アレク、キスされる
僕と武術大会予選で戦った翌日から三日連続で、ユイは学校を休んだ。
ユイは自宅から通学しているため、僕にはユイの状況は分からない。
ユイのことは気になっているが、親しいわけではないし、特に何のアクションも起こさずにいた。
土曜日の朝、ゼピュロス商会の仕事のために祖父の店に向かう途中、偶然、ユイが公園の入り口付近にいるのを見かけた。
ユイの目の前には三脚型のイーゼルがある。絵を描いているのだろう。
僕が声を掛けようか迷っていると、ユイも僕に気付いた。
僕は軽く手を上げ、ユイに近づく。
「やあ、ユイ」
「おはよう、アレク」
「元気そうだな」
「ああ、ずる休みだ」
「そうなのか。三日も休んだから気になってたよ」
「僕は病弱で、怠け者でもあるんだ」
「威張って言うことかよ」
「はは」ユイが小さく笑う。
「ところで、どんな絵を描いてるんだ? 見てもいいかい?」
「構わないよ」
「抽象画かあ。多分、巧いんだろうけど、俺には何を描いてあるかも分からないよ」
「風景画のつもりなんだけど、分かりにくいみたいだね」
「俺には芸術的センスはないみたいだ」
数秒の沈黙。
「心がない」と、ユイ。
「え?」
「昔、言われたことがあるんだ。僕の絵は、巧いけれど、心がないんだそうだ。僕もそう思う」
「気にしてるんだね」
「そうだな。で、君の用件については、断る」
「まだ何も言ってないぞ」
「勧誘だろ」
「察しがいいな。武術大会、一緒に出ないか?」
「興味がない」
「何故だよ、あんなに強いのに?」
「僕の剣には心がない。そういうことだ」
「俺は、ユイと戦ってるとき、楽しかったぞ」
「ああ。僕もだ」
「じゃあ、なぜ?」
「僕には僕の事情がある。もう訊かないでくれ」
「分かった。この件は終わりにしよう。じゃあ、また」
「じゃあ、また。愛してるよ、アレク」
ユイが僕の額にキスした。
顔が熱くなった。多分、赤面しているのだろう。
ユイ・ダヴェンポート。こいつは苦手だ。




