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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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英雄の条件

 寮の入り口まで自転車を持ってくだけのつもりだったけど、まだ外出規制勧告が解除されていないことを思い出した。

 僕は隠形(おんぎょう)の術でユイと僕の姿を隠し、ユイを家まで送った。流星号は僕が引いた。



「ここまで来たんだから、寄っていってくれよ」


「ああ、お言葉に甘えるよ。ちょっと訊いておきたいこともあるし」



 玄関でメイドさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま。こちらは同級生のアレク・ゲイル。応接室に二人分のお茶を」


「かしこまりました」



 応接室で、低めのテーブルをはさんでユイと向かい合わせに座った。

 忘れないうちにユイに質問することにする。


「ユイ、君の使っていた杖、あれは『七つの剣』なのか?」


「そうだよ」


「実は、俺も『七つの剣』とされているものを持っているんだ」


 そう言って、僕は『風の剣』をユイに見せた。


「さわらせてもらっていいか?」


 僕はユイに短剣を手渡した。

 ユイは、両手で短剣を持ったまま、五秒ほど固まっていた。それから、僕に風の剣を返した。


「強い力を感じた。僕が使えば呪われるんじゃないかと思う。アレク、君はそれを使って何ともないのか?」


「今のところは。ただ、俺は剣の力を完全に解放したことはないんだ。君があの杖を使うのと同じようにしたとき、どうなるかは分からない」


「それで、僕に何を訊きたいんだい?」


「英雄の条件について何か知ってるなら、教えてもらいたい」


「『七つの剣』に所有者だと認めさせた者。それが英雄だ。まず、剣に訊いてみることだよ」


「そうか。じゃあ、やってみるよ」



 僕は立ち上がり、両手で『風の剣』を持ち、詠唱した。


「風のラファエルの名の下に命じる。風の剣に宿る精霊よ、姿を現し、我の問いに答えよ」



 その瞬間、周りの空気が変わった。清浄な魔力が満ち、僕の目前に小柄な老人が現れた。


「ようやく、わしを呼び出してくれましたな。我が(あるじ)よ」


「風の剣の精よ、俺を主と認めるのか?」


「承認する。これでよいか? わしは寝ていたいんじゃ」


「待て。まだ訊きたいことがある。『闇の杖』のことだ」


「あやつも、そこにおるようですな。で、何を訊きたい?」


「あまえは『闇の杖』の呪いを解除できるか?」


「わしでは無理だ」


「では、俺が『闇の杖』の所有者として認められれば解除できるということだな?」


「そうだ。だが、あやつは気難しい。すぐには認められまいよ」


「ありがとう。ゆっくり休んでいてくれ」


 風の剣の精は姿を消した。



「意外に簡単だったな」僕はユイに言った。


「剣の精って、初めて見たよ」


「闇の杖の精は気難しいらしいけど、試してみよう。ユイ、杖を出してくれる?」


 ユイが呪文詠唱し、『闇の杖』を異空間から取り出し、僕に手渡した。


 僕は詠唱した。


「闇の女王イルマ・カルナーの名の下に命じる。闇の杖に宿る精霊よ、姿を現し、我の問いに答えよ」



 その瞬間、周りの空気が重くなった。僕の目前に妖しげな美女が現れた。


「あら、いい男ね、まだ子供だけど」


「『闇の杖』の精か?」


「そう言う人もいるわね」


「闇の杖の精よ、俺を主と認めるか?」


「素質はありそうだけど、まだまだね。修行して出直してらっしゃい」


「分かった。もっと強くなったら、また呼び出すことにする」


「それと、もっと形式を大事にね。お供物、何も用意してないじゃないの」


「次からは気を付けるよ」


 闇の杖の精は姿を消した。



「ユイ、悪かったな。呪いを解除できなくて」


「あやまらないで。アレクのおかげで希望が出たわ」


「杖の精に認めてもらえるよう、頑張るよ」


「それにしても、アレクは凄いね。僕の性別が分かっても態度が変わらない」


 いや、最初から女としか思えなかった。でも、そんな本音は本人には言えない。


「これからも男で通すのか?」


「さあ、どうかしら」



 その翌日、ユイは女子用の制服で登校してきた。

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