英雄の条件
寮の入り口まで自転車を持ってくだけのつもりだったけど、まだ外出規制勧告が解除されていないことを思い出した。
僕は隠形の術でユイと僕の姿を隠し、ユイを家まで送った。流星号は僕が引いた。
「ここまで来たんだから、寄っていってくれよ」
「ああ、お言葉に甘えるよ。ちょっと訊いておきたいこともあるし」
玄関でメイドさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま。こちらは同級生のアレク・ゲイル。応接室に二人分のお茶を」
「かしこまりました」
応接室で、低めのテーブルをはさんでユイと向かい合わせに座った。
忘れないうちにユイに質問することにする。
「ユイ、君の使っていた杖、あれは『七つの剣』なのか?」
「そうだよ」
「実は、俺も『七つの剣』とされているものを持っているんだ」
そう言って、僕は『風の剣』をユイに見せた。
「さわらせてもらっていいか?」
僕はユイに短剣を手渡した。
ユイは、両手で短剣を持ったまま、五秒ほど固まっていた。それから、僕に風の剣を返した。
「強い力を感じた。僕が使えば呪われるんじゃないかと思う。アレク、君はそれを使って何ともないのか?」
「今のところは。ただ、俺は剣の力を完全に解放したことはないんだ。君があの杖を使うのと同じようにしたとき、どうなるかは分からない」
「それで、僕に何を訊きたいんだい?」
「英雄の条件について何か知ってるなら、教えてもらいたい」
「『七つの剣』に所有者だと認めさせた者。それが英雄だ。まず、剣に訊いてみることだよ」
「そうか。じゃあ、やってみるよ」
僕は立ち上がり、両手で『風の剣』を持ち、詠唱した。
「風のラファエルの名の下に命じる。風の剣に宿る精霊よ、姿を現し、我の問いに答えよ」
その瞬間、周りの空気が変わった。清浄な魔力が満ち、僕の目前に小柄な老人が現れた。
「ようやく、わしを呼び出してくれましたな。我が主よ」
「風の剣の精よ、俺を主と認めるのか?」
「承認する。これでよいか? わしは寝ていたいんじゃ」
「待て。まだ訊きたいことがある。『闇の杖』のことだ」
「あやつも、そこにおるようですな。で、何を訊きたい?」
「あまえは『闇の杖』の呪いを解除できるか?」
「わしでは無理だ」
「では、俺が『闇の杖』の所有者として認められれば解除できるということだな?」
「そうだ。だが、あやつは気難しい。すぐには認められまいよ」
「ありがとう。ゆっくり休んでいてくれ」
風の剣の精は姿を消した。
「意外に簡単だったな」僕はユイに言った。
「剣の精って、初めて見たよ」
「闇の杖の精は気難しいらしいけど、試してみよう。ユイ、杖を出してくれる?」
ユイが呪文詠唱し、『闇の杖』を異空間から取り出し、僕に手渡した。
僕は詠唱した。
「闇の女王イルマ・カルナーの名の下に命じる。闇の杖に宿る精霊よ、姿を現し、我の問いに答えよ」
その瞬間、周りの空気が重くなった。僕の目前に妖しげな美女が現れた。
「あら、いい男ね、まだ子供だけど」
「『闇の杖』の精か?」
「そう言う人もいるわね」
「闇の杖の精よ、俺を主と認めるか?」
「素質はありそうだけど、まだまだね。修行して出直してらっしゃい」
「分かった。もっと強くなったら、また呼び出すことにする」
「それと、もっと形式を大事にね。お供物、何も用意してないじゃないの」
「次からは気を付けるよ」
闇の杖の精は姿を消した。
「ユイ、悪かったな。呪いを解除できなくて」
「あやまらないで。アレクのおかげで希望が出たわ」
「杖の精に認めてもらえるよう、頑張るよ」
「それにしても、アレクは凄いね。僕の性別が分かっても態度が変わらない」
いや、最初から女としか思えなかった。でも、そんな本音は本人には言えない。
「これからも男で通すのか?」
「さあ、どうかしら」
その翌日、ユイは女子用の制服で登校してきた。




