アレク、仲間を増やす
一月十二日(火)、ユイが女子用の制服で登校したことで学内は大騒ぎになった。
ユイは女子に人気があったから、ショックを受けた者も多かったと思う。
ユイは貴族派を抜け、ジャンヌ派に入った。
それによって、1年1組の貴族派のメンバーは五人となった。
1年1組の貴族派のリーダーの求心力は、武術大会のクラス代表決定戦で敗れたことで大きく低下。
貴族派の残り五人のうちの二人が、既にジェシカを通じてジャンヌ派への加入を希望してきている。
この日の昼休み、事件が起こった。
1年1組の貴族派のリーダー、ジョルジュ・クレールが、他のクラスの貴族から馬鹿にされたのだ。
僕はその現場を見ていないが、ジョルジュは相手に殴りかかる寸前だったらしい。
放課後、寮で武術大会の作戦会議を行った。
ジェシカの集めたデータを確認したところ、1年1組の貴族派チームよりも強そうなチームは存在しなかった。
「こうして他のチームのデータを見ると、ジョルジュ達のチームは強かったんだな」
「そうね。ねえ、アレク。悪そうな顔してる。なに考えてるの?」ジャンヌが言った。
「ジョルジュ達を武術大会に出したい」
皆、驚いた顔だ。
「私たちの出場権を譲るの?」
「そうじゃない。そんなことをしても、ジョルジュは受け入れない」
「じゃあ、どうするつもり?」
「強いチームが出場できるよう、ルールを変える」
それから、僕はジャンヌたちに僕の考えを説明した。
パフューム公爵は、軍学校の校長と理事長に強い影響力がある。一つのクラスから二つのチームを本戦に出場できるように圧力をかけてもらう。
「そんな無茶なルール変更が通るかしら?」
「敗者復活戦の勝者を本戦に参加させる程度の変更なら、通るかもしれない」
「父に頼んでみるわ。でも、期待しないでね」
「ジャンヌ、恩に着る」
作戦会議の後、僕は寮の別の階にあるジョルジュの部屋に行った。
「ジョルジュ、話がある」
「俺は、ない。誰とも話したくない気分なんだ」
「おまえ、馬鹿にされたままでいいのか?」
「なんだと?」
ジョルジュの顔が赤くなった。
「同じ1組の人間が馬鹿にされたんだ。俺は猛烈に怒っている。侮辱されて決闘を申し込みもしなかった、おまえにも」
ジョルジュが目を伏せた。
「アレク、俺はどうしたらいいんだ?」
「武術大会の本戦に出て、名誉回復するんだ!」
「無茶いうなよ」
「おまえの兄貴、学生自治会の会長だよな。兄貴に敗者復活戦の実施を提案したらどうだ?」
校内武術大会は学校行事だけど、運営には学生自治会も参画している。
ジョルジュの兄の意見は無視できないだろう。
「兄貴一人じゃ、ルールは変えられないよ」
「おまえ、××ついてるのか? 無理を通そうとするのが男ってもんだ!」
もはや理屈ではない。だが、ジョルジュのような脳筋タイプには心に響くはずだ。
ジョルジュが顔をあげ、僕の目をみた。
「そうだな。なにもしないよりはましだな。それに、アレク、もしかして、もう何かしてくれてるのか?」
「ああ。丸投げだけどな」
「アレク、おかげで元気が出たよ。恩に着る」
「気にするな、仲間だろ」
「お、おう」
いつのまにか、ジョルジュが仲間になった。




