えたいんだ」
「分かった。調べてみてくれ」
僕は右手をユイの胸の近くにかざし、ユイの体内のエネルギーの流れを観察した。
普通、疲れた人の体力が回復する際、自然と魔素も回復するものだけど、ユイの場合、魔素形成の途中で小爆発が起こり、回復が阻害されている。
小爆発で失われる魔素は、本来の回復分の約半分。これでは、回復魔法の効きが悪いはずだ。
多分、この程度のことは、既に医師の診察で分かっていることだろう。
「ユイ、状況は分かったけれど、すぐには解決できない。いい方法があるか、考えてみるよ」
「よろしく頼む」
暫定的な対処として、体内での魔素生成を抑止する魔法術式を作った。
ユイの許可を得て、ユイに魔法をかける。
試しに、ストームゴーレムを実体化させて、ユイに倒してもらった。
今度は、魔素回復時にユイが小爆発でダメージを受けることはなかった。
ただ、魔法の結果、魔素が自然回復しなくなったので、魔法かマジックポーションで魔素を回復させることになる。
今回は僕が魔法でユイの魔素を回復させた。
「ユイ、不便だけど、当分の間、これで我慢してくれ」
「ありがとう。今までに比べれば天国だよ」
その後、僕もストーンゴーレムを相手に戦った。
今回は、身体強化魔法だけを使い、純粋に徒手格闘で倒した。
当分はストーンゴーレムを相手に、戦い方のレパートリーを増やしていこうと思う。
2019年3月10日、土曜日に実家で訓練することの説明と、ユイへの暫定対処の記述を追加しました。




