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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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ユイ・ダヴェンポート

 ユイは僕との試合で降参の意思表示をした後、主審を務めていたビルゲン大尉に何か言って、この場を立ち去ろうとしているようだった。


「ユイ・ダヴェンポート、話がある」


 僕はユイの後ろから呼びかけた。

 ユイは振り返った。


「アレク、言いたいことは分かる。相手してやれなくて悪かった」


 そう言って、そのまま立ち去ろうとする。。


「待てよ! どういうことなんだ?」


「僕には僕の事情があるってことだ」


 ユイはハンカチを取り出し、ハンカチを口に当てて咳き込んだ。

 一瞬、赤いものが見えた気がした。血?


「おい、大丈夫か?」


「大丈夫。でもないな。アレク、ちょっと肩を貸してくれ」


 ユイが僕に「よりかかってきた。

 身長百七十二センチの僕より、ユイは数センチ低い。


「医務室に行くか?」


「いや、少し休めば大丈夫だ。教室に戻るよ」


 僕はユイに付き添って教室に戻ることにした。ビルゲン大尉にその旨を口頭で伝える。


「アレク、悪いな」


「気にするな。本当に医務室に行かなくていいんだな?」


「ああ」


 その後、僕らは黙って歩いた。


 不意にユイが声を出して笑った。


「アレクは優しいな。君のハーレムに入れてほしいくらいだ」


「なっ?」



 ユイが笑顔から真顔になった。


「優しいのはいいけど、君は人が()過ぎる。僕からの忠告だ」


 そう言って、ユイはハンカチを広げて見せた。ハンカチは白く、血の痕跡はない。


「……」


「もう大丈夫。アレク、ありがとう」


 ユイはしっかりした足どりで去っていった。



 その日の夜、僕はなかなか眠れなかった。

 ジャンヌを起こさないよう、こっそりとベッドを抜け出し、窓から外を見ていた。


 どれくらい、経ったのだろう。ジャンヌが起きて、僕に声をかけた。


「アレク、どうしたの?」


「昼間のことを考えていたんだ」


「ユイ・ダヴェンポートのことね?」


「ああ」


 僕はジャンヌに、ユイとの試合の後の出来事を話した。

 ただし、ハーレムについてのユイのセリフのことは言わなかった。



「あの人、本当に血を吐いたんじゃないかしら」


「そう思うか?」


「病気のことを同情されたくなかったんだと思う」


「俺も、その可能性が大きいと思う」


「でも、血を吐いてない可能性もあるわ。たとえば、アレクを混乱させて面白がってるとか」


「どっちにしても、素直じゃないな。悪い奴ではないと思うけど」


「あなた、彼のこと、随分と気になるようね」


「あいつの剣は美しいんだ。それに、なぜか分からないけど、一緒にいて落ち着く」


「仲間にしたいのね」



 ユイを仲間にしたいと考えたことはなかった。

 けれど、そう言われてみると、悪くない考えかもしれない。

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