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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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滅びの予感

過去編を一回、入れます。

リフカやシゲンの時代、アルダランは北半球のアルスラ大陸にあるという設定です。

 数年ぶりに、アレク・ゲイルになった。

 まだ、意識は半ば、アレクのままだ。


 今、私は王宮の庭に座っている。光術師のシゲンとしての意識が戻ってくる。

 向こうから、私の憧れの人で上司でもあるリフカ様がやってくる。

 いつもと違い、厳しい表情。御前会議の結果が思わしいものではなかったのだろう。

 私に気がついていない様子だ。


「リフカ様」


「シゲン。夢をみていたのですね」


「はい。アレクになっておりました」


「どうしてましたか、未来のおまえは?」


「影の術を学んでいました。独学で第二段階まで進んでいます」


 影の術とは、自身の分身を作る技だ。第一段階は幻影を見せるだけ、第二段階の影は実体を持ち、第三段階になると影自身が心を持つ。

 私はリフカ様から『影の技』を伝授され、第三段階を習得しつつある。


「独学で第二段階とは、たいしたものです」


「ところで、リフカ様、会議の方はどのようなことになったのでしょう?」


「そうですね、喉が渇きました」


 詳しいことはリフカ様の執務室で話す、ということだ。

 私は立ち上がり、リフカ様の後をついていく。



 リフカ様の執務室。テーブルをはさんで、私はリフカ様と向かい合わせに座った。

 この部屋には結界がはられており、誰かに会話の内容を聞かれる心配はない。


「シゲン、(いくさ)になりますよ」


「南の大陸と、ですね」


「そうです」



 現在、南の大陸には、魔獣を使役する人たちが住んでいる。

 角の生えている人や獣のような耳の人が多いとされているが、それらの特徴を持たない人もいるそうだ。


 北の大陸には、南の大陸の人達に対する差別意識を持つ者が多い。

 我が国アルダランも例外ではない。


 アルダランは神話の時代から存在する国で、大国意識がある。

 南の大陸について、大抵の国民は遠方の後進国と認識している。


 でも、一族の者の中には南の大陸に行った経験のある者が何人かいて、リフカ様に情報が伝わっている。

 リフカ様は、南の大陸の人達の武力がアルダランの数倍と推定している。



「この先、どうなるのでしょうか?」


「分かりませんが、滅びの予感がします。大変なことにならなければよいのですが」


「『風の一族』としては、どう動くのが良いでしょう?」


 現在、一族の者の多くはアルダランに仕えているが、世襲の家臣ではない。

 今後の状況によってはアルダランを去るのも選択肢の一つだ。


「私は、族長として一族の未来に責任があります。一族の者ができるだけ多く生き残ることができるようにしなければなりません」


「……」


「シゲン、この地を去る準備を始めてください。主な者には私から伝えます」


「はい」



 私はリフカ様の執務室を出た。

 戦になる前にアルダランを出ていかなくてはならない。

 行き先については、今後、リフカ様から指示されることになる。


 一族の伝承によれば、一族の始祖『風のラファエル』が現れる前、一族の先祖は人間たちの夢の中に隠れ住んでいたそうだ。

 でも、現在、一族の者で、夢の中に永住できる能力を持つ者はいない。


 異世界に逃れることになるのかもしれない。

 異世界のことを、私からリフカ様から教えられていた。私と知り合う前、リフカ様は異世界に転移する方法を偶然に見つけ、異世界の女王と親交を結んだそうだ。



 おそらく、リフカ様はアルダランに残るつもりだろう。

 私と知り合う前、リフカ様は王女殿下と共に辺境を旅して、生涯の友となることを誓った。リフカ様は親友を裏切ることはしない。


 私は、拉致(らち)してでもリフカ様をアルダランから連れ出すつもりだ。

 後で叱られることだろうし、絶縁されるかもしれないけれど、私はリフカ様に生き残ってほしい。連れ出すことが出来ないならば、一緒に死ぬ覚悟だ。

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