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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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杖の呪い

 ユイが気を失ったのを見て、僕はすかさず、ユイに回復魔法をかけた。少し効き目が薄い気がするが、命に別状はなさそうだし、調べている余裕はない。

 回復魔法の後、覚醒魔法をかけるとユイが意識を取り戻した。


 そろそろ、軍の魔物退治部隊がこちらに来る頃だ。

 軍学校の学生には、不要な外出を控えるよう、指示が出されている。

 軍に見つかるわけにはいかない。


「ユイ、撤収するぞ」


「ああ。僕の荷物を頼む」


「まかせろ」


 アスカがユイの自転車を引いてきた。

 僕はユイをお姫様抱っこした。


「おい、やめろ。歩ける!」


「恥ずかしがることないぞ。俺は、しょっちゅう、アスカに同じことされてる」


 それでもユイが嫌がるので、仕方なく、僕はユイを降ろし、隣に立たせた。

 隠形(おんぎょう)の術を使い、ユイと僕の姿を隠した。アスカも同じようにした。


 さて、どうするか。



「ユイ、訊きたいことがある。寮で話そう」


「分かった。もう、話さないわけにはいかないな」


「アスカ、寮まで頼む」


 アスカがユイと僕を連れて瞬間移動した。移動先はアスカの部屋だ。

 瞬間移動したことによって、隠形の術は解けてしまっている。姿を隠したまま瞬間移動できれば便利なのだけど、術式が複雑になり、アスカでも出来ない。


 到着後、すぐにユイの制服を魔法で綺麗にした。


「ありがとう」


「気にするなよ。俺が勝手にやったことだ」


「アレクは優しいな。惚れてしまいそうだ」ユイは笑った。



 まずい。僕は、この笑顔に弱いんだ。

 ユイのペースに巻き込まれる前に本題に入ろう。



「ユイ、事情を訊きたい」


「他言無用で頼む」


「了解した。ゲイルの名に懸けて誓う。ジャンヌ達も同席していいか?」


「婚約者と将来の側室たちだな。秘密を守ると誓ってくれるなら、構わない」


「アスカ、ジャンヌとジェシカを呼んできてくれ」



 ジャンヌ、ジェシカ、アスカがそれぞれ、家名に懸けて秘密厳守を誓った。



 ユイが話し始めた。


「これから話すことが真実であることを、ダヴェンポートの名に懸けて誓う。アレク、『英雄の介添人』について話したこと、覚えてるか?」


「ああ」


「僕が使っている『闇の杖』は、ダヴェンポート家の始祖が『風のラファエル』から授かり、魔王との戦いで使ったものとされている」



 その後、ユイが語ったことの要旨は、次のようなことだ。


 魔王との戦いの後、ダヴェンポート家の当主は代々、カルナーの王家に仕えている。

 ダヴェンポート家の表向きの役割は文官だが、裏の役割として魔物退治を行っていた。

 ただ、時代が下るにつれて、杖の力を使えない者が増え、何代か前から裏の役割を果たしていない。

 ふとした偶然から、ユイは『闇の杖』の力を使えることを自覚し、密かに魔物退治を行っていた。



 そこまで話したところで、ユイはため息をついた。そして、


「アレク、僕に回復魔法を使ったとき、何か気付かなかった?」


「効き目が薄い気がした」


「『闇の杖』の呪いだよ」


「呪い?」


「最近、父から聞いたんだけど、英雄に無許可で『闇の杖』を使うと呪われるそうだ」


「どういう呪いなんだ?」


「体力や魔力が回復する際に心身が痛むんだ。心と体の両方が削られる感じ、といったら想像できるかな」


「そこまで分かっていて、なぜ、魔物退治を続けてるんだ?」


「分からない。戦いたいわけではないんだ。もしかしたら、英雄の介添人としての義務感かもな。呪いといっても、命まで取られるようなものではないようだし、僕は続けるつもりだ」


「わかった。俺はとめない。でも、手伝うからな」


「命がけだぞ。いいのか?」


「ユイとは別の理由だが、俺は魔物と戦うことにしている。魔王と戦う覚悟もできてるつもりだ」


 ユイは一瞬、あっけにとられた表情をして、次に笑顔になった。


「アレクが仲間なら心強いよ。よろしく!」


 ユイが僕の肩をたたき、軽くハグした。



「ボクも戦うよ」


「私も手伝うわ」


「兄貴、ついていきます」


 手伝ってくれる気持ちはありがたいが、ドラゴンのアスカはともかく、ジャンヌとジェシカは戦力にならない。


「ジャンヌ、ジェシカ、魔物退治は危険だ。君たちはやめた方がいい」


「ええ。今の私たちでは足手まといなのは分かってる。でも、今まで以上に頑張って強くなります」


「兄貴、ジャンヌ様と一緒に強くなります。だから手伝わせてください」



 前世で剣だけが友達だったことを思うと、今は恵まれている。

 思わず、涙ぐみそうになる。


「アレク、なに泣いてんだよ。かわいいな」


 ユイが素早く僕の唇にキスした。

 ジャンヌの目が怒っているが、これは不可抗力というものだ。



「じゃあ、また明日」


 ユイが自転車を引いて出ていこうとする。


「自転車、入り口まで俺が持つよ」


「流星号だ」


「ユイ、お前、自転車に名前つけてるのか?」


「そうだよ」


 ユイの顔が赤くなった。


 それにしても、『流星号』か。この名前で僕が思い出すのは、二十世紀の日本のSFアニメ『スーパージェッター』だ。主人公が使っているエアカー型のタイムマシンがこの名前だったはずだ。

 僕は思わず吹き出してしまい、ユイに(にら)まれた。

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