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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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アレク、キスされる

 僕と武術大会予選で戦った翌日から三日連続で、ユイは学校を休んだ。

 ユイは自宅から通学しているため、僕にはユイの状況は分からない。


 ユイのことは気になっているが、親しいわけではないし、特に何のアクションも起こさずにいた。



 土曜日の朝、ゼピュロス商会の仕事のために祖父の店に向かう途中、偶然、ユイが公園の入り口付近にいるのを見かけた。

 ユイの目の前には三脚型のイーゼルがある。絵を描いているのだろう。



 僕が声を掛けようか迷っていると、ユイも僕に気付いた。

 僕は軽く手を上げ、ユイに近づく。


「やあ、ユイ」


「おはよう、アレク」


「元気そうだな」


「ああ、ずる休みだ」


「そうなのか。三日も休んだから気になってたよ」


「僕は病弱で、怠け者でもあるんだ」


「威張って言うことかよ」


「はは」ユイが小さく笑う。



「ところで、どんな絵を描いてるんだ? 見てもいいかい?」


「構わないよ」


「抽象画かあ。多分、巧いんだろうけど、俺には何を描いてあるかも分からないよ」


「風景画のつもりなんだけど、分かりにくいみたいだね」


「俺には芸術的センスはないみたいだ」



 数秒の沈黙。


「心がない」と、ユイ。


「え?」


「昔、言われたことがあるんだ。僕の絵は、巧いけれど、心がないんだそうだ。僕もそう思う」


「気にしてるんだね」


「そうだな。で、君の用件については、断る」


「まだ何も言ってないぞ」


「勧誘だろ」


「察しがいいな。武術大会、一緒に出ないか?」


「興味がない」


「何故だよ、あんなに強いのに?」


「僕の剣には心がない。そういうことだ」


「俺は、ユイと戦ってるとき、楽しかったぞ」


「ああ。僕もだ」


「じゃあ、なぜ?」


「僕には僕の事情がある。もう訊かないでくれ」


「分かった。この件は終わりにしよう。じゃあ、また」


「じゃあ、また。愛してるよ、アレク」


 ユイが僕の額にキスした。

 顔が熱くなった。多分、赤面しているのだろう。


 ユイ・ダヴェンポート。こいつは苦手だ。

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