初恋
僕が父に魔法を学びたいと言ってから数ケ月後、僕が六歳のときにスウが我が家にやってきた。
スウは、燃えるような赤毛と緑の瞳の少女だった。
初めて会った瞬間から、僕は彼女に魅せられた。初恋だ。
スウが僕の家庭教師になることが嬉しくてたまらない。
「よろしくお願いします、スウ先生」
「スウでいいわ」
「呼び捨ては、ちょっと気が引けます。スウさんか、スウ姉さんと呼んでもいいですか?」
「では、スウ姉さんで」
「はい。よろしく、スウ姉さん」
「よろしく、アレク様」
「先生なのですから、呼び捨てにしてください」
挨拶を済ませた後、スウが僕の魔力の測定を行った。両親も見守っている。
使ったが、スウは魔力測定機を使わず、僕の左手首を両手で包むようにして測定した。
「アレク、あなたは優れた魔法使いになれますよ」
母は驚き、以前に魔力測定した結果のことをスウに伝えた。
すると、スウは
「奥様、あまり知られてないことですが、現在の魔力測定機では検出できないタイプの魔力があるのです。アレク様には確かに魔法の素質があります」
スウは、地・水・火・風の四属性と光属性の魔法を使いこなしていて、教えるのも上手だった。
また、様々な分野についての知識が豊富で、僕はスウから学問的なことや雑学に類することまで教わった。
それにしても、スウのように優秀な人ならば就職先には困らなかったはずで、なぜ、小国の下級貴族に家庭教師として雇われることになったのか不思議だった。
「なぜ、スウ姉さんは家庭教師になったの?」
「秘密よ」
ある日、スウに訊いてみたところ、本当のことは教えてくれなかった。彼女は微笑んでいたけれど、寂しそうに見えた。
僕が九歳のとき、別れは突然に訪れた。
家族との旅行先で僕らは何者かに襲われ、スウは僕を守って死んだ。
襲撃者から逃れる際、僕は一瞬、高所で足がすくんだ。
そこを狙われ、僕をかばったスウは致命傷を負ったのだった。
負傷した直後、スウは攻撃魔法で襲撃者を倒し、そのまま動けなくなった。
「スウ姉さん!」
「ごめんなさい、危ない目にあわせて。多分、彼らの狙いは私よ」
僕は必死に回復魔法をかけ続けたが、血が止まらない。
「闇属性の魔法を受けてしまったわ。光属性の上位魔法なら治癒できるのだけど、私は魔力切れ。ここには私を治せる人はいないでしょう」
「僕ではできない?」
「ええ。もう少し細かい魔力制御ができるようになれば、あなたにも出来るのだけど、まだ無理ね」
それから、苦しい息の下、スウは僕に師として最後の教えを言い残した。
「あなたは、強さを求める気持ちが強い。それは長所でもあるけれど、強さを求めるあまり、闇に落ちないようにしてね」
「はい。言いつけを守ります」
「今まで、ありがとう。弟ができたみたいで楽しかったわ」
しばらくして、スウは意識を失い、うわ言を言い始めた。
「セレスは、夏になると、とても素敵よ。見せてあげたい」
それがスウの最期の言葉だった。
セレスが何を意味するかは分からなかった。
セレスという名前で僕が思い出すのは準惑星「ケレス(セレス)」だけれど、転生後の世界にケレスは存在しない。